第16回本格ミステリ大賞受賞作、 鳥飼否宇(とりかいひう)さんの『死と砂時計』が文庫化されました!
今作は〈ジャリーミスタン終末監獄〉という世界各国から集められた死刑囚を収容する監獄を舞台にした連作短編ミステリ。
死刑が決まった悪人たちが集う監獄で起こるのは、「なんで?!」「どうやって?!」と叫んでしまうような奇妙な事件の数々。
もう舞台設定だけで面白いですが、内容もしっかり面白いからタマラナイ。これは良い作品だ( ゚∀゚)
『死と砂時計』あらすじ
今作は全六編からなる連作短編集(プロローグ、エピローグを除く)。
両親を殺した容疑で〈ジャリーミスタン終末監獄〉に収容された青年アランと、収容所で最長老のシュルツが一緒に事件を解決いていく、という流れです。
終末監獄という舞台だけでも特殊なのに、起きる事件もまた特殊なんですわ。
1.「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
何もないところから物質を生み出せるというシャヴォ・ドルマヤン。
そして、傭兵として大量虐殺を繰り返してきたスグル・ナンジョウ。
この二人の人物が、独房の中で殺害されます。
シャヴォ・ドルマヤンは裸の状態で体を切り刻まれて。スグル・ナンジョウは喉をかっ切られて。どうやら同じ刃物で殺害されたらしいですが、凶器は見当たりません。
しかも現場は密室。出入り口は看守が見張っていましたし、独房には窓ひとつなく、コンクリートの箱のようなもの。
これだけでもかなり不可解ですが、もうひとつ大きな謎があります。
殺害した二人は、数時間後に死刑にされるはずだったのです。
完全な密室状態の独房でどうやって殺害できたのか?という王道の謎に加え、〈数時間後に死刑になる二人をなぜわざわざ殺す必要があったのか〉という謎が魅力的。
2.「英雄チェン・ウェイツの失踪」
厳重な警備を誇る〈ジャリーミスタン終末監獄〉から唯一脱獄に成功したチェン・ウェイツのお話。
この監獄では「体に埋め込まれたマイクロチップ」と「監視員による目」に二つのシステムによって囚人は監視されています。
まずチェンは①どうやってマイクロチップの管理から抜け出せたのか、ということ。
囚人にはマイクロチップが自身のどこに埋め込まれているの知らされていません。しかし脱獄できたということは、マイクロチップを取り出すことに成功した、ということになるのですが。一体どうやってチップの居場所がわかったのでしょうか。
そして第二に、チェンが脱獄した日は監視員の中でも最も屈強な男性が監視をしていました。しかもその日は満月で明るく、脱獄には不向きだと思われます。
チェンは、②なぜ脱獄がしにくそうな日を選んで脱獄したのか。
数々の謎も魅力的ですし、トリックというかアイデアが非常に面白いです。
物語の結末もかなり好き。
3.「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」
囚人たちの駆け込み寺だった監察官ジェマイヤ・カーレッドが、あと三日で退職、という時に殺された。
目撃者の証言から、容疑者はムバラクという囚人らしいことがわかった。
しかしムバラクは無実を訴える。彼曰く、カーレッドと言い争っている時に誰かがきて、脳天を殴られ気を失ってしまった。気がつけばカーレッドは死んでいた、らしいが……。
これもよくできたお話。犯人は誰か?という謎も良いですが、特に「動機」が好き。あと三日で退職、というのがポイント。
4.「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」
誰もが嫌がる墓穴掘りを率先してやるだけでなく、墓地で寝泊まりまでする変人ギャルポ。
そんなギャルポが、ソトホールという囚人の死体をシャベルで何度も突き立て、見るに堪えないほどグチャグチャにしてしまった。
しかも、ソトホールがいつも身につけていたという金の十字架が紛失しているのだという。
①ギャルポはなぜ死体をバラバラにしたのか。
②金の十字架はどこに行ったのか
というのがメインとなる謎。
これは滅多にお目にかかれないホワイダニット(なぜ、そんなことをしたのか)ですね。
私には解けるはずもありません。でも「なるほどねー、そういうパターンの同期もあるのかー」と関心。
なかなか強烈でした。
5.「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」
男性が絶対に入れない女囚居住区で、収監二年目のマリアが妊娠したという事件。
女医ライラの証言によっても、どう考えても妊娠することは不可能だという。
なぜマリアは妊娠することができたのか、というのがメインとなる謎。
ですが、ほほう。そうきますか。。という展開。見せてくれます。
6.「確定囚アラン・イシダの真実」
今作の主人公ポジションであるアラン・イシダの謎が解かれていくお話。
彼は両親を殺害した容疑で収容されたのですが、実際のところはどうだったのか?ということが語られていきます。
あんまり詳しくは言えないですけど、この物語はミステリというかエンタメ小説としてかなり面白いです。
アラン・イシダが死刑が近づいてくる描写とかこっちまでドキドキ。
えー!どうなっちゃうのー!と続きを気にさせる展開で最後まで一気読みさせておいて、あのオチです。
こんなの「うわああああ!」となりますわ。ミステリとしてというか物語としてのサプライズ。
強烈なの残すなあ!この後味好きだなあ!
というわけで、第16回本格ミステリ大賞受賞作の『死と砂時計』。個人的にもかなり楽しめた連作短編集です。
ミステリとしての面白さと、「終末監獄」という特殊な世界観が見事にマッチ。ミステリとしてだけでなく一連を通した物語までしっかり楽しめる申し分ない作品となっております。
全体的に見て、フーダニットよりホワイダニット(なぜ)とハウダニット(どうやって)を重視している作りも好きですね「殺人」「脱獄」「妊娠」などバラエティ豊かな謎の数々も魅力です。
そしてぜひ、あの最後を味わってほしいなあ。
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