舞台は今から20年あまり前のアメリカ、ピッツバーグ。
人種差別の問題が世間をにぎわせている中、主人公のボビーは自身に黒人の血が流れていることを隠して生きていました。
白人として暮らすボビーの前に、かつての友人アーロンが現れます。
彼は刑務所から出所したばかりで、以前とは打って変わって白人至上主義に変わっていました。
彼の前でも黒人の血が流れていることを隠して接するボビーですがアーロンが黒人の青年に暴行を与えるシーンに居合わせてしまいます。
そして友人だからと彼の逃走を手助けしてしまいました。
警察から自分自身が追われるのではないかと怯え、さらにアーロンやその他の白人至上主義の人々に自分に黒人の血が混ざっていることがばれるのではないかと怯え続ける日々の中、死んだと思っていた黒人である彼の父親が現れます。
アメリカが抱える人種差別問題に切り込む作品
作品の舞台は現在よりも20年ほど前ではありますが、日本に住んでいてもアメリカの人種差別問題は日々キャッチすることができます。
今作はそんな現在まで長く続く黒人差別について切り込んだ作品として世界中から注目を集めました。
主人公であるボビー、その友人のアーロン、ボビーの父親、さらにアーロンが被害を与えた青年が運び込まれた病院の医師といった主要なキャラクターたちがそれぞれに問題を抱えており、それは一人ではどうすることもできないような大きくて重たいものです。
物語自体はたった三日間での出来事のみを描いていますが、それが非常に濃厚で緊迫した空気が最後まで続いています。
読後はすっきりするようなものではありませんが、それだけこの物語が他人事ではないリアルなものに感じることでしょう。
作者のジョン・ヴァーチャー氏自身も黒人であり、はっきりと人種差別に対して立ち向かう姿勢が作風からも見えてきます。
タイトルの『白が5なら黒は3』の意味についてはあとがきで触れられていますので、ぜひ最後までお読みください。
現代社会にも通じる問題を描くクライムノベル
本作のメインのテーマは黒人に対する人種差別ですが、他にもアルコール依存や薬物依存などの犯罪についても描かれています。
アメリカではこれらの問題は年々深刻化しています。
そしてアメリカでは刑務所に一度入るとなかなか更生することができません。刑務所内での苛烈ないじめも重大な問題です。
差別はあってはならないものという考えが浸透しつつある現代でも、人と人とのごく小さな関わりの中では完全に差別をなくすことは難しいです。
なくすのではなく乗り越えることが大切ではあるものの、その乗り越えるための一歩も踏み出せない状況の中に生きている人が大半だということが本書を読めばわかるでしょう。
さらに貧困や母親との共依存などの問題も深堀りされており、アメリカだけではなく現代社会の闇を明確に浮かび上がらせています。
日本でも同様にこれらの問題は深刻です。
今作を読めば明確な打開策が見えてくるというわけではなく、ただただ暗く苦しい気持ちになってしまう方も多いでしょう。
ですが今作を読むことで考え方が変わるかもしれません。
日本ではアメリカのような激しい差別意識はないように思えますが、その分知らず知らずのうちに自分以外の何者かを差別をしている自分がいることに気づくはずです。
その原因を考えることこそが差別を乗り越える第一歩となることでしょう。
自身のアイデンティティについて考える時間を与えてくれる
本作は最初から最後まで一貫して黒人差別への怒りを全面に押し出しています。
日本に住んでいるとピンと来ないと感じるかもしれませんが、アメリカで起きている人種差別問題は黒人に対するものばかりではありません。
アジア人が殺害された事件もたくさん報道されています。
さらに実際に海外旅行でアジア人だからという理由で差別された経験がある方や、国内で海外からの観光客に対して差別的な考えを押し付けるシーンに遭遇した方も多いのではないでしょうか。
主人公のように自分に違う国や違う肌の色の血が流れていることを隠して生きている方もたくさんいます。
多様性を受け入れる考えが強まる中でも、このような差別意識を個人の中から消し去ることはできないのかもしれません。
ですがそんな中でどう生きていくか、自分自身とどう向き合っていくかを改めて考えさせられる、今この時代に生きていく中で必読の一冊です。
この機会にぜひ!(๑>◡<๑)
コメント