2017年「このミステリーがすごい!」で見事8位となった白井智之(しらいともゆき)『おやすみ人面瘡』。
白井智之さんといえば『人間の顔は食べづらい』や『東京結合人間』などの「特殊な世界観でのミステリ」がお馴染みなんですが、今回もその作風は変わらず。
というより、パワーアップしています。全てにおいて。
と言うわけで早速ご紹介させていただいのですが、
ここはあえて先に結論を言ってしまいましょう。
めっちゃ面白いです。
白井智之『おやすみ人面瘡(じんめんそう)』
まず今作の一番の特徴となるのは、特殊な舞台設定にあります。
それは、身体中に人の顔の形をしたコブが発症する病気『人瘤病(じんりゅうびょう)』が蔓延した日本、というところです。
そんな異常な日本で繰り広げられるのは、
宮城県仙台市の街にあるサービス店の従業員「カブ」「ジンタ」「ポッポ」たちを中心とした物語と、
問題だらけの学校に通う中学生「サラ」「クニオ」「ミサオ」「ウシオ」たちを中心とした物語。
この二つの物語が入れ替わりながら進められていき、それぞれの物語が少しづつ繋がりを見せていく、という構成をとります。
確かに、この構成自体は特に珍しいものではありません。
しかし「人瘤病が蔓延した日本」という特殊な舞台と組み合わさることによって、唯一無二の面白さを誇る作品となるのです。
全身に“脳瘤”と呼ばれる“顔”が発症する奇病“人瘤病”が蔓延した日本。人瘤病患者は「間引かれる人」を意味する「人間」という蔑称で呼ばれ、その処遇は日本全土で大きな問題となっていた。そんな中、かつて人瘤病の感染爆発が起きた海晴市で、殺人事件が起きる。
圧倒的な舞台設定の作り込み。
今作の最大のポイントである『人瘤病(じんりゅうびょう)』。何がすごいってこの特殊な病気の作り込みですよ。
このウイルスに感染してしまうとどうしようもできません。治療しようにも、切除しようとするとさらに増えてしまうんです。
さらに、
・ウイルスは感染者を脳死状態にさせない。
・コブには良性と悪性の2種類あり、良性なら本人の人格は失われないが、悪性であれば人格は破壊されてしまう。
・感染者が自分以外の人間の咳音を耳にすると、暴走して手がつけられなくなる。
などなど、これでもかってくらいに「人瘤病」の設定が深く細かく練られているのです。
正直言ってミステリー要素などなくても、この舞台設定だけでパニック小説としてグイグイ読むことができます。単純にストーリーも面白いですし、殺人事件は起きるまではミステリであることを忘れて夢中で読みふけっていました。
物語が3分の2を過ぎたあたりでようやく殺人事件が起きて、やっと「あ、これミステリ小説だったんだ」と思い出したくらいです。
・・・そう。
そうなんですよ。
物語の3分の2が過ぎるまで、ミステリ小説ではなくパニック小説なんですよ。
物語の中盤までは純粋に面白いパニック小説として読まさせて、終盤に差し掛かった瞬間に本格ミステリ小説へと変貌を遂げるのです。
この構成が見事でした。
中盤まではパニック小説として楽しく読ませながら「人瘤病がどういう病気か」というのを細かく刷り込ませ、終盤でやっとミステリの顔を見せたと思ったら今までの伏線をガバッと回収していく。
単純に楽しいと思っていた中盤までの物語にも全て意味があった事を思い知らされるのです。
こんな作品が面白くないわけがないでしょう(*`▽´*)
ひとたびウイルスに感染すれば、脳瘤の発生を防ぐ手立てはない。もっとも、人瘤病の感染者が、みなナオのように人格を失ってしまうわけでもない。
一口に人瘤病と言っても、病原体のウイルスには二つのタイプがある。俗に悪性ウイルスと呼ばれるミヤケI型と、良性ウイルスと呼ばれるミヤケⅡ型だ。この性質の違いが、患者の運命を大きく変えることになる。『おやすみ人面瘡』 P.36 より引用
全ては伏線に過ぎなかった……!
ところで先ほど「人瘤病」の設定をいくつか述べましたね。
感染者を脳死状態にさせない、良性と悪性がある、咳音を聞くと暴走する、などなど。
もちろん他にも細かい設定があるのですが、
その人瘤病の設定が、全てミステリに絡んできます。
つまり、人瘤病の一つ一つの特徴が全て伏線になっているということです。
やばいですよね、これ。終盤では「なるほど!」と何回心で叫んだことでしょう。
二転三転どころか五転六転くらいします。いや、もっとかも。
とにかく。
私が言いたいのは、最後の1ページまでミステリとして、そして小説としての楽しさを堪能させてくれる作品だったということです。
ミステリ好きならぜひ一読を。
というわけで、今回は白井智之さんの『おやすみ人面瘡』を簡単にご紹介させていただきました。
特殊な舞台設定のミステリってどうなんだろう?と思う方もいるかもしれないですが、ミステリ小説がお好きであればぜひ一読してみていただきたいですね。そうでなくても、単純にパニック小説としても面白いですし。
ただ、ミステリ小説を読み慣れている方なら大丈夫かと思いますが、「グロい」というか「痛々しい」というか、そんな感じのシーンがちらほらあります。
まあ我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病 (講談社文庫)』ほどではないので、そこまでご心配なさらずに(´∀`*)
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➡️【2017年/国内編】このミステリーがすごい!ベスト10紹介
どうぞ参考にしていただければ幸いです。それでは、良い読書ライフを(* >ω<)=3

コメント
コメント一覧 (3件)
こんにちは!
要望に応えて頂きありがとうございます。
はあーなるほど〜、ただ単に設定が奇抜というだけでなく、ミステリーとしても完成されてるんですね!
これはめちゃくちゃ面白そうですね。私はこういうぶっ飛んだ感じのもの大好きですので、ぜひぜひ読ませて頂きますm(_ _)m
ところで、白井さんはこれまで2作品出されているようですが、どれから読んだ方がいい、みたいなことはありますか?よければ教えて下さいお願いします。
pink moonさんこんばんは!
いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます(* >ω<) そうなんです。奇抜な設定が見事にミステリに絡んでいるんですよね〜!ぶっ飛んだ世界観がお好きならピッタリかと思います。お気に召して頂ければ嬉しいです。 そうですそうです。他には『人間の顔は食べづらい』『東京結合人間』の2作品があります。 シリーズ物でもないので読む順番とか関係ないですが、やっぱり『おやすみ人面瘡』が一番完成度が高かったかな〜って感じですね。 ただ3作品とも「ぶっ飛び設定でのミステリ」なので、どれから読んだ方がいい、っていうのはないですが、『おやすみ人面瘡』が気に入って頂ければ他の2作品も多分お好きなはずです 笑。
なるほどなるほど〜。
ではでは『おやすみ人面瘡』から読んでみます。
楽しみです♪