国内ミステリー小説

米澤穂信『栞と噓の季節』- 本に挟まれていた猛毒の謎を追う、図書委員シリーズ第二弾

高校で図書委員をしている堀川と松倉は、返却された本に栞が挟まれていることに気付く。

可愛らしい押し花をラミネートした栞で、個人の忘れ物のように思われたが、調べるととんでもないことがわかった。

その押し花は、猛毒トリカブトの花だったのだ。

しかもトリカブトは、あろうことか校舎裏で栽培されていた。

やがて、教師の一人が毒と思われる症状で救急搬送された。

学校内は騒然とし、恐怖と不安から体調不良を訴える生徒、登校を拒否する生徒が続出。

そんな時、堀川と松倉のもとに、猛毒の栞の持ち主を名乗る女子・瀬野が現れて―。

栞は本当に瀬野の私物なのか?

なぜ校内でトリカブトが栽培され、なぜ教師に毒が盛られたのか?

青春ミステリー「図書委員シリーズ」第二弾!

植物界最強の猛毒が図書室に

『栞と噓の季節』は、ベストセラーとなった『本と鍵の季節』の続編です。

前作は短編集でしたが、今作は待望の長編!

しかも著者の米澤穂信さんの直木賞受賞後の第一作ということで、注目を集めている作品です。

主人公は前作に引き続き、高校二年生の図書委員・堀川次郎です。

素直で人の言うことをすぐに真に受け、面倒な頼まれ事でも引き受けてしまうお人好し。

そして相棒の松倉詩門は、同じく高二の図書委員で、顔よし成績よし運動神経よしと三拍子揃っているけれど、ちょっぴり不器用な皮肉屋さん。

この二人が探偵役となって、身近で起こった様々な事件の真相を暴き、解決していくというのが「図書委員シリーズ」のあらましです。

身近と言っても決して簡単な事件ではなく、前作でも金庫や自殺、盗品といった重めのテーマが扱われていました。

そして今回のテーマはさらにずっしり重いテーマとなっていて、なんとトリカブト!

トリカブトと言えば、わずか3mgで人を死に至らしめるという、植物界最強の毒を持つことで知られています。

それが押し花の栞となって図書室で発見されたのだから、堀川も松倉も大慌て。

しかも校内で栽培されていた上、教師の毒殺未遂事件まで発生するというヤバすぎる状況。

このように重大で危険な問題を、果たして一介の図書委員に対処できるのか、ハラハラドキドキが止まらない内容です。

一体誰が何の目的でトリカブトを育てて、なぜ栞にして持ち歩いていたのか、その真相はかなり衝撃的となっています。

嘘から拡大していく事件

『栞と噓の季節』は、タイトル通り「栞」と「嘘」が重要なポイントです。

「栞」はもちろんトリカブトの栞のことで、「嘘」は事件の発端となっています。

まず前提として、生きていれば誰でも大なり小なり嘘をつくことがありますよね。

見栄のための嘘もあれば、自衛のための嘘、誰かを守るための嘘もあり、その形は人それぞれ。

そしてそれらが少しずつ積み重なり、複雑化したことが今回の事件につながったのです。

特に大きいのが、栞の持ち主だと名乗り出た美少女・瀬野の嘘。

嘘と言っても決して悪意あるものではなく、女性としての切り札であり、強さであり、優しさでもあります。

その嘘が事件をどんどん拡大させていくのですが、彼女がそれをどう乗り越え、どう変わっていくかが本書の真のテーマです。

現状やあるべき姿を自覚し、前へ進もうとする瀬野はとても魅力的で、読みながら応援したくなります。

ここは大きな見どころですし、『栞と噓の季節』の本当の主人公は瀬野かも、と思ってしまうくらいインパクトがあります。

でも瀬野だけでなく、実は堀川や松倉にも嘘や隠し事があったことが発覚するのです。

こちらも悪質なものではなく、お人好しの堀川らしい嘘と、責任感が強く慎重な松倉らしい嘘なので、読み手にとってはむしろ彼らの好感度がアップ!

堀川たちも同様で、嘘が発覚することでお互いへの理解を深め、結束を強めていきます。

こうして主要な人物たちが手を取り合って事件を解決させていくのですが、最後になんともビターな結末を迎えることになります。

前作もそうでしたが、ほろ苦いラストって、スッキリ爽快なラストと比べると心にモヤモヤを残すというか、良い意味で後を引くのですよ。

この影のある余韻、ぜひ最後まで読んで味わってみてくださいね。

きっと苦みが癖になり、「図書委員シリーズ」を、もっともっと好きになると思います。

人間関係の面白味が一層アップ

前作『本と鍵の季節』を読まれた方は、そのビターなラストシーンを知っている分、「堀川君と松倉君にまた会えて良かった~!」と喜びながら今作を読むことになるのではないでしょうか。

しかも短編集だった前作と比べると、今作は長編ということでキャラクターが一層深掘りされており、彼らの心情や価値観をより濃密に味わうことができます。

相変わらず二人の関係はベッタリではなく、多少距離を置いている感じなのですが、今作ではじんわり近付きつつあるシーンが増えており、そこがまた「良き!」だったりします。

エスプリの効いた軽口の応酬も、ますます磨きがかかっていますよ。

さらに新キャラクターの瀬野の登場で、人間関係の面白味が一段とアップ!

新キャラクターと言っても、実は瀬野は存在だけは前作から登場しており、学校内で「ずばぬけてきれいだけれど性格が悪い」と噂されている人物です。

もうこの段階で読み手は「どんなキャラクターなのかな?」と興味を持つわけですが、それがいよいよお目見えとなったのです。

しかも「クールな嘘つき美少女」という、なんとも絶妙な魅力を伴っているのでたまりません。

彼女にいろんな意味で翻弄される堀川と松倉を、どうかぜひ楽しんでください。

ということで、『栞と噓の季節』は前作からのファンには絶対に読んでいただきたい作品です。

初めての方でも問題なく読めますが、できれば前作を楽しんでからの方が、作品の魅力をよりしっかりと味わえるのでぜひ。

ABOUT ME
anpo39
年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)
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