米澤穂信『真実の10メートル手前』-高校生カップルの不可解な心中の真相は?太刀洗万智が活躍する6つの物語

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待ちに待った『真実の10メートル手前』の文庫化です。

本作は太刀洗万智(たちあらいまち)という女性ジャーナリストが活躍する短編が6つ収められています。

ミステリとしての質も高く、『さよなら妖精』で登場した彼女の成長ぶりも伺える本作。

面白いミステリが読みたい、米澤さんの作品が好き、という方に最適な一冊です。

ぜひこの機会に。

目次

『恋累心中』

桑岡高信と上條茉莉という、高校生の男女二人が遺体で発見された。

現場には二人の遺書が残してあり、心中したのだと思われる。

が、それにしては不可解な点があった。

 

遺書には『高信と手をつないであの世に行けるなら』という一文が書いてあった。

同じ場所で一緒に死のうと決めたと考えられる。

しかし、上條は崖の上、桑岡は川の中という別々の場所で発見されたのだ。

しかも遺書が書かれたノートの最後の方には、

「たすけて」

と殴り書きしてあった。

これは、本当に心中だったのだろうか。


『真実の10メートル手前』の中で一番ミステリらしいミステリしてる短編ですね。かなり好きです。

ただ読後感はよくないというか、やりきれない思いが残るので気持ちのいいものではありません。

でも米澤穂信さんの作品には、こういう胸に引っかかるようなビターな物語をがつきものだし、私もそれを求めているからいいのだけど……。

にしてもこの真相は心苦しいよなあ。

『ナイフを失われた思い出の中に』

十六歳の少年が三歳の少女を刺し殺す事件が起きた。

向かいのアパートの住人にも目撃されている。

窓越しにはっきりと、少年が大声をあげながら少女にまたがりナイフを突き立てていたという。少年自身も犯行を認めている。

何箇所も刺されていたが、死因は最初に加えられた心臓への一突きだと見られている。

非常に単純な事件。

そう思われたが、致命傷から繊維が発見されたことで事件は謎に包まれる。

少年の供述によれば、まず少女の服を脱がしてから何度も刺したという。

しかし致命傷から繊維が発見されたということは、まず服の上から心臓を一突きし、そのあと服を脱がして何度も刺したことになる。

なぜ、そんな面倒なことをしたのか。


これも傑作でしょう。

米澤穂信さんらしい一編です。

ただこの短編は、太刀洗万智の初登場作品『さよなら妖精』を読んでいたほうが楽しめます。『さよなら妖精』の後日談的な話ですので。

『綱渡りの成功例』

台風によって洪水と土砂崩れにあい、とある老夫婦が家に取り残されてしまった。

救出劇はテレビでも放送され、感動を呼んだ。

しかし救出後のインタビューでは浮かない顔をする老夫婦。

救助されるまでの三日間、息子が持ってきたコーンフレークを食べて生き延びたと言っていた。

太刀洗万智はそこに違和感を覚えた。


太刀洗万智の洞察力の鋭さがよくわかる一編。

救助された老夫婦が抱えていた後ろめたさをたった一つの質問で明らかにしてしまう太刀洗。超クールです。

ふつう気が付かないって。

後味は苦い。でもそこがいい。

このほか、表題作をはじめ、「正義漢」「名を刻む死」の計6編が収められています。

いずれも後味は苦いです。

けれど、米澤さんの作品の何が好きってそこなんですよね。

やりきれない想いが残って、事件は解決したのに心はスッキリしない絶妙な気分になる。

だけど気付かぬうちに、米澤さんにはそういう物語を求めている自分がいて、「ああ、苦いなあ」と思いながらも読み続けてしまう不思議な魅力があります。

その苦さは『氷菓』や『満願』にもよく現れていますが、『真実の10メートル手前』にはまたそれとは違った、特別な苦さがあるのでぜひ感じていただけたらと思います。

太刀洗万智の生き様を見よ

後味も好きですが、やはり本作一番の魅力は太刀洗万智という人間にあるでしょう。

先ほども述べましたが、太刀洗万智を知る上でも『真実の10メートル手前』を読む前に『さよなら妖精』を読んでいたほうがいいです。楽しさが変わってきます。

また、時系列的には『王とサーカス』という長編が先になるので、より太刀洗万智を知りたいのなら『王とサーカス』を先に読むことをオススメします。

さよなら妖精 (創元推理文庫)』→『王とサーカス』→『真実の10メートル手前 (創元推理文庫)』です。もちろんいきなり『真実の10メートル手前』を読んでも楽しめますけどね。

 

本作は本格ミステリを楽しもうとして読む作品ではないと思っております。

言うなれば、太刀洗万智小説。

提示される謎も伏線の回収も素晴らしいですが、フリーのジャーナリストになった太刀洗万智の生き様のほうに魅力を強く感じます。

本作を読めば、きっと太刀洗万智という人物を追いかけて行きたくなるでしょう。

ぜひ、シリーズを通して読んでいただけたらと思います。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 米澤穂信さんいいですよね、、、
    イラスト可愛らしいです!笑
    いっつも楽しくブログ拝見させてもらっています!
    頑張ってください!

  • テコンドーさんこんばんは!
    米澤穂信さんいいですよね〜。
    ほんとどの作品も面白いし、クオリティ高いし、読みやすいし。

    イラスト褒めていただいてありがとうございます!笑
    そしていつも見ていただけているようでとっても嬉しいです!
    頑張ります!(*>∇<)

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