野崎まど『死なない生徒殺人事件』-「死なない生徒」は、誰に、どうやって殺されたのか。

  • URLをコピーしました!

 

『死なない生徒殺人事件』というタイトルからもう引き込まれてしまいますよね。

その名の通り、死なない生徒が殺されてしまう事件を描いた作品です。

 

死なない生徒が死ぬ?どういうこと?

 

と疑問に思ってしまったら最後、もう読むしかありません。

野崎まどワールドに飛びこんで、その驚愕の真相を目にしましょう!

 

目次

1、簡単なあらすじ(500文字程度)

生物教師の佐藤は、教師という仕事にやり甲斐を感じ始めた28歳の時にリストラされてしまう。

どうにか再就職した佐藤が務めることになったのは、私立藤鳳学園という幼稚園から高校まで一貫して教育をしている女子校だった。

副担任を任された佐藤は、転入生である天名がクラスに馴染めていないのを感じ、相談に乗ることにする。彼女の口から出た言葉は「永遠の命を持つ生徒」という噂話だった。

生物学の教師として「永遠の命」という矛盾した存在について話す佐藤と天名の前に、自分こそが「永遠の命を持つ生徒」だという少女・識別が現れる。

佐藤は識別の言葉を考え「永遠の命を持つ生徒」の謎に迫ろうとする。

 

しかし、永遠の命を持ち死なないはずの識別が殺される事件が起きてしまう。

犯人が捕まらないまま時間が過ぎ、意気消沈する佐藤の前に「自分は識別だ」と名乗る生徒が現れる。

殺人事件前後の記憶を持たない識別は、自分を殺した犯人探しに協力して欲しいと佐藤に頼む。

「永遠の命」と殺人事件、矛盾だらけのミステリーに佐藤は直面することになった。

天名と協力しながら事件を追う佐藤が最後に見る真実は驚きのものだったーー。

死なない生徒は、死なない。

「永遠の命を持つ生徒」という絶対にありえない存在を確立することで、殺人事件と二重のミステリーを構築する世界観が秀逸です。

普通であれば「永遠の命」の謎についてだけで一冊分になりそうなものなのに、上手く世界観に溶け込ませることで殺人事件との両立を可能にしているのが非常に面白い作品です。

殺された本人が殺人事件を捜査するというあり得ない展開も、ライトノベルの要素を上手く生かしています。

女子校で殺人事件というとハーレムものなのかと思いがちですが、そういう展開はほぼなく「永遠の命」と「殺人事件」にきちんと焦点を絞って話が進んでいきます。

ストーリーも扱いが難しいテーマなのに難解になりすぎず、読みやすいものになっているのも嬉しいですね。

キャラクターが非常に個性的で、魅力に溢れた人物ばかり!

ライトノベルの面白さを失わずに、独創的なミステリーの世界を作り上げています。

主人公が教師という設定さえ上手に話に組み込まれていますからね。

印象的だったのはこの一文。

「教育の現界は、自分の事しか教えられないこと」(P217)

ある意味、この話の中心になる言葉です。

「教える」という難しさと凄さを考えさせられる内容に、ラノベとミステリーのバランスを上手に取りながら、ストーリーをきちんと終わりまで持っていっています。

最後に謎が解けたと思った後のどんでん返しには意表を突かれることになるでしょう。

ライトノベルと侮るなかれ

ライトノベルというジャンルの確立に多大な功績がある電撃文庫さんから派生したアスキー・メディアワークスの作品。

ライトノベルと普通の文庫の違いは曖昧なところがありますが、間違いなくラノベとして面白い内容に仕上がっています。

私個人の感想としては、本格はミステリーというより、SF要素を盛り込んだ謎解きに近い気が。

ラノベらしい個性的なキャラクターたちが「永遠の命」という、これまたラノベらしいテーマに迫っていく話にぐいぐい引き込まれました。

特に主役ともいえる識別の一言が痛快。

「私はね、自分が永遠の命を持っている事を君に信じてもらう必要は全く無いんだよ」(P67)

隠しておくべき秘密が明け透けに語られます。これほど印象的な自己紹介も珍しいですよね。

特にストーリー展開が秀逸で、ラノベとしての恋愛要素をうっすらと散りばめつつ、テーマーから目をそらさずに話が進んでいきます。

最終的にはすべての伏線が繋がり、ラストでは驚愕の真実が明らかになるという、飽きる暇がない構成が凄い!

ミステリーとは正反対に思えるテーマを上手く殺人事件と絡めていく手腕がさすがの一言。

難しい2つの謎を、読者に混乱させることなく物語が進んでいきます。

読み終わった後に、続きがどうなるか気になるミステリーというのも珍しいですよね。

ただのミステリーとしてだけではなく、人間についてよく考える切っ掛けになる興味深い作品でした。

「永遠の命」の真相をその目に

殺人事件というミステリーでよく扱われる事件を「永遠の命」というもう一つの謎で、一味違う事件にしている作品です。

事件のトリックを解明するというより「永遠の命」の秘密に迫っていくうちに、殺人事件も解決してしまいます。

本格ミステリーとは言いづらい作品ですが、それ以上に設定と世界観の面白さが目を引きます!

主人公を生徒ではなく教師にすることで、学園モノに対しても新鮮さが感じられます。

設定だけみるとラノベによくあるハーレムものを想像しますが全く違うのでご安心を。

学園自体が謎の一つに組み込まれた構成は読者を知らぬ間にミステリーの中に引き込んでしまします。

登場人物もキャラクターが濃い人ばかりですが、主人公が非常に常識的な人間として描かれているので読みやすい話になっています。

ラノベも好きだけど、ミステリーも好きという方はぜひ手にとってみてください!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (13件)

  • これも大好きな作品です!
    死なないっていうので惹かれて読みました。
    あと、これは先生が主役だけど、学校が舞台ってなんか惹かれてしまう要素の一つじゃないですか?
    ラノベでも完成度高いんだなー、みくびってたなって思ったきっかけかも!

    ちなみに、いま、少女たちの羅針盤を読んでます(笑)

    • すでに読まれてましたか!
      やっぱりタイトルで気になっちゃいますよねえ。
      そうそう、学校が舞台っていうのも好きな要素の一つです。やっぱりラノベはこういう作品ができるから面白い!

      あーいいですねー少女たちの羅針盤!私も好きですー(*´ェ`*)

  • いつも本を読む際、参考にさせて貰っています。

    ご紹介されている「死なない生徒殺人事件」ですが…

    「[映]アムリタ」→「舞面真面とお面の女」→「死なない生徒殺人事件」→「小説家のつくり方」→「パーフェクトフレンド」
    で独立したそれぞれの話があり

    「2」で上記の5作品の世界がシンクロして、一応完結していたりします。ご存知でしたら余計なお世話ごめんなさい。ご存知ないのであれば、お時間がある時に是非お読みになって下さいな。

  • 手持ち豚さん。さんこんにちは!
    いつも参考にしていただいてありがとうございます!

    「[映]アムリタ」→「舞面真面とお面の女」→「死なない生徒殺人事件」→「小説家のつくり方」→「パーフェクトフレンド」の流れなんですね!
    教えていただきありがとうございます(*´ェ`*)
    実は今年7月に発売した『バーナード嬢曰く』の4巻を読んでその事を知り、早く読まねばと思っておりました。
    早速読みますね!ありがとうございます!

    • 管理人さま。
      お返事ありがとうございます。

      発売は上記の矢印の通りですが、「2」以外は基本独立した話ですので、どこから読んでも問題ないかと思われます。
      (もしかしたら、後に発売された作品で[○○って事件・出来事があったらしいよ]みたいな、本編と関係のない触れ方をされていたかもしれませんが)

      とりあえず「2」だけは先に読んじゃダメだと思います。

      すいません…わたくしも結構前に読んだので、記憶が曖昧になっていますが…(&家に全書あるんですがどこに閉まったか?…で直ぐに確認出来ないです)

      今後又、他の本の紹介にコメントさせてもご迷惑ではないでしょうか?
      ご迷惑ではないのであれば、コメントさせて頂きたく思います。

      P.S.
      管理人さまはプロ野球に関心はございますでしょうか?
      関心がありましたら、そのジャンルで抜群に面白い作品を書かれるわたくし個人としてオススメの小説・作家さんが居るのですが…

  • 手持ち豚さん。さんこんにちは!
    なるほど、そうなんですね!詳しい順番を教えていただいてありがとうございます(´▽`*)

    プロ野球ですか!そうですね、正直今まで全く関心なく生きて来ましたが、抜群に面白い作品となるととても興味が湧いて来ます!
    どんな作品でしょうか?!

  • 興味を持って頂きありがとうございます。

    わたしは野球観戦狂って感じなので存分に楽しめましたが、管理人さまのようにプロ野球に興味がない方に世界観がわからないかも?と思ったりも…
    先に謝っておきますね。もし読まれて、合わなかったらごめんなさいです。

    まず著書の方ですが、本城雅人さんという作家さんです。(元スポーツ新聞の記者さんらしいです)

    あれ?聞いたことあるかも?と管理人さま…思われたかもしれません。はい、最近(今年でしたか昨年でしたか)直木賞候補にもなられました。(野球をテーマにした小説じゃないっぽいですが)

    以下、わたしの拙い語彙でですが、簡単に作品紹介させて頂きますね。

    個人的に一番オススメなのが「スカウト・デイズ」(長編)とその続編の「スカウト・バトル」(連作短編集)です。
    ~プロ野球のドラフト会議の前段階の有力アマチュア選手を如何にして球団として指名するか?というスカウト同士の駆け引きのお話です。(一言で言えばコンゲームですね)
    メインとなるのは某架空球団の敏腕ベテランスカウトと子分の新人スカウトです。
    やり取りの一例を挙げると、甲子園に出たら大注目される可能性のある子に“怪我してるので試合に出れません”と言わせて他球団からの注目されないようにして指名する。とか、“○○はいい選手だ”と雑談で他球団のスカウトに聞かせつつ、実は怪我を抱えていて戦力にならない選手を他球団に掴ませる…などなど…
    元スポーツ紙の記者さんなので、実は裏ではそんな悪どいことが行われているんじゃないか?と思わせるような内容です。
    しっかりと軸になるエピソードもあり、サイドストーリーもあり、ちゃんと最後には話が集約がされるカタチになっています。
    (たぶんモデルとなってるのは根本陸夫さんだと思いますが)
    (続編の「スカウト・バトル」には1作目「スカウト・デイズ」のネタバレががっつり入ってくるので、もし読まれるなら「スカウト・デイズ」からです)

    「球界消滅」
    ~上記の「スカウト・デイズ」「スカウト・バトル」と同じくらいオススメです。
    数十年前にあった球界再編問題がたぶん元ネタです。
    今もそうですが現実では、近鉄バファローズが無くなり、オリックスブルーウェーブに吸収合併されて、現在はオリックスバファローズとなっています。そしてその際に新規参入したのが東北楽天ゴールデンイーグルスです。
    ただ当時は、12球団から11球団になるなら[もっと球団を減らして8球団くらいにして、1リーグにしよう]なんて話もあったものです。
    その当時の混乱っぷりを架空の日本・架空の球団で[今後日本のプロ野球はどうなっちゃうの?]って話を、経営等の球団サイドの人間たち、選手の立場、ファンの願い、マスコミの報道などの別々の立場から「この先どうなるんだ?こうなって欲しい。こうしたい。」みたいな遣り取りがあって…さあ?最終的にどうなる?って話です。
    (あと架空のチーム名ですが、横浜ベイズこれは横浜ベイスターズだな、東都ジェッツこれは読売ジャイアンツだな…ってニヤニヤしながらシミュレーション出来たりします)

    以下は上記の3作品に比べたら個人的にはオススメ度は低くなりますが十分にオススメ出来る作品です。十分に面白かったです。
    「ノーバディノウズ」
    ~謎多き東洋系メジャーリーガー(スーパースター)の過去・生い立ち・何故謎多きなのか?そもそも何者?彼が心に抱えているさまざまなこととは?怪しい交友関係?…に迫っていくお話です。
    例えて言えばイチローが日本球界を経ず、メジャーリーグで急に活躍しました。→誰?日本人っぽい名前だけど本名は?経歴はどうなってるの?…それを解き明かししていくみたいな感じです。

    「去り際のアーチ」
    ~連作短編集です。プロ野球選手のエピソード、プロ野球解説者のエピソード。審判のエピソード。チケットを売るダフ屋のエピソード。オーナーのエピソード。などなどがゆるーく繋がります。連作といっても繋がりが弛いので、読み易いかもしれません。

    「ビーンボール スポーツ代理人 善場圭一の事件簿」
    ~今の季節にぴったりの話かもしれませんね。選手と代理人のW主演みたいな感じです。あるスター選手の代理人が、その選手のために如何にいい契約を取ろうかと奔走しているうち、その選手の過去の黒い噂がどんどん入ってきて…みたいな話です。
    (続編が出てるみたいなので文庫化待ちです)

    「嗤うエース」
    ~プロ野球の八百長問題の話です。ある選手が八百長をしていて裏で反社会勢力と関係があるんじゃないか?いやいやプロとはいえど、あんな絶妙に試合の勝敗や点差をコントロール出来るわけない!…そんな感じで彼を追って、掘り下げていくと…そんな話です。

    以上がわたしが読んだ本城さんの作品です。
    (安心して下さい。フィクションなので多少大袈裟です。裏社会とツーカーだったり、事件らしい事件はバシバシ起こりますし、作品によってはちゃんと死人も出ますし殺人も起こります。現実じゃないのでミステリ好きとしては死人が出るのは大切な要素かと?)

    その他、サッカーや競馬を題材にした作品や、事件を追うジャーナリストみたいな作品も書かれているようなので…

    野球以外の作品(「偽りのウイナーズサークル」「境界 横浜中華街・潜伏捜査」「ミッドナイト・ジャーナル」「贅沢のススメ」)も買ったのですが、まだ読んでいないので…
    読み易く読ませる文章を書かれる方なので、面白いとは思うのですが…すいません…読んでいないのでまだ何とも言えないです…

    なんだかんだ書いているうちに、長々となってしまいました。申し訳ありません。
    改めましてになりますが、興味が向きましたら読まれてみて下さい。

  • 先日、上の管理人さまのコメントにお返事させて貰ったのですが…
    もしかして届いていなかったでしょうか?
    送信ミスしかな?
    それともコメントが長過ぎて迷惑だったでしょうか?管理人さま…お忙しいのでしょうか?はたまたコメントが長過ぎて届かないってこともあるのでしょうか?
    ご迷惑であればコメント控えさせて頂こうと思います。失礼いたしました。

    • 手持ち豚さん。こんばんは!
      すいません、サーバーの影響なのか、先日いただいたコメントが今まとめて届いたようです。
      ご返事が遅れまして申し訳ございません。
      とても詳しく作品を紹介していただいてありがとうございました!
      どれも興味の湧く内容で、「スカウト・デイズ」や「スカウト・バトル」辺りから手に取ってみようと思います!
      このような機会がなければきっと手に取ることはなかったはずです。迷惑なんてとんでもないです!教えていただきありがとうございました。

  • 凄くホッとしました。
    早速お返事頂きありがとうございます♪

    先日のコメントを送った後「ミッドナイト・ジャーナル」を読みました。
    本城さん…経歴見たらスポーツ新聞だけじゃなく一般紙でもやられていたみたいです。(産経新聞/サンケイスポーツ)
    こちら「ミッドナイト・ジャーナル」はざっくり言うと新聞記者vs警察…新聞記者が如何にスクープを取るか?(他紙とのスクープ合戦)新聞記者同士での出世争い・プライド、新聞社内でも東京と地方の覇権争い、先輩後輩のやり取り、etc…そしてそこには事件…こちらの作品も心理合戦…コンゲームです。

    あとがき(解説)を書かれていた方が触れていたのですが、横山秀夫さんに作風が似ているみたいです。(確かに言われてみれば…です)(横山さんも記者出身の作家さんですね)

    もし野球は…って管理人さまが思われるなら、「ミッドナイト・ジャーナル」から読まれてもいいかと思います。それくらい面白かったです。
    (個人的にですが…「スカウトデイズ」→「スカウトバトル」、「球界消滅」と同じくらい「ミッドナイト・ジャーナル」はオススメ出来る作品でした)

    又、別の作品でもコメントさせて頂きますね。又よろしくお願いいたします。

  • 手持ち豚さん。さんこんにちは!
    心理合戦、コンゲーム系も好きなので「ミッドナイト・ジャーナル」も面白そうですね!とても気になります。
    本城さんってすごい経歴の方なのですね。
    へえ!横山秀夫さんと作風が似ているのですか!
    横山秀夫さんの作品は結構読んでいるので、余計に本城さんが気になります!
    「ミッドナイト・ジャーナル」もぜひ読ませていただきますね。

    色々教えてくださってありがとうございます!読書の幅が広がります。
    ぜひぜひコメントお待ちしております。よろしくお願いいたします!

コメントする

目次