櫛木理宇(くしきりう)さんの名作『チェインドッグ』が改題され、『死刑にいたる病』となって文庫化しました(どこかで見たようなタイトルですが)。
ズバリ言いまして、櫛木さんの作品の中でも1,2位を争う面白さなので、ぜひお手に取ってみてほしい。
櫛木さんの作品を読んだことがない、という方にも最適です。
櫛木さんといえば『ホーンテッド・キャンパスシリーズ』という青春ホラーが有名なのですが、一度そのイメージは取り払って『死刑にいたる病』を読んでみてください。
これが、櫛木さんです。
※この作品にはグロテスクな表現、描写が登場します。我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』ほどではないですが、苦手な方はご注意ください。
櫛木理宇『死刑にいたる病』
鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也(かけいまさや)に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和(はいむらやまと)からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」
地域で人気のあるパン屋の元店主にして、自分のよき理解者であった大和に頼まれ、事件の再調査を始めた雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていき……一つ一つの選択が明らかにしていく残酷な真実とは。
元優等生、現在ボッチで周りを見下してばかりいる大学生・筧井雅也(かけいまさや)の元に一通の手紙が届く。
それは、日本を震撼させた戦後最大級のシリアルキラー・榛村大和(はいむらやまと)からのものだった。
繊細な顔立ちだった。カウンターの上で組んだ長い指も、ピアニストか芸術家のように美しかった。細い鼻梁、長い睫毛。鳶色の瞳がガラスのように澄んでいる。もし彼の経歴を知らず、かつこんな場所で出会ったのでなかったら、「俳優ばりの、上品な美男子」だと感じたに違いなかった。
P.24より
イケメンサイコパスです。
榛村が二十四件の殺人容疑により逮捕されたのは、五年前のこと。しかし警察が立件できたのは、そのうちわずが九件のみだった。
榛村は、地元で人気のパン屋の店主であり、雅也もよく通っていた。
雅也だけではなく、地元住民は皆、榛村に好感を抱いていた。それほどに彼は、魅力的な人物だった。
しかし、それも雅也が中学を卒業するまでの話。それ以来は会ってもいない。
だから雅也は驚いた。自分に手紙が来たことに。そして手紙の内容に。
榛村は、警察によって立件された九件の殺人のうち、九件目の殺人だけは自分はやっていない。だからそれを証明してくれ、と頼んできたのだった。
「二十三歳の女性が絞殺され、山奥に遺棄された事件。あれはぼくの犯行じゃない。彼女はぼくのターゲット層とは異なる。手口だって違う。ーーあの一件に関してだけは、ぼくはまったくの冤罪なんだ」
P.33.34より
人生に潜む負の連鎖、残酷な真相。
榛村は他の犯行は潔く認めているため、たとえ九件目の冤罪が立証されようと、死刑であることには変わりありません。
しかし雅也は、それでも良いならと、榛村の依頼を引き受けます。
さてここから雅也は、これまで榛村に関わってきた知人たちに連絡をとり、話を聞き、榛村の過去をいろいろ暴いていくのですが、調べれば調べるほど恐ろしい真実が明らかになってきます。
そして、雅也がたどり着いた真相は。
という話なのですが、はっきり言って、これは、とても恐ろしい作品です。
で、最後の展開に、「うわ、そういうことか……」とドン引きしてしまうほどに、エグい話です。
いやでも、ここまで吹っ飛んでいると逆に気持ちが良いのではないか、と思えてくるから不思議。
私が初めて読んだ時は文庫化される前の『チェインドッグ』だったのですが、表紙が女の子のイラストだし、やっぱりホーンテッド・キャンパスのイメージがあったのでそこまで覚悟していなかったんですよね。
だからもろに「あの展開」を食らってしまって、読み終わったあとは放心状態というか、櫛木さんヤバイよヤバイよ……という状態でした。
①九件目の殺人は本当に冤罪なのか
②だとしたら、本当の犯人は誰なのか
③そもそも、なぜ雅也に依頼してきたのか
という謎が中心となって進むわけですが、この辺り、本当に物語への入り込ませ方がお上手ですね。とにかく気になってしまって、途中で本をおくことができない。
そして終盤の二転三転する展開に翻弄されっぱなしで。「ああ、どうなっちゃうの!」とハラハラドキドキ。完全に振り回されたなあ。
間違いなく、櫛木理宇さんの最高傑作候補でしょう。
作中に登場する実在したシリアルキラーたちの名には不謹慎ながらワクワクしてしまうし、『現代殺人百科』や『オリジナル・サイコ(ハヤカワ文庫NF)』などの参考文献も実に興味深い。
うーん、シリアルキラーに魅了されてしまっている自分が怖い……。
おわりに
櫛木さんといえば『ホーンテッド・キャンパスシリーズ』が有名だと思うんですけど、断然こっちのブラック櫛木の方が好み。
決して読んでいて気持ちの良い話ではないのですが(むしろ最悪)、これこそ櫛木さんの真骨頂でしょう。
他にも『侵蝕 壊される家族の記録 (角川ホラー文庫)(改題前:寄居虫女)』や『世界が赫(あか)に染まる日に』などの陰鬱な作品があるので、後味悪い系の話がお好きならぜひお手に取ってみてください。
『世界が赫に染まる日に』は表紙絵も最高なんですよねえ。早く文庫化してほしいのですが、表紙は変わってほしくないなあ。

コメント
コメント一覧 (2件)
どうもどうも。今さらですが失礼しますよ
さっき一気に読みました。
櫛木さん、初めてだったのですが読みやすいですね。
まあ、こういう話を読みやすいというのもアレですが
イケメンのサイコパスかー。
やっぱり結末はどう着地するのか気になって、だぁーっと読みきったんですが、サイコパスは得てして頭が切れる、ってことですかね。
でもこういった終わりかた嫌いじゃない私(笑)
おとついは、幻霙を一気読みした私。
また本がたまってきた、、(笑)
やや、どうもどうも。待ってましたよ。
一気読みとはさすがです。ほんと引き込まれる物語と読みやすい文章ですよね。
実は私もこの終わりかた嫌いじゃないです笑
どちらかといえば好物かも……
たまに味わいたいですよね!笑
お、幻霙も読まれたんですね。幻霙も読みやすいしページ数少ないにサクッと読めて良いですよね。
ふふふ。ぜひたまってください(?)