困るんですよね。
こんな豪華なアンソロジーを出されてしまうと、普通のものじゃ満足できなくなってしまうではないですか。
今作『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』は、
麻耶雄嵩さん
山口雅也さん
我孫子武丸さん
有栖川有栖さん
法月綸太郎さん
歌野晶午さん
綾辻行人さん
というレジェンドな作家さんたちが、『名探偵』をテーマに書かれた短篇が収められたアンソロジー。
しかも書き下ろしですよ、書き下ろし。
この企画のために書かれたってことですよ?
ここでしか読めないってことですよ?
そんなありがたいことあります?
メルカトルも、火村英生も、法月綸太郎も揃いに揃って。
ああ、なんて幸せ。
麻耶雄嵩『水曜日と金曜日が嫌い –大鏡家殺人事件–』
頼まれ仕事でとある山にやってきたが、途中スマホを水没させて完全に道に迷ってしまう。
彷徨っていると立派な洋館が目の前に現れ、事情を伝えると快く迎え入れてくれた。
が、そこで殺人事件に巻き込まれてしまう。
事件前に目撃した、黒づくめの人物が犯人と思われるが……。
見ると、長身の人物が屋敷の裏手から現れた。黒いローブに、黒いマント、そして頭からすっぽり被った頭巾も黒と、黒ずくめの時代かかった格好で、まるで中世の錬金術士のようだった。
P.21より
怪しい、怪しすぎる!
まあ、そんな事件をメルカトルが解決していくわけですね。
一発目からメルカトルに会えるとは……歓喜でした。
迷子中に訪れた洋館で殺人事件に遭遇、という王道。そして登場人物のクセも強いんじゃあ。
ミステリ云々の前に、やっぱりメルカトル、というか麻耶さん好きですわ。
最後に笑ってしまった。
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有栖川有栖『船長が死んだ夜』
フィールドワーク中の火村&アリスは、近場で殺人事件が起きたことをニュースで知る。
ちょっと寄り道してみるか(楽しそう)、とさっそく現場を訪れた2人は、「船長」と呼ばれていた一人暮らしの男性がナイフで殺害されたことを知る。
不可解な点はいろいろあるが、特に現場にあったはずのポスターが剥がされてなくなっていたのが気にかかる。
これぞ有栖川有栖さん!という感じの安定の面白さですね。
今回のアンソロジーの中でも一番真面目に本格ミステリでした、笑。
なぜ、犯人はポスターをはがしたのか?
という点から犯人を特定していく火村さん。さすがです。
いつも思いますけど、圧倒的な論理的推理で犯人を追い詰める火村さん、カッコイイですけどちょっと怖いですよね(そこがまた良い)。
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法月綸太郎『あべこべの遺書』
2人の人間が相次いで死んだ。1人は転落死、もう1人は服毒死。
現場にはぞれぞれ手書きの遺書が残されていた。
不可解なのは、双方の遺書があべこべ、つまり入れ違っていたということ。
「自分のじゃない。双方の遺書が入れ違って、あべこべになっていたんだ。二人が死んだ場所もあべこべで、どちらも相手の自宅で死んでいるのが見つかった」
P.169より
そんな謎を、法月警視&綸太郎コンビが推理していきます。
とても魅力的な謎ですね。
なぜ、遺書も場所も入れ替わっていたのか。一体どうやったらそんな事になってしまうのか。
直球の、法月綸太郎シリーズらしい一品。
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綾辻行人『仮題・ぬえの密室』
京都大学推理小説研究会では、会員がオリジナルの犯人当て小説を書き、発表するのが伝統行事となっている。
その卒業生である我孫子武丸さん、法月綸太郎さん、綾辻行人さんの三人が、今回の企画(この新本格30周年記念アンソロジー)について話している最中、
「むかしミステリ研で、何かその、すごい犯人当てがあったの、憶えてへん?」
P.261より
と、我孫子さんが言い出した。
しかし、そんな凄い「犯人当て」を誰も思い出せない。
そもそも、そんな「犯人当て」が存在したのか。
存在したとしたら、誰が書いたのか。
なぜ、その「犯人当て」はここに残っていないのか。
我孫子武丸さん、法月綸太郎さん、綾辻行人さん、小野不由美さんの四人が、誰も思い出せない「幻の犯人当て」作品がどんなものだったのか?を推理していく話。
もうね、こりゃミステリファンならたまらないヤツですわ。サイッコウ。
この四人の会話劇を見ているだけでも楽しいし、なにより物語が魅力的すぎる。
とにもかくにも普通のミステリではなく、綾辻行人さんにしかかけない独特な雰囲気。これは読まなきゃ。
永久保存版のアンソロジー、ここに誕生。
(表紙のイラストのみなさん、可愛すぎません?)
他にも、
古典落語『饅頭怖い』を題材にした、山口雅也さんの『毒饅頭怖い 推理の一問題』や、
「名探偵」というテーマに独特の視点で挑んだ、我孫子武丸さんの『プロジェクト:シャーロック』、
外で戦争が行われる中、密室となったシェルター内での殺人事件を描いた、歌野晶午さんの『天才少年の見た夢は』、
と、バラエティ豊かですぐにお腹いっぱいになってしまうような短編ばかり。
それにしても、みなさん独特すぎますよ。
「名探偵」という同じテーマなのに、こんなに違う味になってしまうんですね。ああ面白い。
とにかく、みなさん好き放題やっていて、楽しそうでなによりです。笑
名探偵というテーマに対して直球でいく方、変化球でいく方。それぞれの方の個性がよく出ていて、こうして一度に読むと味の違いがよくわかりますね。
サーティーワンのアイスクリームを、7種類1度に食べたような贅沢感です(やったことはない)。
最初にも言いましたけど、これだけ豪華すぎると他の作品に満足できなくなってしまう……。それだけが難点です。
わざわざ言うまでもないと思いますが、この中に一人でも好きな作家さんがいるならぜひ読みましょう。本当に贅沢な一冊ですよ。
新本格30周年バンザイ!( ゚∀゚)
コメント
コメント一覧 (4件)
これ以上ないほど豪華ですよね。個人的な話ですが、僕がミステリに最初に触れたのは、ホームズでも明智小五郎からでもなく、法月綸太郎さんからなんです。それ以来新本格が一番好きで、そんな僕には堪らない一冊でした。どの作家さんも味があって、読むだけで幸せでした。ちなみにですが、しおりはどの作家さんでしたか?僕は有栖川さんでした。七種類集めたいなと秘めやかに考えているところです
いやほんと、豪華すぎてなんと言ったらいいか。
おっしゃる通り、こんな作品を読めるだけで幸せでした。
おお!法月綸太郎さんからなんですか!やっぱり最初に触れたミステリっていうのは、いつまでも印象に残っているものですよね。
私のしおりは歌野晶午さんでした!私もできるなら7種類集めたいです……でもお金が……こんなのずるいですよね……(゚ノ∀`゚)
はじめまして。
ブログいつも読んでます。
読書量はもちろん、本当に読みたくなる紹介が書けること、尊敬しております。
この「7人の名探偵」も好きな方ばかりで気になっていたのですが、こちらの記事を読んでいてもたってもいられず買っちゃいました。後悔は1ミリもないです。
ところで綾辻行人さんの『仮題・ぬえの密室』ですが、「幻の犯人当て」を推理するのは綾辻さん、小野さん、我孫子さんと、麻耶さんではなく法月さんではないでしょうか。細かいことかもしれませんがどうしても気になってしまって…(´・ω・`)
のもりさん、はじめまして!
そんなこ嬉しいことを言っていただけるなんて……ありがとうございます(ノω`*)
本当に『7人の名探偵』は贅沢な一冊ですよね。参考にしていただけて、しかも買っていただけて嬉しいです。
って、うあああ!本当ですね、麻耶さんではなく法月さんです、これはやってはいけないミス!(* _ω_)
直ちに修正します。ご指摘いただき本当にありがとうございます。。