SF小説やSF映画に登場する食べ物って、どんなイメージがありますか?
私は、
「栄養面は完璧でだけど、見た目はあまり美味しくなさそうで、実際、美味しくない」
です。
そんな先入観があっての、銅 大さんの『SF飯 宇宙港デルタ3の食料事情』。
私は直感で思いました。
①味気のない宇宙食ばかりを食べている主人公がいる。
②隠れ家的存在の食事処に行き着く。
③機械ではなく、人間の手によって作られた心のこもった料理が出てくる。
④主人公が「う、うまい!まさかこの時代にこんな美味しい料理が食べられるとは!」ってなる。
⑤絶妙な料理描写により、読んでいる自分もお腹が減ってくる。
⑥最終的にみんな笑顔になる。
ははーん、よくある心あたたまる系お料理小説の宇宙バージョンだな、と。
結論から言えば、全然違いました。
確かに「食」をテーマにしているんですけど、よくあるパターンのお料理小説ではなくで、細部まで丁寧に作り込まれたちゃんとした本気のSF小説でした。
「ちゃんとした本気のSF小説」ってなんなのよ?と聞かれれば困ってしまうので聞かないでください。
銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食料事情』
主人公となるのは、由緒正しき実家を勘当され、放逐されてしまった「若旦那」。
特別な才能が全くなく職につけないダメダメな彼は、死ぬ覚悟で辺境デルタ星域へと向かう貨物船へと乗り込んだ。
そんな宇宙船での主な食事は、無料で提供される〈B定食〉というもの。
ほとんどの種族の完全食となるもので、この〈B定食〉さえ食べていれば栄養不足になることはない。
〈太母〉への感謝の祈りを捧げ、若旦那はレーションパックを開いた。でこぼこのある上蓋をひっくり返すと、皿になる。そこに並ぶのは3つの食事。
完全パン。万能スープ。満点サラダ。
完全パンの包み紙を破り、口へ運ぶ。
ほのかな甘みと酸味のある、ふわふわではなく、みっちりとした黒いパンだ。七種類の食用藻をブレンドして作られている。
P.22より
そんな、まさに私の想像していた未来の食事らしい食事に飽き飽きしていた若旦那を乗せた貨物船は、百を超える開発星系へと繋がるハブ宇宙港「デルタ3」へと到着する。
そこで若旦那は、かつて屋敷で小間使いとして働いていたコノミという女の子と再会し、彼女が経営する〈このみ屋〉でしばらくの間お世話になる、という物語です。
ここまでは想定内。
ここから、「B定食に飽きていた若旦那が、コノミちゃんの優しさ溢れる手料理を食べて感動する」という展開になると思ったんですがね。
違いました。
コノミちゃん、あんまり料理が上手ではないですよね。
しかも手作業じゃなくて、〈菊光社製三八式食料合成機〉とかいう超未来な機械で料理作ってるし。
というわけで本作は、一生懸命美味しい料理を作ろうとするコノミちゃんを応援したくなるような、コノミちゃんの成長小説の一面もあったわけです。
「今の自分ではお客さんを呼べる料理が提供できない」という理由で〈このみ屋〉は営業してなくて、若旦那と一緒にどうやったら美味しい料理を作ることができるかを考えながら奮闘していく物語、というわけですね。
美味しい料理が出来上がると、「やったねコノミちゃん!」と自分まで嬉しくなるような微笑ましい描写も多くあり。
いやはや、このコノミちゃんが実に可愛らしい人物で、彼女とのやり取りを見ているだけでも楽しいわけですよ。
「SF飯」の設定がとても作り込まれている
「SF飯」に対しての細かな設定が、とにかくワクワクする。
ミステリー小説は「よくこんなトリック思いつくなあ」という楽しさがありますが、SF小説は「よくこんな設定思いつくなあ」という、全くタイプの異なる楽しさがありまして。
この世界での基本食となる〈B定食〉だけ見ても実に面白いです。
七種類の食用藻をブレンドして作られている「完全パン」。
甘塩っぱくて味はまずまず、色合いがよろしくなくてまるで吐瀉物のような「万能スープ」。
サラダとは名前だけで実は野菜ではなく、見た目は色とりどりの「短冊」であり、薄いフィルムのようなものを何枚も重ねて作ってある「満点サラダ」。
実はこの「満点サラダ」がこそ〈B定食〉の真髄で、
満点サラダが恐ろしいのは、食べている本人よりもその肉体を知りつくしている点にある。
これ以上食べるとカロリーや塩分などを取りすぎる。そのラインを、どうやってか厳密にチェックし、内分泌系に作用し、食欲を失わせる。食べ物は味気なくなり、飲み込もうとしても喉がつまる。
満腹になる、というよりは、拒食に近い。
P.26.P27より
という恐ろしくもあり、でも「SFらしい」食べ物が多数登場。
ほかにも、「宇宙服飴」というスルメに似た食感の食べ物や、「クライボ鳥の虹焼き」やら「クラップ恒星蟲の大フレアパスタ」やら、想像力を掻き立てられるものばかり。
人間以外の生命体との交流とか設定とかも面白いし、ただただSFの世界を見ているだけでも面白いんです。
なるほど、なタイトル。
宇宙での食料事情が緻密に描かれていて、物語抜きにして世界観だけでも楽しかったです。
本作のタイトルは『SF飯 宇宙港デルタ3の食料事情』なわけですが、読んでなるほど。まさに「宇宙港デルタ3の食料事情」を描いたそのまんまのタイトルだったんですよ。
しかも後半からは冒険要素が強くなってきて、料理小説というか「SF冒険小説」になってくるんですよね。
とにかく何が言いたいかって、よくある食べ物小説とは一味も二味も違いますよってこと。
あと、これ以上ないくらいスッッッッッッゴい読みやすかったのもありがたいですね。
SF小説ってなんか読みにくそうだなあ、という概念を打ち崩してくれるでしょう。
内容もコメディチックであり登場人物も魅力的で、アニメ化映えするというか、脳内で完全にアニメ化して読んでました。
というか、ぜひアニメ化していただきたい。
あとシリーズ化していただきたい。
おわりに
何が言いたいのかわからなくなってきたのでポイントをまとめると、
・コノミちゃんが可愛らしい
・SF的な「食料事情」が詳しく書かれていて、考察、設定を見ているだけで楽しい
・とてつもなく読みやすい
・登場人物たち(人間以外の生命体も含め)のやり取りが面白い
・単なるお料理小説ではなくSF冒険小説の要素もある
などなど。
最近SF小説を離れてしまっていたのですが、どうやらSF熱が再発してしまったようです。
そういえば最近SF小説読んでないなあ、という方。
『SF飯 宇宙港デルタ3の食料事情』で、SFならではのワクワクを体験してみませんか?

コメント
コメント一覧 (4件)
ちょうど昨日本屋で見かけて「ああ、最近よくあるお料理ものね」と素通りしてました。
まさかこんな内容だとは。
昨日はハインラインの「宇宙の戦士」を読んでだいぶ考え込まされたので、すらすら読めるSFが恋しいです。
そうなんですよ、わたしもまさに「ああ、最近よくあるお料理ものね」と思ったんですが、違いましたね。びっくりしました。
おお、宇宙の戦士とは、これまたガチのやつを読まれましたね。笑
わたし、古い方?の宇宙の戦士は読んだんですけど、新訳版の方(2015年に出たやつ)は読んでないんですよね。やはり読みやすくなっているのでしょうか。。
新訳版も読んでみたいのですが、かなりのエネルギーを消費しそうでなかなか手が出ず……( ´∀`)
新訳、割と読み易かったですよ!
ただ、そうは言ってもあくまでも「宇宙の戦士」なので(笑)
文体は易しいですが、内容が体力のいる内容ですからね・・・。
こうでなくては国家等の組織的なものは守れないと思いましたし、しかし個人はある程度消失するよなあと思いました。
ハインラインはこれまで「人形つかい」「月は無慈悲な夜の女王」「夏の扉」なんかを読んできたので、ここまで思想的な作品も書くのかと驚きました。
ただ、解説が新訳版ではパワードスーツについてしか言及していなかったのが玉に瑕というか・・・。
読み易かったですか!いやあ、読んでみたくなってしまいましたなあ。
体力を消耗を覚悟で手にとってみようと思います笑。最近そういう考えさせられるSFを読み漁りたくなりまして。
そうそう、わたしもまさにハインラインはそれらの作品を先に読んでいましたので、宇宙の戦士をはじめて読んだ時な驚きましたねえ。
あーなるほど、そうなんですねえ。小説は解説も含めて好きなので、旧版の解説とも読み比べてみようと思います。ありがとうございます(´∀`*)