『世界推理短編傑作集2』-世紀の必読アンソロジーの新版が抜群に読みやすくて面白い

さて、みんな大好き『世界推理短編傑作集』の第二弾です。

その名の通り、世界の傑作推理短編が収められた一冊で、ミステリ好きにはたまらないものとなっています。

欧米では、世界の短編推理小説の傑作集を編纂する試みが、しばしば行われている。

本書はそれらの傑作集の中から、編者の愛読する珠玉の名作を厳選して全5巻に収録し、併せて19世紀半ばから1950年代に至るまでの短編推理小説の歴史的展望を読者に提供する。

本巻には、“奇妙な味”の短編「放心家組合」をはじめ、英米以外の作家であるグロラー、ルブランの作品などを収録した。

というわけで、この機会にぜひ読みましょう!

1.ロバート・バー『放心家組合』

ロンドンで銀貨贋造団が世間を賑やかしていた。

贋造団を追う警部はあと一歩のところで、彼らのしっぽを捕まえられない。

証拠を掴もうと調査しだしたある男に別の事件の匂いがし始める。

無事、証拠をつかみ、贋造団を逮捕することはできるのか。

ロンドンほど推理小説の舞台になっている場所も珍しいですよね。

ホームズを始めとする数多くの探偵がこの都市には存在しているようです。

今回はロンドンの街で蠢く贋金作りから話は始まります。

銀貨の偽造を行っている盗賊団を一挙に捕まえるために、どうやって証拠をつかみ、犯人を絞り込むのか、警察は頭を悩ませます。

ページを進めるために、繰り広げられる探偵と犯人の頭脳戦が非常に目まぐるしい作品です。

短編にもかかわらず、詰め込まれた情報量の多さに少し混乱してしまうかもしれません。

しかし、予想もつかないラストに、感動を覚えるでしょう。ぜひ最後まで気を抜かず読んでみてください。

2.バルドゥイン・グロラー『奇妙な跡』

ダゴベルトは急な客に起こされた。

旧知であるグルムバッハの使用人が殺されたというのである。

使用人は給料をもらい、その後、襲われ金を奪われていた。

現場に残されたのは奇妙にも手形だけであり、足跡は殺された使用人のものしかない。

ダゴベルトは使用人を殺した人物を推理することになる。

発想の転換とは、色んな所で使われる言葉です。

ピンチがチャンスになったり、思わぬところから答えが転がってきたりします。

それまではひどく難しく思えた問題が、たった一つの手がかりで簡単に思えてしまう——発想を転換することで世界はがらりと姿を変えます。

この短編小説は、それまでの推理小説とは一味違うトリックが仕掛けられています。

わかってしまえば陳腐な、わかるまでは奇想天外な仕掛けは作者の発想力の凄さを感じさせます。

3.G・K・チェスタトン『奇妙な足音』

「真正十二漁師クラブ」の晩餐会では決まって、魚がモチーフとなった銀食器が使われる。

今夜も晩餐会が開催されるホテルでは、所狭しと給仕が紳士たちの間を通り抜けていた。

晩餐会も終わりに差し掛かるころ、象徴とも言える食器がなくなっていることが発見される。

大騒ぎとなる晩餐会の混乱を解決したのは一人の神父だった。

珍しいのは、最初から犯人と神父の対峙が堂々と描かれていることです。

普通、実行犯と探偵役の対決は物語の一番肝の部分。

中盤か終わりかけにあるのが普通でしょう。それがこの話では一番最初の方に仕掛けられています。

読者は当然混乱しますが、そこから話を組み立てていくのが凄いところです。

何が起こったのか、トリックは、どうやって解決されたのか。

全てが軽妙に描かれた短編です。

4.モーリス・ルブラン『赤い絹の肩掛け』

ガニマールは不審な二人組を見つけた。

合図を送り合い、街に不可思議な印をつけているのだ。

真面目なガニマールは二人を尾行し不審な行動を取り締まろうとする。

その先で出会ったの宿敵とも言える「アルセーヌ・リュパン」だった。

彼から手渡された殺人の証拠と推理にガニマールはやきもきしながら殺人事件の捜査を始める。

全てがリュパンの言うとおりに進む中で、見つからない手がかりがたった一つだけあった。

それを手に入れるためリュパンと再び対面するガニマールの前で、リュパンは衝撃的な事実を告げる。


ミステリ好きであれば、「アルセーヌ・リュパン」の名前を知らない人はいないでしょう。

怪盗として世界中で活躍するリュパンですが、彼が探偵役として活躍する話も数多く存在します。

この短編はまさにリュパンの面白さを詰め込んだものになっています。

何もかもお見通しのようなリュパンの推理と、くるくると姿を変えガニマールの前に現れるリュパンの姿は推理小説でありながら、エンタメ性を含んでいます。

まるで、全てがリュパンの手の中で起こっているような気分になる、爽快感溢れる短編です。

5.オースチン・フリーマン『オスカー・ブロズキー事件』

著名な宝石商であるブロズキーがある男の家を訪れた。

駅まで行こうとして、道に迷い、近くの民家に助けを求めたのだ。

それが自分の運命を決めると知らず、ブロズキーは男に殺されてしまう。

ブロズキーから宝石を奪った男は殺しの証拠を綺麗さっぱり片付けると、予定通り汽車に飛び乗った。

そこにソーンダイク博士が偶然居合わせたことで、完全犯罪かと思われた殺人は水の泡とかしてしまう。


短編の良さを生かした、最後から最後まで面白く読み切ることができる作品です。

最初から殺人の現場、犯人の動機、行動が全て描かれており、人間の感情の揺れ動きに共感せずにはいられません。

殺してしまうのか、踏みとどまるのか、ほんのちょっとのことで、人の心は傾いてしまうのだなと嘆息してしまいます。

後半ではソーンダイク博士が、現場と死体から緻密な証拠を集め、それを元に推理を進めていきます。

現代に続く手法は私達にも身近で、わかりやすいものです。

今だと当然のように使われている手法も、昔は確立していなかったのだなと理解できます。

そんな、科学捜査を元にした非常に楽しめる短編になっています。

6.V・L・ホワイトチャーチ『ギルバート・マレル卿の絵』

何十もの貨車が連なる貨物列車から、一つだけ貨車が行方不明になった。

最初や最後ではない。真ん中に位置する貨車だ。

貴重な絵画が収められた貨車を捜索するも停車した駅には存在しない。

止まらなかった駅の側線で発見された貨車は中の積荷も全て無事だった。

しかし、絵画の持ち主であるギルバート・マレル卿が中身がすり替えられていることに気づいた。

貨車はなぜ停車しない駅に置かれていたのか、絵の行方は?

その全てをヘイルズが秘密裏に解決する。

走っている貨物列車から、真ん中の貨車だけ抜き取る。

一見不可能そうに思えることも、考えればできてしまうのだなと思えるお話です。

その犯行は非常にダイナミックで、想像するだけでスペクタクルを感じてしまいます。

なぜ、その貨車を抜き取る必要があったのか。なぜ、その絵画を盗む必要があったのか。

鉄道や絵画など、夢中になれるものがある人間には心当たりがある動機も魅力的です。

7.アーネスト・ブラマ『ブルックベンド荘の悲劇』

盲目の探偵マックス・カラドスのもとに、相談事が持ち込まれた。

姉が夫に殺されようとしている、というものだ。

調べていくと夫であるオースティンは金に困っており、ブルックベンド荘の家賃も滞納しているという。

彼は人付き合いもなく、まるで子供のように遊んでいる姿から狂人扱いされていた。

マックスは実際にブルックベンド荘の周囲を調べ、オースティンの企みを明らかにしていく。


盲目探偵は、伝えられる情報だけで推理を進めます。

マックス・カラドスにも、自分の目や耳になってくれる優れた相棒カーライルと共に調査を始めます。

まず、この二人のやり取りが非常に軽快で、時にユーモアが飛び交います。

見えていないとは思えないほどマックスの推理は詳細で論理的です。

まるでパズルが組み上がっていくかのように、些細なことから企てられている殺人のトリックが明らかに!

明快な推理は短編としても十分楽しめるものです。

8.M・D・ポースト『ズームドルフ事件』

ズームドルフは桃の酒を作り、それを周辺の村々へ売りさばくことで生計を立てていた。

その影響で、治安は悪化し、人々の生活は荒れやすくなってしまった。

見咎めたアブナーとランドルフはズームドルフの住処を訪れる。

尋ねた先でズームドルフはすでに死んでいた。

すると、宣教師のロビンソンとズームドルフに買われた女が二人とも「自分が殺した」と言う。

アブナーはズームドルフが死んだ原因を推理する。


意外な結末を迎える短編です。

トリックの解説もスムーズでわかりやすく、すんなりと納得してしまいます。

どう収束させるのかと思われますが、さすがのトリックで、短い中にぎゅっと面白さが凝縮されています。

舞台設定も含めて、味のある短編となっています。

9.F・W・クロフツ『急行列車内の謎』

急行列車の社内で、とある夫婦が殺された。

しかし車内に殺人を行えるものはおらず、凶器も残されてはいなかった。

たくさんの証言を総合すると、犯人は走行している列車から雲のように消えてしまったことになる。

迷宮入りするかと思われた事件に解決の糸口が見えたのは、ある開業医の男からの一報だった。


推理小説でありながら、トリックが犯人の口から明かされるという衝撃の展開に度肝を抜かれます。

事件のあらましを徹底して客観的に描き出し、後半でその謎解きをしていくというスタイルはシンプルでわかりやすいものに。

動く列車から犯人の姿が消えるのは王道のドキドキ感がありますね。

トリックそのものに新しさはありませんが、犯人が語る人生に惹きつけられずにはいられません。

短編でありながら、きれいにまとまった読みやすさがある小説です。

おわりに

ミステリの巨匠たちの短編が詰め込まれた一冊。

現代の長編ミステリになれた読者には、時に古臭く、時に新鮮に感じるものばかりです。

今に続くスタイルのものもあれば、これもミステリなのか!と驚く作品もあります。

また、長編ミステリを読み続ける自信がない人にもおすすめの一冊です。

長い作品でも30分もあれば読めるものばかり。

とにかく、ミステリ好きなら間違いなく読んで損はありません。

ぜひ。

『世界推理短編傑作集1』はこちら

「十三号独房の問題」の密室脱出を刮目せよ-新版『世界推理短編傑作集1』より

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