デビュー作『ぼぎわんが、来る』を読んでからというもの、澤村伊智(さわむらいち)さんの作品が発売されるのを心待ちにしていました。
そして今回、待ちに待った三作目『恐怖小説 キリカ』が発売!
発売初日、本屋さんに並んでいるのを見てテンションが上がりました。
それも「帯」を見て。
まず、スティーブン・キングの『ミザリー (文春文庫)』に挑む、という言葉。
そして貴志祐介さんの意味深なコメント。
これはテンションが上がるってものですね!早速あらすじをご紹介していきましょう(* >ω<)=3
澤村伊智『恐怖小説 キリカ』
この「小説」は、主人公である澤村伊智(本名:香川隼樹)が『ぼぎわん』という怪奇小説で日本ホラー小説大賞を受賞したところから始まります。
香川は現在、古びた木造アパートで妻の霧香(きりか)と二人暮らしをしており、小説を書くことが好きな仲間5人で作った「小説を書くぞ会」の一人でした。
それぞれ書いてきた小説をみんなで読んで批評しあったりするのが主な活動で、そこで書き上げた作品を応募してみたら、まさかの大賞を取ってしまったのです。
早速、お世話になった人や仲間たちに大賞を受賞したことをメールで知らせる。みんな、自分のことのように喜んでくれている。なんていい人たちに囲まれたのだろう。
しかし、大賞を受賞したことを知った「小説を書くぞ会」のメンバーが集まった飲み会の中で、メンバーの一人の副島が変なことを言い始めたのです。
「前回読ませてもらったときから感じてたよ」副島くんは身を乗り出すと、「平和な家庭を襲う妖怪ってのがモロだし、メインキャラのライターが離婚してる設定もそうだ。これは間宮への返答だって。自分を捨てた女は死んでしまえ、新しい旦那ともども食い殺されろーーそれが香川の為らざる気持ちだって」
と言った。P.32より引用
「間宮」とは、香川の前の奥さんの名前だ。
副島は、この『ぼぎわん』という小説は離婚した間宮への仕返しだと言っているのです。
確かに離婚はしたが、それとこれとは全く関係がない。この小説はそんなことを思って書いたものではない。しかも今の俺には愛する妻・霧香がいる。副島は何を勘違いしているんだ?
さらに。
数日後、その間宮さんから香川に連絡が入る。
何と、『ぼぎわん』の原稿が間宮の元に送られてきたのだという。
「誰から届いたの、それ。送り主。」
「ハヤキからだよ」
P.55より引用
しかも自分が送ったことになっている。当然、俺はそんなもの送ってはいない。そもそも間宮の住所すら知らない。
いった誰が、なんのために。怪しいのは……ヤツだ。
本当に怖いもの。
この作品の怖さの一つは、「小説」なのか「本当の出来事なのか」がわからなくなるところですよ。
著者の澤村伊智さんが『ぼぎわんが、来る』でホラー小説大賞を受賞したのは本当の出来事であり、そのあとの編集者さんとの打ち合わせや改稿、細かな修正など、本が発売されるまでのシーンがリアルに描かれているんです。
審査員の綾辻行人さん、貴志祐介さんや宮部みゆきさんの名前も出てくるし、2作目『ずうのめ人形』の執筆シーンもありますし、とにかく「ノンフィクション」っぽさがすごいんですよ。
これが全て事実なワケわけないだろう、と思いたくても、読み終わった時に心のどこかで「これは本当に実際に起こった事なのかもしれない」と思わされてしまうんです。
じゃあそんな中で私が誰がいちばん怖かったかっていうと、それは登場人物の誰でもなく、この『恐怖小説 キリカ』の著者・澤村伊智さんですよ。
この人は実は本当にヤバイなんじゃないかって、この作品を読んで改めて思いました。
構成にもやられた!
『恐怖小説 キリカ』は全3章からなる小説で、それぞれ
第一章:小説「不幸は出発の前に」香川隼樹
第二章:小説「長い長い妻の告白」香川霧香
第三章:小説「友人に関する覚え書き」梶山啓太
というタイトルが付いています。
まあこの構成が実に見事なものでして、詳しく長々と語り尽くしたいところなんですがネタバレになりそうなので言いません。
ふっふっふ。
『恐怖小説 キリカ』のポイント
①ホラー小説でありながら一気読みさせるほどのエンターテインメント性を持つ。とにかく面白い。
②なかなか出会うことのできない希少なタイプの「怖さ」が楽しめる。
③目を背けたくなるほどのグロシーンがあるので注意。ただし決してメインではないので、グロいのが苦手だから読まないというのは非常に勿体無い。
④全三章からなるこの構成が「巧い」。
⑤著者の澤村伊智さんは多分ホントにヤバイ人(褒め言葉)。
いやー、これだけ面白いホラー小説を読ませていただいたのも久しぶりです。
澤村さん作品は『ぼぎわんが、来る』と『ずうのめ人形』のどちらも面白かったですが、『恐怖小説 キリカ』はそれらの作品より、「怖さ」と「エンターテインメント性」のどちらにおいても上回っていますね。
ホラー小説がお好きなら、まず読んでいただいて間違いないでしょう。
この作品の面白さと怖さをぜひ味わっていただきたいです。
それでは、良い読書ライフを!・・・と言いたいところですが、最後にもう一つ、皆様に伝えなければいけないことがあります。
澤村伊智さんの作品のレビューを書くときは、くれぐれもご注意ください……。
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