小林泰三『殺人鬼にまつわる備忘録』-記憶が数十分しか持たない主人公VS殺人鬼

小林泰三さんの名作『記憶破断者』が改題され、『殺人鬼にまつわる備忘録』として文庫化しました。

記憶が数十分しか持たない主人公と、相手の記憶を改ざんすることができる殺人犯との戦いを描いたミステリーです。

小林泰三さんの作品の中でもトップクラスで面白いので、ぜひぜひ文庫化を機会にお手に取ってみてくださいな(´∀`)

 

小林泰三『殺人鬼にまつわる備忘録』

見覚えのない部屋で目覚めた田村二吉。彼は記憶が数十分しか持たない『前向性健忘症』を患っていた。

彼の生活の基盤となるノートには田村の状況が事細かに書かれていた。

あった出来事を全てノートにメモする彼を衝撃的な出来事が襲う。

ノートには現在自分が「殺人鬼と戦っている」と書いてあった。

田村のことを知っていると言う老人や元恋人を名乗る女性など、様々な人物が現れるも信頼できるのはノートだけ。

記憶を改ざんする超能力を持った殺人鬼は次々と犯罪に手を染める。

それを理解できるのは田村だけ。彼は殺人鬼との戦いに勝つことができるのだろうか。

最後まで目を離せない戦いが繰り広げられる。

登場人物の設定とそれを上手に取り込んだストーリー展開に読む手が止まらない!

『やれやれ。俺は毎朝、こんな調子で自分の状態を知って、こんわくしているのか?』

(P.16)

『殺人鬼にまつわる備忘録』の何よりの見所は、キャラクター設定の巧みさにあります。

その抜群に面白い設定を余すことなく使って物語は進んでいきます。

キーワードはずばり『記憶』。

新しい出来事を記憶することができない主人公と記憶を改ざんする能力を持つ殺人鬼の対決が紙面いっぱいに描かれています。

主人公は「前向性健忘症」という病気で、一日どころか数十分も記憶が保持できません。

覚えていることさえできない主人公が殺人鬼と対決するなんて無理だと思えます。

しかし、作者である小林先生は、その設定さえ上手に生かし、読者には思いつかないような展開を作り上げます。

パズルのように組み上がっていくトリックと殺人鬼との対立は時間を忘れてしまう面白さがありますよ!

キャラクターも全てが個性的です。

主人公が前向性健忘症という時点で異色ですが、対する殺人鬼が“罪悪感というものをほとんど持たない超能力者”というのも良い対比になっています。

ありがちですが、無敵かと思われた“超能力”に対抗できるのが主人公だけという設定もわくわくせずにはいられません。

主人公を取り囲む異質な状況を異質に思わせずに、殺人鬼との対決へと読者の目を向けさせます。

最後には「ええっ?」と思うどんでん返しまであるので、どの場面でも気を抜く暇なんてありませんよ!

考えることさえ面白い推理モノの傑作!

推理を楽しむ小説は世の中に数多くあります。

ミステリーだったり、サスペンスだったり、エンタメ性を極限まで高めたものから社会に鋭い視線を向けるものまで、多種多様です。

その中でも考えること自体が面白く感じられる作品は非常に稀!

考えるって、当然ですが頭を使いますよね。難解な謎を解いていくのはミステリーの醍醐味とも言えます。

うんうん唸りながら推理をしても結局的外れなものだった、なんて経験は誰しもしたことがあるはず。

名探偵がいくら鮮やかに解決策を見せてくれたとしてもどこか悲しい気分になります。

この作品はそういったことが全くありません!

主人公自体がすぐに記憶を喪失するので、現状と今までの記録を合わせて読み込んでいくような感覚です。

読者である私達が疑問に思うことを主人公も忘れているので、「あれ?」と頭を捻ることはありません。

それでいて、しっかりと物語は進んでいきます。しかも感覚としてはとてもスピーディに。

読者を飽きさせず、山場を色々な所に盛り込む作者さんの手腕は凄いの一言です。

『他人の過去を自在に作り上げるなんてそうそうできる体験ではない』

(P.383)

作中であるキャラクターが言っていたセリフになります。

この一言が作品の全てを言い表しているように思えました。

記憶がなくなる主人公は、全ての記憶を疑います。自分の記憶も含めて。

だからこそ記憶を改ざんする能力にも対抗することができるわけです。

全てを疑わないといけないのだから、全てを信用できません。だけど、『疑っていたこと』さえ忘れてしまう。

そんなあやふやな状況の中でも、刻々と事件は進んでいきます。

誰が本当に信用できて、誰が主人公の味方なのか。何度も読み返したくなる内容ですね。

読むたびに色々な視点から考えることができる面白い作品です。

ミステリーとしては、もちろん、物語として非常に面白い小説!

『警告! 自分の記憶は数十分しか持たない』

(P.5)

こんな警告文で始まる小説は他に見たことがありません。

まるでパズルのように物語が進んでいく面白さは独特のもの。

記憶を改ざんする能力を持つ殺人鬼をどうやって捕まえるか、普通のミステリーとは逆の方向に頭を働かせる内容になっています。

主人公のバラバラな記憶を読者自身が組み立てながら物語を成立させていくので、読者自身が物語を作っているような感覚になります。

非常に稀な考えることが楽しくなる小説です。

ミステリーや推理ものが苦手な人であっても、まるでゲームをしているかのような気分で物語に入り込めます。

あっという間に時間が過ぎるという経験をさせてくれるでしょう。

キャラクターの設定、性格の描写、物語の構成、展開。

どれをとっても傑作の太鼓判を押すことができる作品です!ぜひご覧あれ(´∀`)

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2 Comments

こはる

そもそも人物設定が、全くイメージを沸かせないと言いますか どういう展開になっていくのかを想像できないと言いますか

なのにも関わらず、その記憶に関する設定を知ってしまった時点で読まずにいられない引き込み方をしてくるって不思議です 多分、すごい一冊なんでしょう(語彙力w) 頭をクリアにして挑まなければ!彡(^)(^)

最近では本格系読むことが多かったので、これは楽しみです またいい本を紹介されてしまいましたねえ…..(嬉)

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anpo39 anpo39

いやほんと、設定勝ちと言いますか、よくこんな設定思いつきますよね。
そしてよくこんな設定で面白い物語がかけますよね。さすが小林さんです(*´ω`)

ぜひぜひ、お手にとってみてくださいな!本格はもちろん、たまにはこういう特殊ミステリも面白いもんです!

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