青崎有吾『早朝始発の殺風景』-ワンシチュエーション&リアルタイム進行する五つの“青春密室劇”

青春は気まずさでできた密室だ――。
今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。
始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく――。
ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行でまっすぐあなたにお届けする、五つの“青春密室劇”。書き下ろしエピローグ付き。

『早朝始発の殺風景』

午前5時35分、とある事情で早朝始発の電車で学校に向かった加藤木(かとうぎ)が目にしたのは、あまり親しくないクラスメイト・殺風景(さっぷうけい)の姿。

彼女は確か部活には入っておらず、もしかして恋人に……と思ったものの、それは違うような気がした。

では、昨日は夜中からずっと遊び歩き、睡眠をとるために?それも違うだろう。

そもそも彼女が唯一親しくしている人物は事情があり、今は学校には来れていないのだった。

では、なぜ彼女はこんな早朝に電車に乗っているのだろうか……。

 

「最初にこれ持ってきちゃう?」というくらいに伏線の張り方と回収の仕方が素晴らしいです。

最初からフルスロットルで、次以降の話が不安になるレベル。

それでいて最初から最後まで雰囲気がいいです。ずっと読んでいたくなりますねえ。

メロンソーダ・ファクトリー

真田(さなだ)と詩子(うたこ)とノギちゃんの3人はファミレスでだらだらとおしゃべりするのが日課だった。

というのも、そのファミレスはドリンクバーが安く、種類が充実しているからだ。

ただ、今日は「クラT」こと第一回クラスTシャツの会議をすることになっていた。

事前にクラス内でデザイン案を募集していたのだが、来たのはたったの一通だけ。

結局、持ってきたもうひとつの案との2択となる。

ただ珍しいことに、この会議で詩子が真田の意見に反対してギクシャクすることになってしまう……。

 

シチュエーション自体は本当によくあるものです。

学生時代はもちろん、社会人になってからでも遭遇するシチュエーションでしょう。

ただ、こういった何でもないシチュエーションが気まずさを生み出し、ミステリーらしくもなるという……可能性を感じられる短編です。

予想外の結末になるので、読み漏らさないように。

夢の国には観覧車がない

幕張ソレイユランドは、よくも悪くもそれなりの規模、それなりの値段で、それなりのアトラクションをそれなりに楽しめるため、「それなりランド」と呼ばれていた。

僕たちフォークソング部は3年生の追い出し会で「それなりランド」ことソレイユランドに来ているのだった。

追い出し会の主役である3年生の寺脇(てらわき)は密かに思いを寄せる葛城(かつらぎ)と最後の思い出を作って告白を計画していたが、後輩でしかも同性の伊鳥(いとり)と観覧車に乗ることに……。

 

もっとも青春している短編です。

読者も一緒に楽しみながら真相にたどり着くことができるのですが、真相を導き出すロジックはもう素晴らしいの一言です。

捨て猫と兄弟喧嘩

両親の離婚が原因で離ればなれに暮らしている兄妹がいた。

学校帰りに友人から聞いたケーキ屋さんに向かおうと公園を横切った妹は、仏頂面で小太りの猫を見つける。

住んでいるアパートはペット禁止で、妹は猫アレルギー持ち。兄に頼むものの、即答で拒否されてしまい……。

 

早い段階で結末は見えてくるものの、ラストまで読み進めると予想外の伏線の多さに驚かされます。

清々しいほどに「やられた!」という感覚を味わえる短編です。

三月四日、午後二時半の密室

クラスで浮いている煤木戸(すすきど)さんは卒業式に学校を休んだ。

私、草間(くさま)は煤木戸さんの家に卒業証書とアルバムを届けにやってきた。

私と煤木戸さんはまったくといっていいほど親しい関係ではないし、クラス委員という役柄で仕方なく来ているだけ。

ただ、煤木戸さんが本当に風邪を引いているのか怪しく感じられ、部屋も何かがおかしいような気がして……。

 

想像しただけでも気まずいシチュエーションです。

読んでいるこちらまで気まずくなってしまうような雰囲気です。

何気なく感じた疑問というか疑惑がさらなる疑惑を呼び……という感じで、止まらなくなります。

どの短編にも言えることですが、ロジックが本当に美しいです。

感じていた気まずさがどんどん晴れて、心も体も軽くなっていくような快感を味わうことができます。

青春小説としても抜群に面白い

まさに「青春は気まずさでできた密室だ」という表現が本当にぴったりな作品に仕上がっています。

どれもこれもありがちな気まずいシチュエーションなのに、それを見事にミステリーに昇華しているのです。さすが青崎有吾さん。

短いお話の中の何気ない表現の中に伏線がビシッと隠されており、どれも完成度が高いです。

しかも綺麗なロジックの謎解きであり、一編読むごとにすっきり感が味わえます。

青崎有吾さんならではの登場人物の個性的な名前も楽しめますね。

読み終わった後には心がスッキリとするような短編集なので、気持ちよくおすすめすることができます。

ミステリはもちろん、青春小説も好きだというかたはぜひどうぞ。

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1 Comment

アバター アラシナオヤ

いやはや、丁寧に描写された生々しい気まずい空気感に浸るということが、どことなく心地良く、そんなタイミングで鮮やかな謎解きの背負い投げ。巧みな構成が光る、切れ味鋭い技ありの短編集というのは、長編とはまた違った魅力があって、実に青崎さんらしい魅力的な世界観。堪能しました。扉絵の出版社の垣根を超えた遊び心ににやにやできたのも嬉しかったです。

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