『賛美せよ、と成功は言った』-碓氷優佳シリーズ最新作は今までとは違うタイプの心理戦が!

石持浅海さんの碓氷優佳(うすいゆか)シリーズ最新作が発売されましたね!と言っても10月のことですが。

すっかりご紹介するのを忘れていました(ノ∀`)

 

碓氷優佳シリーズとは、探偵ではなく犯人視点で物語が進んでいく「倒叙ミステリー」であり、石持浅海さんの人気シリーズです。

これがまた、めちゃくちゃ面白いんですよ。倒叙ミステリは数あれど、その中でもトップクラスに好きでして。

さあ今回も犯人の立場になり、碓氷優佳に責められて恐怖するぞ!と思っていたら、おや?

今作は、いつもの碓氷優佳シリーズとはちょっと違うぞ……?

 

目次

石持浅海『賛美せよ、と成功は言った』

語り手となるのは、武田小春。

十五年ぶりに再会した「かつて」の友人・碓氷優佳とともに、予備校時代の仲良しグループが催した祝賀会に参加した。

仲間の一人・湯村が、ロボット開発事業で名誉ある賞を受賞したことを祝うためだった。

恩師の真鍋先生をはじめ、小春たちを含めた教え子が九名、総勢十名が出席し、宴が始まった。

しかし。

出席者の一人・神山が、皆の目の前で突然、ワインボトルで真鍋先生を殴り殺してしまう。

当然、他の出席者は呆然。

そんな中、優佳は「あの人物」に違和感を覚えた。

小春が見守る中、優佳と「あの人物」との息詰まる心理戦が始まる。

さあ、心理戦をはじめよう!

あらすじからわかるとおり、今回の事件では、犯人も、殺害方法も、その場にいる全員がわかっている状態です。

そこから心理戦が始まるんです。

 

不思議に思いませんか?

これまでの碓氷優佳シリーズでは、犯人だとバレていない犯人と碓氷優佳の心理戦が見所だったわけですよ。

でも今回の場合、先生を殺害した犯人は神山であることは間違いなく、事件後すぐに警察に連れて行かれます。

残ったのは、亡くなった先生と犯人の神山を除いた、8人の教え子。

すでに犯人も殺害方法も皆わかっている状況の中で、なぜ心理戦が始まるのでしょうか?

 

そう、「なぜ神山は先生を殺害したのか?」です。

 

今までの碓氷優佳シリーズとはちょっと違う

これまでの碓氷優佳シリーズは、読者が犯人の視点に立ち、碓氷優佳がガンカン攻めてきて恐怖を覚える、倒叙ミステリらしい構成でした。

しかし今回は、「碓氷優佳」と碓氷優佳が違和感を覚えた「あの人物」との心理戦が、「小春」視点で語られていきます。

つまり、第三者の立場から「探偵と犯人」の心理戦を眺める、という新しい形式をとっているのです。

これによって、シリーズ最大の見所である「碓氷優佳に追い詰められる怖さ」は緩和されました。

一見デメリットのように思えますが、そのぶんストーリー展開と人物関係、状況設定の巧みさが増しており、石持浅海さんのテクニックが良くわかる一冊となっています。

今までのシリーズでは犯人視点だったため、犯人の心理状況が良くわかる状態でした。

それに対し今回は第三者視点のため、犯人が何を考えているかがわからない。だからこそ、先が見えなく、犯人が何を仕掛けてくるのか、が気になり物語にのめり込まされるのです。

前作は絶対に読んでおこう

碓氷優佳シリーズはこれまで

1作目『扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

2作目『君の望む死に方 (祥伝社文庫)

3作目『彼女が追ってくる (祥伝社文庫)

4作目『わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (祥伝社文庫)

と発売されていますが、今作は4作目『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』と大きな繋がりがあります。

なので、『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』を事前に読んでおくと、より楽しめます。

だからこの際、未読であれば1作目から全部読んじゃいましょう。それだけ胸を張ってオススメできるシリーズです。

『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』は、今作の語り手となる小春と碓氷優佳の青春時代が描かれた、青春ミステリーの傑作なので。

あのころ少女だった小春と碓氷優佳が、今作では大人になっていて、「ああ、大人になったなあ」と当たり前のことを感じました。

本音を言うと

実際、「第三者の立場から「探偵と犯人」の心理戦を眺める」という形式によって、碓氷優佳の「ヤバイ感」が減少してしまっていることに、少し物足りなさを感じてしまったのも事実です。

1作目『扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)』名作

2作目『君の望む死に方 (祥伝社文庫)』名作

を読んだらわかるのですが、碓氷優佳の洞察力と推理力ってちょっと異常なんですよ。

「美しき”モンスター”6年ぶりの降臨!」なんて帯に書かれていますからね。実際、モンスター級なんです。

普通の人間の思考の先の先を常に読み取っていて、本当に人間の心を持っているのか?と存在そのものに恐怖を感じてしまう人物なんです。

でもそこが碓氷優佳の最大の魅力であって、私がこのシリーズを好きになった理由でもありました。

今作でも十分すぎる洞察力を発揮しているんですけどね、彼女の本領はこんなもんじゃない、とも思ってしまったのが正直なところでした。

おわりに

じゃあ結局面白いのかと言うと、超面白いです。オススメです。

碓氷優佳シリーズは、本当に面白いです。

『賛美せよ、と成功は言った』を読んでまた1作目から読み返したくなりました。

まだ碓氷優佳シリーズをお読みでないなら、ぜひ1作目『扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)』から。

もう読んでいる方は、ぜひ今作を。今ままでの碓氷優佳シリーズとはちょっと違う楽しさを味わえますよ。

 

新書で187ページくらいの短さなので、サクサク一気読みできます。ぜひお気軽に。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (6件)

  • 絶対紹介してくれると思っていました!だってあの碓氷優佳シリーズだもの!
    初めて扉は閉ざされたままを読んだときのことは、結構昔だけどいまだに覚えています。ジャンルとしての倒叙ミステリにあまり触れたかかとがなかったから、とんでもなく新鮮で魅力的でした。それからずっと追いかけてきているシリーズですが、こういう変化球気味な設定もいいかなと。モンスターっぷりを見て見たいというのはもちろんですが、それでもミステリとしてめちゃくちゃ面白いのだから全然いいかなあ。他にも彼女が活躍する物語を読みたいです。その容赦のなさに戦慄したいですね。

    • バレてましたかー!笑
      これはご紹介せざるを得ない!だって碓氷優佳シリーズなのだもの!
      私も初めて『扉は閉ざされたまま』を読んだときは碓氷優佳の洞察力に震えましたね。倒叙ミステリの面白さを改めて思い出させてくれた作品です。
      今回は今までとちょっと違う構成でしたが、それでも碓氷優佳シリーズは面白い。本当に、どんどん彼女の活躍を見たいです。
      次作は『扉は閉ざされたまま』のような本格倒叙ものだと嬉しいですね〜。あの冷酷さが愛おしい。。

  • 碓氷優佳~♪
    「扉閉ざされたまま」しか読んでないのですが、超面白かったです。
    探偵的魅力も論理も最高ですが、何と言ってもあの終わり方が堪りません。
    シリーズ探しま~す♪

    • 碓氷優佳良いですよねー!あの観察力と鋭さと冷酷さがクセになります。本当に恐ろしい探偵。でもそこがいい。
      ぜひぜひシリーズ制覇しちゃってください!今のところ本当にハズレなし。どれも面白いですよ〜(*´∀`*)

  • 碓氷優佳シリーズ大好きなシリーズの1つです!小春が、まさか武田姓になるとは驚きでした。確かに良い作品なんですけど、【扉は閉ざされたまま】の衝撃がスゴすぎて、自分も今回は少しもの足りなかったので、次回作に、また期待です♪

    • 碓氷優佳シリーズ良いですよね!
      そうなんですよ、やっぱり『扉は閉ざされたまま』が面白すぎたと言うか、碓氷優佳の持ち味が存分に生かされていましたよね。次は、また犯人視点に立って碓氷優佳に追い詰められるゾクゾクを味わいたいです(´∀`)

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