北森鴻『桜宵 香菜里屋シリーズ2』- ビアバーで繰り広げられる連作短編ミステリーの金字塔

東京三軒茶屋の裏路地にあるビアバー《香菜里屋》。

隠れ家のようなそのお店では、マスターである工藤がいつもお客たちを笑顔で迎えてくれていた。

―ある日警察官である神崎守衛は妻の遺品の中から1通の手紙を見つける。

その内容は三軒茶屋のビアバー《香菜里屋》に妻が“最後のプレゼント”を用意したというものだった・・・。

神崎は足を運んだビアバー《香菜里屋》でマスターの工藤が振る舞った炊き込みご飯を口にするが、驚いたことにそれは妻の作るものと全く同じ味。

なんともいえぬ感傷に浸る神崎であったが、その料理名を聞いて愕然とすることに―?

ビアバーに集う常連客とマスターの推理合戦

隠れ家的なたたずまいでひっそりとオープンするビアバー、香菜里屋に集うさまざまな人たちと、バーのマスターの会話を楽しむ連作短編集です。

常連客が話し始める不思議な出来事をマスターが次々に解き明かしていく様子は爽快で、古典的な安楽椅子探偵のスタイルを取りながらもどこか心温まるような感覚も楽しめます。

推理を楽しむだけでも読み応えがありますが、登場人物の細やかな心理描写にも注目です。

常連客はなぜ香菜里屋に足を運び続けるのか、マスターにはどんな背景があるのかなどを考えながら読むのも楽しいですよ。

今作には表題作「桜宵」の他、「十五周年」「犬のお告げ」「旅人の真実」「約束」という5作品が収録されています。

いずれも重ための内容であり、人の心の隠された部分、歪な部分が垣間見えるようなものばかりです。

読後はどこかやるせないような、切ない気持ちにさせてくれます。

その分香菜里屋のマスターの雰囲気がいい箸休めとなり、心地よく読み進めることができるでしょう。

物語にまつわるお酒や料理にも注目

この香菜里屋シリーズには、事件や物語にまつわるお酒や料理がたびたび登場するのが特徴です。

創作料理の描写はどれも香りまで漂ってきそうなほど丁寧で、読んでいるとお腹がすいてしまうことでしょう。

読み終わったあとにレシピを考えて作中に登場した料理を再現してみるのも楽しそうですね。

ビールやお酒の説明もしっかりされており、飲んだことがない方、ビールが苦手な方でも味を想像しやすいです。

物語に関連づけられた、苦くて切ない味のビールを文字から摂取してみてください。

それぞれの物語に登場するキャラクターにも注目です。

ある物語の主役とも言える立ち位置だったキャラクターが別の物語では脇役として登場したり、どの物語にもちょっとずつ顔を出すキャラクターがいたり、ビアバーという小さなコミュニティの中で広がる世界にわくわくしてしまうことでしょう。

自分もこのビアバーに行ってみたい、こんな心安らぐ素敵なビアバーを見つけたい、と思ってしまう方も多いです。

マスターも前作に引き続き魅力的に描かれていますので、そんな香菜里屋の店内の様子も楽しみながら読んでみてください。

人気の香菜里屋シリーズ第二段!

今作は北森鴻氏による人気の香菜里屋シリーズの第二段です。

初めて出版されたのは2006年のことですが、2021年に新装版が登場し、新たに話題を集めています。

今シリーズをこの新装版で初めて触れるという方も多いでしょう。

シリーズは「花の下にて春死なむ」「桜宵」「蛍坂」「香菜里屋を知っていますか」の四作品です。

いずれも連作短編集の形を取っており、長編小説が苦手な方でも楽しみやすい構成になっています。

第一段と比較するとややビターなテイストの作品が多く、ほっこりする内容が多い「花の下にて春死なむ」のような小説を期待して読むと少しびっくりしてしまうかもしれません。

ですが悲惨な結末が待っているというわけではなく、読後はじんわりと切なくなるような物語ばかりです。

物語のテイストだけでなく、ミステリ小説としてのクオリティも非常に高いです。

短編それぞれに使われているトリックが違い、人を操作して物語を進める展開、ラストに一気に謎が解き明かされる展開、さらに科学的な根拠だけでなくややオカルト的な要素も含めた展開など、さまざまなテイストの物語を楽しむことができます。

なかなか気軽に飲食店にも行けず、お酒を提供してくれるお店も見つけにくい昨今ですが、自宅でお気に入りの酒とおつまみを用意してじっくり読んでみてください!

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