国内ミステリー小説

夕木春央『サーカスから来た執達吏』- 財宝探しの道中で描かれる本格ミステリー

時は大正時代。

大震災の影響で莫大な借金を抱えた樺谷子爵家を取り立てに訪れたのは、晴海商事からの使いであるサーカス出身の少女・ユリ子だ。

借金返済に応じてくれないことを悟ったユリ子は、樺谷家の三女・鞠子を担保に差し出し、2人で「財宝探し」をしようと提案してきたのだ。

樺谷家はやむを得ず借金返済を終わらせるための提案を受け入れ、ユリ子と鞠子は「財宝探し」の旅に乗り出すことになる。

この壮大な旅の目的は、絹川子爵がかつて隠していたとされる莫大な財産を見つけることである。

ユリ子は借金を返済してもらうため、鞠子は樺谷家の借金を返済するために、2人は意気投合して目的達成を果たすことを試みる。

しかしながら、絹川子爵家で起こった未解決事件の真相、そして、いまだ眠り続ける財産の行方は調べるほど謎が深まるばかりで……。

同じ目的を持った人物が描き出す冒険物語

この作品では、サーカス出身の少女・ユリ子と樺谷家の三女・鞠子が、財宝探しのために冒険に乗り出す物語が描かれています。

我々にとって馴染みの薄い大正時代がこの物語の舞台ということもあり、やや取っつきにくいイメージを持つかもしれません。

しかし冒険の過程で度々意識させられる「財宝探し」という目的は、読んでいる人をワクワクさせる要素を多く含んでいます。

財宝探しの道中には、暗号解読や屋敷潜入などの非現実的な展開が豊富に盛り込まれているため、ミステリー小説ならではの謎解き要素を残しながらも、冒険心をくすぐる工夫が施されているのです。

また冒険に乗り出すことになった2人の少女は、借金を貸し借りしている対立的な関係といえますが、「財宝探し」という観点では同一の目的を持っています。

こうした背景から、財宝の在処を突き止める過程で待ち受ける数々の試練を、2人で協力して解決していく描写もまた注目すべき点といえるでしょう。

洗練されたトリックや謎解きが散りばめられた古典的ミステリー小説が好きな方はもちろん、様々な試練を通じて描かれる登場人物の関係性に目を向けたい方にもぜひおすすめしたい1冊です。

冒険性とミステリーの絶妙なバランス

あらすじの冒頭を読んで「財宝探しという強い目的に沿って描かれていることで、ミステリーの描写は薄くならないのかな?」と、疑問に感じるかもしれません。

しかし『サーカスから来た執達吏』で描かれる物語は、冒険性とミステリーの2つの要素を絶妙なバランスで取り入れて構成されているのが興味深い点です。

ストーリーが展開されるテンポの早さがこの作品の特徴であるため、冒険心や好奇心を持ちながら最後まで飽きずに読み進めることができます。

そのうえ、巧妙に隠された暗号読解や事件の手掛かりがミステリーの面白さを引き出し、物語の世界に引き込むトリガーにもなっているのです。

本書の物語には、2人の少女が謎の屋敷に潜入して謎解きに必要な情報の収集をしていく描写がありますが、このような状況こそ「冒険性を持ってミステリーを楽しむ」秘訣が埋め込まれているのではないでしょうか。

また、本書の内容説明欄には「怒涛の30ページに目が離せない。」という記述が含まれていることもあり、前半を読むだけでは予測できないほどの ”何か” があることを、事前に公表しています。

キャラ立ちした2人の少女の大冒険に感情移入しつつ、突如繰り出される衝撃の展開に翻弄されることもまた、本書の楽しみ方の1つといえるでしょう。

メフィスト賞作家、圧巻の純粋本格ミステリー

夕木さんは、2019年に『絞首商会の後継人』で第60回メフィスト賞を受賞し、その後改題された『絞首商會』で、小説家としてのデビューを果たします。

デビュー作『絞首商會』は推理作家である有栖川有栖さんから、「昭和・平成のミステリ技法をフル装備し、大正時代半ばに転生した世界観を創り出した極上の逸品」と絶賛されるほどの1冊です。

そんな新進気鋭のミステリー作家が生み出した本格ミステリー小説『サーカスから来た執達吏』は、デビュー作に続く第2の作品として注目を集めています。

「大正時代」を舞台に進む物語の中には、現代人にとって理解しにくいと感じる時代背景の描写が多く取り入れられていますが、軽快なテンポで繰り出されるストーリー展開と個性的なキャラクター達の魅力もあって、馴染みやすさも感じます。

読者が体験する「遥か昔の出来事なのに、どこか現代的で読みやすい」という矛盾的な違和感は、有栖川さんが絶賛していた「大正時代半ばに転生した世界観」が2作目にも活かされている証拠といっても良いのではないでしょうか。

また、冒頭で登場する大正時代の時代背景や、借金返済という重いワードから、どこか仄暗い物語を想像してしまう方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、謎解きの過程で描かれる少女達の自由闊達なふるまいによって、ネガティブな出来事の中から、どこか明るい印象を見い出すことができます。

そのため暗い物語が苦手な方でも、心地良い空気感で最後まで読み進めることができるでしょう。

ミステリ小説や冒険要素満載の小説が好きな方であれば、夕木ワールドにはまること間違いなしです。

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anpo39
年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)
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