先日、クイーンのライツヴィルシリーズ『フォックス家の殺人』の新訳版が登場しました。
テンションが上がってしまったので、シリーズ二作目の『フォックス家の殺人』の前に、シリーズ一作目の『災厄の町』から改めて読んでみました。
うーん、やっぱり面白い……!そして再読するとまた新たな発見があったりと楽しかったです。というわけで簡単にご紹介を(*’▽’*)
ノーラとジム・ハイトは許嫁の関係にありました。
しかし二人の結婚式の前日にジムは忽然と街から姿を消してしまいます。
それから三年後、ジムはふらりとノーラの待つライツヴィルに帰ってきました。ノーラとジムはすぐに結婚し、新婚生活を送ります。
ある日、ノーラはジムが読んでいた「毒物学」という本に、三通の手紙が挟まっているのを発見します。
まだ送られた形跡のないその手紙には、ノーラは死んだと書かれていました。
その日付は二ヶ月先のものです。毒物学の本には、ある毒物にジムがラインを引いた跡がありました。
自分は殺されるかもしれないと、ノーラは不信感を抱きます。しかし二ヶ月後、毒殺されたのは別の人物でした。
一方、探偵であるエラリイ・クイーンは偶然時期を同じくしてライツヴィルを訪問します。
そして街の名家であるノーラの家で起きた事件を知り、真相を探るべく捜査に踏み出します。
エラリイクイーン『災厄の町』
名探偵エラリイ・クイーンを語る上で欠かせない街、ライツヴィルを舞台にしたシリーズの第一作目です。
他のエラリイ・クイーンが登場する物語と同じく、謎解きばかりではなく複雑な人間関係を読み解く必要がある作品です。
久しぶりに読んで、小さな街で起きた愛憎劇をじっくりと楽しむことができました。
エラリイ・クイーンが登場する国名シリーズは謎解きがメインですが、ライツヴィルを舞台にするこのシリーズは心理描写に重点を置いた物語が多いです。
より物語に深みが増し、自分もライツヴィルの住民になったような気持ちで読み進められます。
しかし謎解きが曖昧なわけではなく、しっかりと論理的に解決を目指すエラリー・クイーンの姿勢は変わりません。
作中のいたるところに張り巡らされた伏線を読み取り、エラリイ・クイーンと一緒に謎解きを楽しみましょう。
しかし難易度は高め。かなりエラリイ・クイーンの作品を読み慣れている方でも、先に真犯人にたどり着くのは難しいのではないでしょうか。
エラリイ・クイーンは今回も、ほんのささいな証拠から真犯人を導き出します。そして彼が語る真犯人の動機は切なく、胸がしめつけられます。
また、エラリイ・クイーンの心理描写も丁寧でした。
これまでのクイーンの登場する小説とは異なり、ただ単なるパズルとして収まっていなく、人間の愛情や憎悪、絶望、悲劇などが丁寧に描かれているのも特徴。
事件を解決して満足するのではなく、自分が真犯人を探り当てたことで誰かを不幸にしたのではないか、という苦悩も描かれているのが印象的です。
国名シリーズでは明かされることのなかった彼の新たな一面が垣間見える瞬間です。
作中に登場するライツヴィルは架空の街ですが、これも非常にリアルに描写されています。
実際にそんな街があるのだろうかと思いを馳せてしまいます。
このリアルさは、街の住民の描写のおかげでもあります。
善人ばかりではなく、登場人物のノーラに嫌な噂を吹き込む住人がいたり、名家で起きた事件をざまあみろと言わんばかりに喜ぶ住民がいたりと、決して気持ちのいいものばかりではありません。
しかしそれ故に、田舎の街の鬱々とした空気感が再現できています。
ライツヴィルは今後のエラリイ・クイーン作品にも多数登場しますので、第一作目となる今作をぜひ読んでみてください。
クイーンの論理的な推理によって人間の内面が解き明かされていくラストには鳥肌が立つことでしょう。
作中の名探偵と同姓同名の作者エラリイ・クイーン氏は、他にも多数のミステリー小説を発表しています。
ライツヴィルをいう街を舞台にした作品は今作「災厄の町」に続き「フォックス家の殺人」「十日間の不思議」「ダブル・ダブル」「帝王死す」「最後の女」の六篇です。
「フォックス家の殺人」は最近新訳版が登場したので、「災厄の町」を読んだあとぜひ続けて読んでほしいところです。
どの作品でもライツヴィルの歴史や現在の状況、住人たちの様子も詳細に描かれているので、必ずしも最初の「災厄の町」から読み始める必要はありません。
しかし「災厄の町」から読めば一気にライツヴィルがどんな町なのか、探偵エラリイ・クイーンとはどんな関係があるのかを知ることができるでしょう。
シリーズの一作目にふさわしい、緻密なトリックや物悲しい雰囲気も素晴らしい完成度です。
世界中で未だに愛され続けているエラリイ・クイーンシリーズをまだ読んだことがない方への入門編としても、ぜひおすすめしたい一冊です。
