法学部4年の古城は、大学内で無料法律相談を受け付けている。
ある日、経済学部3年の戸賀が相談しに来た。
「2年半ほど事故物件に住んでいるが、今まで何もなかったのに、最近になって奇妙な現象が起こるようになった」
とのことだった。
夜中に赤ん坊の泣き声が聞こえてきたり、窓に真っ赤な手形がついていたり。
彼女はそれらを、心霊現象ではなく誰かからの嫌がらせだと考えており、古城に探ってほしいと言うのだ。
これが幽霊の仕業でないとするなら、一体誰の仕業で何が目的なのか。
古城は法律知識を駆使して謎を追うが―?
法律マシーン古城と閃きの戸賀が織り成す連作短編集、全5編!
サクサク読める軽めの法律モノ
『六法推理』は、現役大学生の古城が法律知識で事件の解決を目指す物語です。
法律書の「六法全書」を思わせるタイトルからもわかるように、リーガル・ミステリーですね。
法律というとどこか堅苦しいイメージがありますが、『六法推理』は全くそんなことはなく、とても読みやすいです。
文章のタッチが軽やかですし、全5編の短編集なので一話一話がテンポよく進み、サクサクと読めます。
主人公の古城と助手の戸賀も魅力的で、この二人、コンビとしての相性がとても良いです。
古城は理知的なタイプで、法律知識を武器にクールに事件に挑むのですが、対して戸賀は閃きタイプで、天性のカンでズンズンと行動します。
全く正反対でありながら、二人揃うと歯車がうまく噛み合って、道がどんどん開けていくのです。
このあたりも、テンポよく読める理由のひとつですね。
二人の会話も絶妙で、掛け合い漫才みたいなスピード感やズッコケ感があり、思わずクスッと笑ってしまうこともしばしば。
リーガルミステリーが好きな方にはもちろん、軽めのミステリーや凸凹コンビが好きな方にもおすすめの一冊です。
各話のあらすじや見どころ
『六法推理』
古城がゼミ室で運営している無料法律相談所「無法律」に、戸賀が相談に来ます。
戸賀は、3年前に妊婦が自殺した部屋(いわゆる事故物件!)に住んでいるのですが、最近気味の悪い現象が起こるらしく、その謎解きを古城に依頼しに来たのです。
古城と戸賀の出会いの物語ですね。
戸賀からの依頼ですが、戸賀自身も調査や推理に加わり、早くもパートナーシップが築かれます。
怪奇現象かと思いきや、全く違う方向に話が進むところが面白い!
『情報刺青』
今回の依頼人は大学生ユーチューバーで、テーマはリベンジポルノ。
出会い系サイトで会った男に、行為中の動画を実名付きでネット上にアップされ、困っているとのこと。
古城はもちろん、前回の件から押しかけ助手になった戸賀も一緒に調査します。
意外な真相にビックリ。
まさかリベンジポルノにあんな目的があったとは…!
『安楽椅子弁護』
古城の友人が学園祭の準備時に火災に巻き込まれ、怪我をした上、後遺症まで負ってしまいます。
友人は学園祭の実行委員会を訴えるのですが、古城はまだ正式な弁護士ではないため、法廷でサポートすることはできません。
そのため安楽椅子探偵ならぬ安楽椅子弁護人として、裏から手助けします。
大学生が裁判を起こすノウハウなど、法律のトリビアが興味深い物語です。
『親子不知』
依頼人は、毒親(お金をせびってきたり、物を盗んだり!)と縁を切りたがっています。
古城が「法律上、親子の縁は切ることができない」と言ったところ、ショックを受けた依頼人は、縁切りサービス「オヤコシラズ」を利用します。
ところが彼女は、数日後に死体となって発見され―。
古城は法律に従順で、だからこそ依頼人の気持ちに沿えないこともあります。
古城のそんな弱点をカバーする戸賀と、それを糧に成長する古城が見どころです。
『卒業事変』
大学の期末試験で、解答がネットで流出していたことが発覚しました。
しかもなんと「無法律」のTwitterアカウントから投稿されたらしく、戸賀がカンニング疑惑をかけられてしまいます。
加えて、教授のセクハラ問題まで絡んできて―。
古城と戸賀の信頼関係がグッと深くなる物語です。
卒業間近の古城の進路、そして残される戸賀と「無法律」がどうなるのか。
感動のラストシーンは、ぜひご自身で堪能してください!
日常に溶け込んだリーガル・ミステリー
『六法推理』の作者・五十嵐 律人さんは、なんと現役の弁護士さんです。
2020年、まだ司法修習生だった頃に『法廷遊戯』を執筆し、メフィスト賞を受賞して作家デビューされました。
その後も修習の傍らで執筆を続け、2作目3作目を発表します。
そしていよいよ弁護士としてもデビューし、新たに発表した作品が、『六法推理』です。
つまり本書は、五十嵐 律人さんが本格的な法律のプロとして書き上げた初めての作品ということですね。
そのため『六法推理』は、それまでの作品と比べると、よりリアリティに富んでいます。
五十嵐 律人さんご自身も、
「日常に溶け込んだリーガル・ミステリーを目指して書いた」
「実務に出たからこそ書けた」
と仰っています。
テーマも、事故物件やリベンジポルノや毒親など、現代の社会問題が多く、より身近なリーガル・ミステリーとして読めるのではないかと思います。
こういった点からも『六法推理』は注目すべき作品と言えますね!
そもそも、作家も弁護士も大変なお仕事なのに、完璧に両立されていることがすごいですよね。
しかも執筆のペースが非常に速く、作家デビュー後わずか2年で4作も発表!
その熱意やバイタリティには頭が下がります。
ぜひこのペースで執筆していただき、次の作品も早く読ませていただきたいです。

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