二階堂黎人さんの代表作である「二階堂蘭子シリーズ」の名作集の登場です。
今作は2014年に講談社ノベルスより発売されたものの文庫版で、『泥具根博士の悪夢』と『蘭の家の殺人』の中編二つと、短編『青い魔物』の計3編が収められております。
蘭子シリーズの魅力がたっぷり詰まっており、このたび3冊同時刊行された、
と並び、まさに「名探偵傑作短篇集 二階堂蘭子篇」と言っても良いのではないでしょうか。
しかしなぜ、同じ日に発売されたのにもかかわらず、『名探偵傑作短篇集 火村英生篇』『名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇』『名探偵傑作短篇集 法月綸太郎篇』の3冊は注目され、『ラン迷宮 二階堂蘭子探偵集』はそれほど話題にならないのでしょうか。単なる文庫化だからでしょうか。
私がよく行く本屋さんでも、火村、御手洗、法月の3冊は目立つところに綺麗に並んでいるのに、『ラン迷宮』は全然目立たないところにポツンと置いてありました。
なぜ!!!!!
4冊一緒に並べてもっと二階堂蘭子シリーズを注目させても良いのに!!!!(ノω`*)
(違和感なし?!)
というわけで取り乱しましたが、あらすじだけでも見ていってくだされば幸いです。
そして少しでも二階堂蘭子シリーズに興味を持っていただければなお嬉しいです。
1.『泥具根博士の悪夢』
泥具根(どろぐね)博士が〈霊応堂〉という実験室内で殺害された。
その実験室は四重の壁に囲まれていて、博士は一番奥の部屋でナイフに突き刺され死んでいました。
しかし、博士が死んでいた部屋に入るためには、計四つのドアを通らなければなりません。
しかも死体発見時はその四つのドアには全て鍵がかかっており、内側から鍵穴にハンカチが詰め込まれていたため、無理やりドアを打ち破るしかないほどでした。
ドアの鍵は博士のポケットの中に。もちろん博士がいた部屋に窓なんてモノはありません。
さらに死体発見時〈霊応堂〉は雪に囲まれており、犯人らしき人物の足跡もなかったのです。
つまり犯人は、
①玄関から現場までの四枚のドアに鍵をかけ、
②それぞれ内側から鍵穴を塞ぎ、
③博士のポケットに鍵を入れ、
④完全な密室となった〈霊応堂〉から雪に足跡を残すことなく消え失せた、
と考えられます。
四枚のドア&雪の足跡という「五重の密室」の出来上がりです。
これでワクワクしない方がおかしいでしょ( ゚∀゚)
あまりに不可能すぎる殺人のため、博士の助手は「超能力者の摩耶子という女が本物の超能力を使って博士を殺害したんだ!」と言う始末。
確かに超能力が使えれば密室を作ることは簡単ですし、ナイフをテレポートさせて密室内の博士に突き刺せるかもしれませんが……、はたして。
圧倒的不可能犯罪!
とにかく「謎」の魅力がで半端ありませんね。
四枚のドアに鍵、雪の足跡、超能力によるナイフのテレポーテーション、とワクワク要素が盛りだくさん。
どう考えても不可能と思われるこの密室を、あっさりと解決してしまう蘭子嬢。
正直に言うと〈五重の密室〉のトリックは思わず「そんなことか!」と思わされてしまうくらいにシンプルなのですが、これこそが素晴らしいところです。
決して大掛かりな、まさか!と唸ってしまうようなトリックは使っておりません。だからこそ、蘭子の華麗なる推理に「はあーなるほどー」とため息が出てしまうのです。
トリックそのものというよりは、物理トリックと心理トリックの巧妙な絡ませ方に注目しましょう。
2.『蘭の家の殺人』
婚約者である賀来慎児(がらいしんじ)が何者かに脅迫されているので助けてほしい、と依頼を受ける蘭子。
詳しく調べてみると、その脅迫には十二年前に起きたある事件に秘密があるようだ。
十二年前、賀来慎児の父である有名画家・賀来レオナは、パーティの最中に青酸カリを飲んで死んだ。
自殺かと思われたが、その数日後にレオナの妻が「夫は私が殺しました」と言い残して、同じく青酸カリを飲んで自殺した。
当時、レオナには妻の他に三人の愛人がおり、非常にドロドロした関係が渦巻いていた。
レオナの死は、本当に自殺だったのか?
当時現場にいた関係者に情報を聞きながら、過去に起きた事件の推理していく「回想の殺人」と呼ばれるタイプのミステリ。
作中にも名が登場しますが、アガサ・クリスティの名作『五匹の子豚 (ハヤカワ文庫』を意識して書かれたのでしょう。
関連記事:まず読みたい「アガサクリスティ」のおすすめ名作15選
密室&毒殺という素晴らしいコンビが繰り広げる、これでもか!というくらいのザ・本格。二階堂蘭子シリーズの中でも特に名作と名高い一品です。
解説でも述べられている通り、カー風の密室トリックにクリスティ風の毒殺トリックの組み合わせですからね。面白くないわけないでしょう。
特殊な人間関係をも巧みに取り込んだトリックをしかとご覧くださいませ。
3.『青い魔物』
二人の白人男性が野犬に襲われて死亡した、という新聞記事。
一人は廃墟となった精神病院の中で、もう一人は家の近くの林の中で。
蘭子が違和感を持ったのは、二人とも「野犬に胃袋を食いちぎられていた」ということ。
本当に野犬に襲われたのであれば、胃袋だけ食いちぎるなんで妙な真似をするわけがない。
警察に詳しい事情を聞いてみると、第一発見者の大学生たちは現場近くで、爪をむき出しにした真っ青な顔の怪物を目撃したという。
その一方。
高校生の健太郎とその妹・小百合の兄妹は両親を事故で亡くし、両尾博士という奇妙な研究者に引き取られ、博士の西洋館で暮らしていた。
博士は変人として有名で、人間の寿命を伸ばす研究や万能薬の開発に勤しんでいた。
そんな博士の様子がここ最近おかしい、と健太郎は語る。
一ヶ月余り前から、肌の色がだんだんと青くなり、髪の毛や目の色が銀色に変化していったというのです。
他にも怒りっぽくなったり、両手を垂らし気味にヨタヨタと歩いたり、大きく口を開けてよだれを垂らしたり、と奇行が目立つのだそう。
そしてついに、その青い魔物と化した博士に襲われ、命からがら館から逃げ出してきたといいます。
話を聞いた蘭子たちは、すぐに博士の研究所へと向かいますが……。
トリック云々の前に一つの物語として楽しすぎます。
『泥具根博士の悪夢』の泥具根博士やこの両尾博士など、変人博士が登場するお話はなぜそれだけでこんなに魅力的なのでしょう。
さらに、その博士が魔物に変化してしまった、と聞いては居ても立っても居られません。
江戸川乱歩や海野十三らの作品を思い起こさせます(特に海野十三の『蠅男』が好きなんですよね〜)。
関連記事:【帆村荘六シリーズ】海野十三『蠅男』は奇想天外が楽しい傑作短編集!
このような怪人が登場するミステリの何が楽しいかって、「怪人の存在が実はトリックだった」というパターンと、「怪人が本当に存在する」パターンのどっちなのか最後までわからないところですよね。
ちなみに私は「怪人が本当に存在する」パターンのミステリが好きです。
はたして、この『青い魔物』はどちらのパターンでしょうか……。
この機会に二階堂蘭子シリーズを堪能しよう!
個人的にはシリーズ2作目の長編『吸血の家 (講談社文庫)』や、「世界最長」のミステリー小説『人狼城の恐怖 第一部ドイツ編 (講談社文庫)』を特にオススメしたいのですが、これらの作品は面白いぶん、とにかく濃厚で長い。
特に『人狼城の恐怖』は、読みたいけど長すぎて手を出しにくい、という方も多いのではないでしょうか。
関連記事:「世界最長」のミステリー小説、二階堂黎人『人狼城の恐怖』を読破せよ!
そこで今回の『ラン迷宮 二階堂蘭子探偵集』です。二階堂蘭子シリーズを初めて手に取る方にも最適な一冊と言えるでしょう。
なにより「読みやすくて面白い」。それでいて、この一冊に蘭子の魅力が凝縮されています。
もちろんすでに『人狼城の恐怖』などで蘭子の活躍を楽しんでいただけた方や、純粋に本格ミステリが好き、という方にもうってつけです。
だって、密室ファンも唸る〈五重の密室〉の『泥具根博士の悪夢』に、カーとクリスティのトリックを盛り込んだ『蘭の家の殺人』、怪人小説として面白い『青い魔物』ですよ?
ドッキドキーのワックワクー!でしょう。
じゃあ『ラン迷宮 二階堂蘭子探偵集』を読むとどうなるかっていうと、他の蘭子シリーズも読んでみたくなっちゃうんですねーこれが。
そういう風にできているんですから仕方ないね。
他の名探偵傑作短編集ももちろんですが、この機会にぜひ蘭子シリーズの世界に足を踏み入れていただければと思います(゚∀゚*)ノ

御手洗潔篇

火村英夫篇

法月綸太郎篇

コメント
コメント一覧 (2件)
僕が利用している本屋もそうなんですが、あまり目立っていませんでした。もっとみんながこのシリーズにハマればいいのにな〜。
僕はつい最近、ここの記事の紹介で「人狼城」を読み、あのトリックを味わうことができました。それ以来僕は二階堂先生を不可能犯罪の神様と崇め奉るようになりました。また、紹介してくれたことに本当に感謝しています。それからシリーズを読みまくっていたんですけれど、この短編集も文庫化ということで、すぐに買って読みました。作者の持ち味がよく出ていて、五重密室の泥具根博士が一番楽しめました。不可能犯罪はいいなと、改めて思う一冊でした。
やっぱりそうですかー!なぜか目立たせてくれないんですよねー笑。
私ももっとハマる人が増えていただけると良いと思っているのですが……。
おお!人狼城を読破なさったのですね!
そう。あれを読んでしまうと二階堂様様様というか、まさに不可能犯罪の神様と崇めたてまつる事になってしまいますよね。こちらこそ、そう言っていただけて大変嬉しいです。
この短編集も良いですよね。蘭子の魅力がたっぷり詰まっています。
やっぱり五重密室はたまりませんよね!この不可能犯罪具合、まさに二階堂様。