大厄災によって人類が1%未満までに減少してしまった地球。
地球上のほとんどが不浄の土地として住めなくなってしまった中で、かろうじて生き残った人々はわずかな土地で人工知能カーネによって生活を制御され、平和に暮らしていた。
人工知能の元で生業を持ち、食べ物も家も無償で与えられる世界。
珊瑚礁の島に与えられた生業は『知の探究』。
ヤブサト助教授は行ってはならないとされていた南極を探索し、凶暴な獣を捕獲して島に持ち帰った。
しかしその獣・セジは逃走して暴れ始め、次々と人が襲われ殺されていく。
学長は大学入場禁止令出してセジの捕獲を試みるが──?
暴力や事件とは無縁に思われた世界で突然起こった、世界を揺るがす大事件。
南極で捕獲されたという獣・セジの正体とは?
一見平和ははずの世界に隠された真実とは?
人工知能による公平・公正な統治の元で、人間の取る行動とは?
第47回メフィスト賞受賞のミステリ小説作家によるSF×ミステリ×恋愛の新しい小説に、引き込まれること間違いなし!
全てを知ってから読む二回目も、新鮮な驚きに包まれるはずです。
大胆な舞台設定で描かれる人間の本質
人工知能による人の支配という設定自体は、人工知能が誕生してから(もしかしたら誕生する前から)これまでに盛んに使われてきた、定番の設定と思われるかもしれません。
しかしこの小説の見どころは、SFさながらの設定だけでは決してないのです。
人工知能によって生活を制限されている中で、人はいったいどのように行動し選択をしていくのか?
人間とは何なのかという、私たち人類にとって永遠の疑問と言ってもよい謎に、この小説は迫っているように思います。
行動を制限されている状態の方が、かえって人間の本質が暴かれやすくなるということなのかもしれません。
綺麗で軽いタッチで描かれる人間の本質という重いテーマ。
事件の真相とは、平和な世界に隠された謎とは、そして人間らしさとは?
ラストで明かされる衝撃の真実に、思わず読み返さざるを得ないでしょう。
数々の名作ミステリを世に送り出し、パニック・エンタテイメント作家としての一面も持つ作者。
単なる一事件の謎解きが世界全体の謎解きという壮大なテーマに繋がるときのクライマックス感は、卓越したSF描写が得意な作者ならではのものと言えそうです。
ミステリを読みながらも、人間とは何か・世界とは何かといった思考を味わいたいときに特におすすめの一作。
また、これまで周木律さんのミステリを呼んだことのある方にとっても、切り口や文体など、驚きの多い作品であるに違いありません。
はじめてこの作者の書籍を読む方にも、はじめてじゃない方にも、ぜひ読んでいただきたい一作です。
ミステリだけじゃない!恋愛・SFとしても傑作
もう一つこの小説が評判なのは、ミステリ部分以外の描写がしっかりされているというところ。
事件の発端であり本作の舞台である珊瑚礁の情景描写は、誌的で美しい文章でされており、読んでいてとても癒されます。
主人公の二人の関係性も、無垢で愛おしい気持ちに満たされ、二人が結ばれるシーンでは感動がこみ上げるのです。
恋愛小説としてもとてもレベルの高い作品。
それだけに、後半で世界の全貌が明かされてからの落差とショック感がたまらない!
そしてラストは壮大な世界の広がりと始まりを感じさせる展開に。
ミステリ・恋愛と並ぶ本作の醍醐味、SF描写が、この作品を力強く支えているのです。
ミステリ好きはもちろんのこと、SF小説や恋愛小説にとっても楽しめるミステリ作品となっているのです。
一味違うミステリ小説を読みたい方に!
2013年に『眼球堂の殺人~The Book~』でメフィスト賞を受賞してデビュー後、数々のミステリ小説を世に発表してきた作者。
「堂」シリーズ・猫又シリーズ・「症」シリーズなど、実にたくさんの作品を手掛けており、人気・実力ともに高い作家と言って過言ではないでしょう。
そんな実力派ミステリ作家による今作は、軽めで美しいタッチで描かれる異色のミステリ。
本格的なSF描写・恋愛描写を絡め、人間の本質や世界の真実に迫ることに成功しています。
人工知能によって管理された戦争や争い・暴力の無い世界は本当に理想なのか、人間の本質とは何なのか、世界に隠された真実とは何なのか。
一味違うミステリ小説を読みたい方にはピッタリのミステリ小説と言えるでしょう。
この小説以外にもたくさんの小説を出している作者。
気になった方は、他の小説も読んでみてください!
