『雷神』- 道尾ミステリーの真骨頂!善意と悪意が複雑に絡み合い新たな悲劇が始まる衝撃作

物語の至るところに様々な伏線が張り巡らされ、終章で全てが繋がり衝撃の大どんでん返しが待ち受ける、凝った作りの本作。

良くある共働き家族の平穏な日常が突然終わりを迎え、15年の月日が流れたある日。

主人公のもとに掛かってきたある一本の脅迫電話が引き金となり、主人公と娘、そして姉と共に忌まわしい過去をもつ故郷の村へ向かうのですが、そこでも新たな事件が起こり、未完成な情報が飛び交います。

謎がジグソーパズルのように散りばめられている中、終始不気味な雰囲気を放っており、それがこの物語の一つの魅力。

しかしトリックや仕掛けにより、前半は謎が多く矛盾を抱えており、同じ事件から受ける登場人物の印象も一致しません。

それが後半になると新たな事実が明らかになり、ジグソーパズルがはまっていくかのように、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。

終盤で明かされる事件の衝撃的な真実、そしてそこに至るまでの物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。

読み進めるにつれてミステリーならではの謎解きの魅力にハマる読者自身

本書を構成する雰囲気は終始薄暗く、それでも読み進めていく中で故郷の村である田舎独特の風習や気候などの歴史的背景や真実が浮かび上がってきます。

過去に起きた事件、そして新たな事件には多くの謎が残されており、読者は主人公と共に真相の解明を進める事になります。

しかし読者が展開を先読みをするも、それを遥かに超える展開が用意されており、さらなる謎に思考を巡らせながら読み進めると、そこに見えてきた真実にゾクッとさせられるわけです。

物語が進むにつれて明らかにされる事実と展開に、読者は次々と翻弄されていくことになります。

果たして作者の意図した幾重にも張り巡らされた伏線を読者はどこまで回収出来るのか。

後半に進むにつれて未完成になっていた情報が完成するたびに「繋がった!」という喜びがあり、謎解きを解いたような面白さがあります。

それと同時に見えてくる真実はとても哀しく、全てが明らかになった瞬間、謎が一本の線として繋がった快感と残酷すぎる現実が同時に襲ってきます。

その仕掛けの鋭さに、謎解きミステリーの渦に巻き込まれたような衝撃を感じられるでしょう。

惨劇ミステリー独特の薄暗い雰囲気と世界観

唯一無二の薄暗い世界観の中、物語の主な舞台である田舎の寒村の風習や気候など細部の作り込みが抜群に上手く、まるでそこにいるかのような錯覚に陥るのも、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。

不気味な空気が漂う中、時折間接的に表現される天候や季節、景色などの情景描写が素晴らしく、手触りや匂い、色合いまでも感じ取れるような表現力に圧倒されます。

新潟県の山間の集落を舞台に、長い年月をこえて繰り広げられる惨劇は、悪い連鎖が連なっていく様が哀しくやるせない気持ちになり、本書全体に漂う不気味で薄暗い雰囲気にただただ圧倒されるばかりです。

そんな中で過去の事件の真相を探る主人公に、妻を襲った不幸な事故や30年前の事件の影が徐々に忍び寄る様子はおどろおどろしく、恐怖を覚えます。

こういった情景描写と特有の雰囲気を同時に味わえる“惨劇ミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。

ミステリー好きは勿論、謎解きに興味がある人も絶対に読むべき一冊!

「昔の自分には絶対不可能だったと言い切れる、自信作です。」そう作者自身が語るほど小説でしか味わうことができない巧みな仕掛けとミステリーの愉しさが容赦なく詰め込まれている本作。

まだ発売して間もないですが既に驚愕の傑作として絶大な評価を得ており、ミステリー好きは勿論、謎解きに興味がある方にとってはもはや必読の小説と言っても過言では無いでしょう。

最初から最後までずっと大事な人を守りたいだけなのにどんどん傷ついていき、愛があるゆえに起こってしまった惨劇。

最後、物語が「繋がってしまった」時の快感と同時に襲い来る茫然自失…というと少し読むのを躊躇するかもしれませんが、それはちょっともったいない!

むしろ、この本を読むことによって惨劇ミステリーの面白さに目覚めることができるかもしれません。

そして惨劇ミステリーに興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“謎解きとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということが言えるのです。

張り巡らされた伏線は電話、手紙、写真など形を変えて登場するという凝った内容構成、読み進めることで明らかにされる意外な真相、それらの真実がジグソーパズルのように少しずつ解けていく快感と衝撃。

「作者会心の一撃」という謳い文句に一切の偽りは無く、巧妙なミステリーを構築した手腕は、見事としか言いようがありません。

ラスト1行でさらに心を掴まれ、わたしは読み終わった後、しばらく放心状態になりました。

ミステリー好きの方は勿論、惨劇ミステリーデビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるミステリーを読みたい方など、ミステリーや謎解き、読書が好きな方は読んで損はないハズ!

出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 仕事がバタバタ忙しくなかなかこの大好きなサイトを覗きに来る暇もない最近でした こんにちはお久しぶりです(*Ü*)

    これから購入して読むつもりのこの「神シリーズ」ですが、今回は前作いけないを凌ぐ出来だともちらほら… 凄い一冊だと

    ぼくは自分の住んでいるところがそうなのでよくわかりますが、道尾さんて他のあの作品やあの一冊にも書かれているように、とにかく田舎の寒村を描くのが上手いですよね 簡単に脳内にイメージできるような表現、村の持つ独特の空気感を自然に読み手に浸透させる文体、そのあたりも楽しみに読んでみようと思います もちろん、道尾ミステリーも楽しみながら(▰╹◡╹▰)

    • こはるさんおはようございます!
      お忙しい中、ブログを見に来ていただいて本当にありがとうございます(*’▽’*)

      わかりますわかります、田舎の寒村を描くのが上手いですよね。グッと引き込まれます。

      この『雷神』は道尾さんのミステリの中でもトップクラスで面白かったので、ぜひぜひ読んでみていただけたらと思います!

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