西澤保彦『パズラー 謎と論理のエンタテインメント』- 謎と論理にとことんこだわったミステリ短編集

サラリーマン生活を経て、やっとの思いで小説家になれた日能克久。

高校の同窓会に出席するにあたり、幹事から衝撃の事実を聞くこととなる。

なんと交通事故で亡くなったと思っていたクラスメイト・梅木万理子が生きていたというのだ。

どうしてそんな勘違いをしてしまったのか・・・。

自分の記憶を疑いながらも日能は同窓会に出席するために地元へ帰ることに。

そこで死んだはずの万理子が美しい女性となって目の前に現れるなど、日能の疑問は深まるばかりだった。

日能の思い込みの要因とは何だったのか。

違和感のある誤った記憶の原因が自分の存在すら揺さぶり始める衝撃の真相とは一体―?

ロジックの天才が描く独立短編集

西澤保彦氏は設定の中にさまざまな制約、条件をつけ、その中で起きた謎を徹底的に順序だててとき明かしていくという作風のミステリー作家です。

これまでにも多くのミステリー小説を発表しており、その精密なロジックがミステリーファンの間でも高く評価されていました。

今作は、そんなロジックの天才である西澤氏が描く独立型の短編集です。

近年ミステリー小説は一つの話はそれぞれに完結しても全体がどこかでつながっているような連作短編集が多いですが、独立短編集にはそれぞれの世界観にどっぷり浸っていろいろな作品を読めるという魅力もあります。

「蓮華の花」「卵が割れた後で」「時計じかけの小鳥」「贋作「退職刑事」」「チープ・トリック」「アリバイ・ジ・アンビバレンス」といった合計6作品が収録されていますが、それぞれに西澤氏らしい論理的な手法が取り入れられています。

ミステリー小説にありがちな「それは無理があるのでは?」というような引っかかりがなく、すべての伏線が回収されていくストーリー展開の美しさは読んでいて爽快な気分にもさせてくれます。

西澤氏の作風を堪能できる短編集ですので、他の作品を読んだことがないという方もぜひチェックしてみてください。

問題解決までの過程をじっくり楽しめる

作品の多くは事件が起きた後、二人以上のキャラクターが事件について語り合い、真相に近づいていく、というスタイルをとっています。

事件が起きた背景、発見時の状況、現場の様子などさまざまな条件がある中、「真実はこうではないか」という仮説、「それではこちらが成り立たない」という否定を繰り返しながらどんどん理論が展開されていきます。

何が正しくて何が間違っているのか、その仮説でいくと何が問題なのかを読みながら一緒に深く考えていくこともできるでしょう。

中には非現実的なトリックもありますが、理論上かならず成功するはず、というスタイルは非常に西澤氏らしい手法と言えるでしょう。

事件を解決するのが目的ではなく謎を解き明かすことを目的としているので、事件の結末が最後まで描かれないのも想像力を掻き立てられます。

トリックやキャラクターたちのかけあいを楽しめるのはもちろん、犯人と被害者の愛憎関係や個性的な犯人像なども楽しめる内容になっています。

物語の舞台が海外となっている作品も多く、海外の良質なミステリー小説を読んでいるような気分にもさせてくれます。

翻訳された文章が苦手で海外小説が読めないという方でも、今作のように日本人が書いたミステリー小説なら読みやすいでしょう。

本格ミステリー入門編としてもおすすめの一冊

西澤保彦氏は数々のミステリー小説の賞の候補作となったり、ミステリー小説のランキング入りを果たしたり、1995年に「解体諸因」でデビューして以来ミステリー小説界で活躍を続けています。

代表作「七回死んだ男」の他腕貫探偵シリーズ、エミール&ユッキーシリーズなど、多くのシリーズ作品も発表してきました。

そんな活躍を続ける西澤氏だからこそ、作者の名前や作品は知っているけど、なんとなくここまで読むタイミングがなかった…という方も多いのではないでしょうか。

今作「パズラー 謎と論理のエンタテインメント」は、そんな方にもぜひ読んでほしい一冊です。

西澤氏の魅力がたっぷりと詰まっており、どの作品でもしっかりと彼の作風を満喫できることでしょう。

謎に対する仮説を立ててそれを否定していくという、ミステリー小説の王道の展開でありながらそのロジックは非常に丁寧に組まれており、ミステリー小説にあまり触れてこなかったという方でも違和感なく納得して読み進められる作品となっています。

この機会にぜひ。

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