プロジェクト・インソムニアは、ソムニウム社が極秘に行っている人体実験です。
この実験では年齢や性別、境遇などがまるで違う男女が夢を共有し、夢の中で生活を送るというものです。
被験者に選ばれた主人公たちは、現実では叶わない願いを夢の中で叶えていきます。
しかし夢の世界で殺人事件が起こります。そしてその殺人事件は現実世界でも起こりました。
それをきっかけに楽しいはずの夢の世界は終わりを迎え、不穏な影が現れます。
なぜ殺人事件は起きたのか、誰が犯人なのか、どのようにして夢の中の殺人を現実に持ち込むのか、最後まで目が離せない一冊です。
結城 真一郎『プロジェクト・インソムニア』
クローズド・サークル、というミステリー用語があります。
これはさまざまな事情により外界と連絡が取れない状況で事件が起きる作品のことです。
山奥の別荘や孤島などが舞台になることが多いです。
本作「プロジェクト・インソムニア」も、現実世界のように行動できないという点では特殊なクローズド・サークルと呼べるでしょう。
残された七人の被験者の中の誰かが犯人であるはずで、どのように謎を解いていくべきかを考えていく作品です。
ミステリー小説の中では今作のような特殊な舞台設定のものは少ないです。
夢の世界やファンタジーの世界、近未来の世界では現代とルールが違う可能性もあり、本来の推理の部分が効果を発揮できない可能性が高いためです。
「プロジェクト・インソムニア」は夢の中という舞台設定なので何でもありの状況に思えますが、きちんとロジックがあり推理に役立てられるようになっています。
次々に登場する夢の中の世界のルールを主人公たちと一緒に確かめながら謎を解いていきましょう。
序盤から伏線が張られており、しっかり内容を理解していかなければ追いつけなくなるかもしれません。
その分、夢の中のルールをきちんと理解して読み進めれば、終盤のどんでん返しや伏線回収の見事さに驚かされることでしょう。
非常に気持ちの良い解決が待っているので、ぜひじっくりと読んでみてください。
主人公たちは現実世界で心に傷を負っています。その分夢の中では好きなように過ごし、願いを叶えて楽しい時間を共有します。
ですが、本当に夢の中のそんな生活は素敵なものなのでしょうか。
主人公たちのように夢の世界に閉じ込められるとすれば、恐ろしいような気もしてきます。
安全だと言われていた人体実験で、そんな事件にもし自分が巻き込まれたら…と考えると思わずぞっとしてしまいました。
また、作中では夢の世界だけでなく現実世界の出来事も描写されていますが、夢と現実の距離感が曖昧になる部分も多く、どちらを信じれば良いのかドキドキしてしまう描写も秀逸でした。
SFやファンタジーが好きな方、クローズド・サークルが好きな方にぜひチェックしてみてほしい一冊です。
期待の俊英による新感覚ミステリをご覧あれ!
作者の結城真一郎氏は「名もなき星の哀歌」で新潮ミステリー大賞を受賞しました。
この作品では人の記憶を売買できる世界で起きた事件をテーマにしています。
今作も夢の中の世界という、ある種特殊な設定を活かした見事な仕上がりになっていました。
ファンタジーやSF、異世界をテーマにした作品は古今東西にたくさんありますが、ルール無用にも思えるこのような舞台の中で確実に証明できるトリックを必要とするミステリー作品は意外にも少ないです。
他の方法はないのか、そんな方法で事件を起こす、または解決するのは反則ではないのかという指摘が多くなってしまうためです。
しかし本作「プロジェクト・インソムニア」では見事にトリックが組み立てられており、伏線の回収もしっかりしています。
このような作品は滅多にないので、いつもとは少し違った視点のミステリー小説を読んでみたいという方にもおすすめです。
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