今回紹介させていただきたい芦沢央(あしざわよう)さんは、2012年に『罪の余白』でデビューされた超期待の作家さんです。
目標にされている作家さんが《スティーブンキング》というところも個人的にツボ。
これからどんな面白い小説を書いてくださるのか非常に楽しみです。
どうぞ、参考にしていただければ幸いです(=゚ω゚)ノ
1.『火のないところに煙は』
芦沢央さんの純粋な初ホラー小説で、今のところの最高傑作でしょう。
実話を元に作られたのか、全くの創作なのかわからなくなるタイプの内容で、とにかくハラハラが止まらない。
『染み』『お祓いを頼む女』『妄言』『助けてって言ったのに』『誰かの怪異』の5つの怪談話が綴られ、最終章の『禁忌』でそれまでの5話が全てが一つの線につながり、最高の恐怖に落としこまれることになります。
どの話も安定して怖く、意味があり、最終話でドカン!とくるパターンはやっぱりいい。
ホラーでありながら、単に気持ち悪い話じゃなくて、不気味さとひねりのある面白さが良いバランスなのです。
妙にリアルで、読み進むごとに「あの時のあれは!そうだったのか!」とわかる度にゾッとするのがたまりません。人を怖がらせ方がよく分かっていらしゃいます。
ホラー作家さんではないのに、三津田信三さんや澤村伊智さんのホラー小説と並ぶ面白さです。

2.『汚れた手をそこで拭かない』
思わずついた嘘や咄嗟の誤魔化しが、悪い方へと作用する。
追い詰められる緊迫感。逃げ場がない。苦しい。それでも、真相と顛末を知るべく、読み進めずにはいられない。
人を都合よく利用する人・誰かの不幸を願う人も多く、人間のおぞましさに溢れでるミステリです。
人は窮地に追い込まれると、自分可愛さに嘘をつく、事実をねじ曲げる、隠蔽しようとする。そんな弱さを文章に起こした物語です。
普通の人たちが、葛藤しながら足掻きながら、じわじわと追い詰められていく心理描写が巧く、共感を覚える部分もあって身近でも同じ事があるのではという心理的恐怖に襲われます。
この瞬間に何故かとっさにとった行動が、後々に嫌な方向に傾いて行き、人に話せず追い詰められて行く。
小さな嘘が大きな嘘に変わり、取り返しのつかないことになっていくのです。
これを読んだ後は嘘をつくのはやめようと思えてしまいます。
日頃から小さな嘘を積み重ねてしまっている、そんな方に是非読んでほしい一作です。これを読めば気軽に嘘がつけなくなりますよ……。

3.『僕の神さま』
水谷くんは同級生たちの困りごとを鋭い観察眼と分析力で解決に導いてくれる。
その洞察力は小学生には信じがたい能力のため、神さまと呼ばれ、頼りにされている。そんな水谷くんと僕の周囲で起こる事件が綴られた連作ミステリーです。
小学生の物語なので、かわいらしいほのぼのした事件だと思っていましたが、虐めや児童虐待などに関わることが、やはり芦沢さんらしい作品でした。
最初は児童書のような雰囲気で、名探偵コナン君みたいだと思っていたら、思いがけなく残酷なストーリーになっていく。
本当は「神さま」なんて崇められたくない。なのになぜ水谷くんはそこまで使命感をもって、前に突き進むのか…。
「子どもは、大人を頼っていいんだよ」。芦沢さんから子供に向けてのメッセージなのかなと感じることの出きる作品でした。
子供の日常の物語を最後に現実に持ってくる技はさすが芦沢さんです!

4.『罪の余白』
高校生の娘が学校で転落死した。理由が分からず、力無く暮らしていた父親の元に線香をあげたいと訪れたクラスメイト。
その後見つかる娘の日記。日記を見た父親と、日記を処分したいクラスメートの咲と真帆。そして父親の職場の同僚である早苗。四つの視点で物語は進む。
芦沢央さんは「どんでん返し」のイメージだったけれど、この作品は展開の意外性より心理描写が印象的でした。
娘の死によって、生きる希望を失った安藤は見ていられないけれど、少し目を離す何をしでかすか分からない雰囲気が見事に描かれています。
そして、イジメを主導していた咲の心理描写も、10代の自分勝手で、自分が一番大切で、醜悪な性格が良く表現されていました。
お弁当を一緒に食べる相手、トイレに一緒に行く相手、移動教室に一緒に行く相手を求めて女子はどこかのグループに入らなければならない、そんな生きづらさがよくわかります。
5.『悪いものが、来ませんように』
子育て中の奈津子と不妊と夫の不倫に悩む紗英、母親になりきれなかった二人の女性。
あまりにも緊密すぎる二人と、紗英の夫が殺された事件を、第三者の証言交えながら描かれていくミステリー。
世の中の女性の痛みや苦しみ、悲しさや辛さ。そういうものが全シーンに上手く挟み込まれています。
また登場人物たちの弱いところ、大人になりきれないところなど、本当にこういう人いるわーと共感できる部分もあるので「あるある」と共感しながら読み進めることが出来ました。
多くの女性は、どこかで自分に置き換えて、引っかかる箇所があるかもしれません。自分はここまで酷くなくても、人ごとではないと思う読者が多いかもしれません。
そしてラストに明かされる事実にゾッとすること間違いなし!
母娘関係はそれぞれだけどやっぱり複雑。自立とは、母娘とは、理想の距離感とは…と考えさせられます。
6.『今だけのあの子』
サークルの元同期、高校生、ママ友、老人ホーム仲間。様々な立場の女性同士の関係性にスポットを当てた短編集。
ドロドロした友情関係でなく、心温まる友情が紐解かれていく。
この小説は嫌な気持ちもありながら、それ以上に人が人を思いやる気持ちが感じられていて、温かい気持ちになれる連作短編集となっております。
芦沢さんの作品は後味が非常に悪くなることが多いのですが、こんな作品も書けるんだ!と思わず口に出してしまうほど衝撃的な作品になっています。
人間のいいところと嫌なところがリアルに描かれていて、それでもほとんどのお話が救いのあるラストで心が暖かくなります。
ところどころに繋がっている話があるので、物語が深まっていくのも読み応えがありました。
作中では嫉妬や羨望の感情が表出しているし、死者が出てすらいるのに、温かい気持ちになれる不思議な気分を是非味わってもらいたいです。
7.『許されようとは思いません』
『許されようとは思いません』『目撃者はいなかった』『ありがとう、ばあば』『姉のように』『絵の中の男』の5つの短編で構成されており、人間の偏見や差別、欲望がありありと描かれているミステリ作品。
明かされる事実に、まさか…そうだったのか…と驚かされるのに、そこには騙されたというよりも悲しい感情が残ってしまいます。
悪い方に悪い方に流れていきそうな予感に、自分も読みながらずっと苦い顔になってしまいました。
芦沢さんの真骨頂であるイヤミスが盛り込まれていますので、イヤミスが大好き!という方に是非おすすめしたい作品です。
この短編集をずっと読んでいると、どんどん病んでいきそうな、闇に引きずられるような、そんな感じがするので癖になってしまいそうです。
読むのも苦しくなってくるのに、何故か読む手を止めれない引き込まれてしまう謎の魅力があるのです。
最後に
最後までご覧いただき本当にありがとうございました。
どの作品も面白いのでおすすめなのですが、最低でも『悪いものが、来ませんように』、『火のないところに煙は』だけでも読んでみてほしいです。
よろしければ気が向いたときにでも、参考にしていただければ幸いです。
それでは、良い読書ライフを!(=゚ω゚)ノ
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