アメリカのエドガー・アラン・ポー・ミュージアムで猟奇殺人が発生した。
被害者はミュージアムの館長で、遺体はポー像に磔にされた上に首が無く、さらに背中の皮膚が剝がされているという無残な有様。
しかも同様の事件がノルウェーのトロンハイムでも起こっているという。
ノルウェーのグンネルス図書館で警備主任として働くヨン・ヴァッテンは、ポーについて調べながら博士課程に在籍している人物。
どうやら彼には人に知られたくない過去があり、アルコールに極端に弱いという弱点もある。
そんな中、アメリカで捜査を進める刑事・フェリシアは捜査のヒントとして、被害者の館長が殺害される直前に分析していた古い写本に目をつけ、事件が動き出していく──。
時間と空間を越えて繰り広げられる謎解き
この作品のまず一つ目の面白さは、謎解きのスケールが大きく複雑に絡み合っている点です。
首を切られて皮膚を剝がされるという猟奇的な事件が、アメリカとノルウェーという二つの国と大陸にまたがって起きているという時点でその規模の大きさがわかるでしょう。
そもそも誰がどうやって異なる大陸で起きた事件の類似性を見つけ出し結び付けたのか、という点からして興味を惹かれる部分です。
ともかく二つの事件は関係している可能性が浮上し、アメリカとノルウェーで同時に事件の捜査が行われていきます。
また空間だけではなく、時間も超えて物語が広がりを見せるのも本作の面白いところ。
何と16世紀の修道士の視点での記述が登場し、簡単には読者に予想をさせない構成となっています。
その修道士は旅の過程でノルウェーのベルゲンに到着するものの、この旅の目的も彼の意図もわからず読み進めることになるのです。
また、捜査の中で重要な手がかりとして登場するのは、エドガー・アラン・ポーの蔵書であり古い時代に書かれたという写本。
古い羊皮紙に書かれた情報や16世紀の旅する修道士が一体どのように事件に関わってくるのか、歴史ミステリー好きの方なら特に気になって仕方がないはずです。
いつものミステリーとは違った読書体験を得られる北欧ミステリー
日本においてはまだ珍しいジャンルと言えるであろうノルウェー・ミステリー。
翻訳の妙もあいまって、いつも読んでいるようなミステリーとはまた異なった読書体験を得られるという魅力があります。
一見残虐なシーンが多いというのも本作の特徴の一つ。
始まりの事件からして、首無しで皮膚は剥がされ挙句の果てにエドガー・アラン・ポー像に磔にされているという、どこか犯人のこだわりすら感じられるほどの残酷さ。
そんな残虐極まりない事件がアメリカとノルウェーの二か国で起きるのですから、どこか異様な雰囲気に包まれるのも不思議ではないでしょう。
途中で挟まれる中世ノルウェーの描写も作品に独特の雰囲気を与えており、ノルウェー出身の作者による作品という本作の魅力を大きなものにしていると言えます。
ともすれば作品全体を暗い印象にしがちな残虐描写ですが、それを相殺して余りあるほど登場人物が生き生きと描かれているのも良い点。
それぞれに訳ありな過去を持ちながらも事件の解決に奮闘します。
脇役のキャラクターも魅力的で、特にミステリー・マニアで部屋の片づけが下手なシリ・ホルムという女性に親近感がわく読者も多いはず。
いつもとちょっと違うミステリーを読みたい、衝撃的な読書体験をしたいという方におすすめしたい作品です。
歴史×サイコスリラー×ノルウェー・ミステリーの傑作!
本作はノルウェー屈指のミステリー作家として認められているヨルゲン・ブレッケの2011年のデビュー作を翻訳したもの。
ヨルゲン・ブレッケはこの作品でノルウェー国内の最優秀新人賞であるマウリッツ・ハンセン賞を受賞しており、ベストセラーリストで第1位を獲得するなど、この作品は高い評価を受けています。
世界17か国で刊行されるなど、その面白さは世界の折り紙付き。
日本では10年の時を経ての出版ですが、未だその面白さは衰えていません。
内容としては、16世紀ノルウェーの歴史とサイコスリラーが組み合わさった、ミステリーの分野においては新しい雰囲気のミステリー。
読む人によっては少しその残虐性が強すぎると感じる部分もあるかもしれませんが、脇役含め生き生きと動き回る名キャラクターたちのおかげで必要以上に暗くならずに読むことができます。
作者の他の作品についてはまだ日本での刊行は無いものの、原書や英語版では2作目・3作目が発表されているとのこと。
日本でも今後の人気次第では続編が発売される可能性も大いにあるでしょう。
まだまだ日本国内においてはマイナーなジャンルであるノルウェー・ミステリー。
読み始めるなら刊行された今がチャンスです!