飛沫感染すると相手の翌日の未来が見えるという、何とも現代においてタイムリーな能力を持つ主人公・檀先生。
そんな檀先生は、〈猫ゴロシ〉の視聴者・支援者に過激な復讐をする奇妙な二人組、「ネコジゴハンター」の様子を描いた不思議な自作小説を女子生徒から渡される。
やがて現実と自作小説がリンクしていき……という、設定と描写力が光る凝った作りの本作。
日本を代表する作家の1人である伊坂幸太郎氏が、作家生活20周年超の集大成ともいえる長編小説を発売したと話題になりました。
疾走感のある展開はとても中毒性があるため、圧倒的伊坂ワールドを感じながら本格的なエンタメ長編小説を読むことができるというのが大きな魅力となっています。
しかし幾重に張り巡らされた伏線は謎が多く、物語をかき回すため、どんな落としどころが待っているのか予想することができません。
ページをめくるごとに明かされる真実や、そしてそこに至るまでの物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
全員が魅力的!読み進めるにつれて登場人物に振り回される読者
この物語にはたくさんの登場人物が登場しますが、魅力的かつ人間味溢れる人物ばかりです。
先読み能力をもつ主人公・檀先生は思わず「マスクして!」と言いたくなる程に自ら感染しに行くので、教師でありながら憎めない間抜けさが随所に散りばめられており、思わずクスッと笑える描写を盛り込みながら物語は進みます。
檀先生を筆頭に、不思議な自作小説を書く不登校気味の少女、猫好きのハンター、無差別テロ被害者のサークル、野球好きなど、全員が冷静なように見えて、内には熱いものを秘めている人物ばかりなので、そういった人間味溢れる登場人物たちがトラブルに巻き込まれ、紙面を走り回ります。
さらに読み進めるにつれて、それぞれの人生が幾重にも交差していく様子に読者自身も振り回されるようにして物語は進んでいき、理不尽な世の中で罪を犯したら人生終わりなのか?正しい行いとは何なのか?を主人公と共に考えながら、畳み掛ける展開にぐいぐい引き込まれていきます。
登場人物によって異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実に、読者は次々と翻弄されていくことになるのです。
物語の渦に巻き込まれるがごとく、話に振り回されるような楽しさを感じられるでしょう。
スピード感溢れる展開とエンタメとしての面白さ
プロローグから最後のページまで読み出すと止まらないスピード感溢れる展開も、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。
横たわるテーマはニーチェ哲学の「永遠回帰」ですが、小難しくなく誰もが楽しめるようになっており、エンターテインメントとしての面白さを存分に堪能することができます。
張り巡らされた伏線の数々と、先が読めずぐいぐい引き込まれていく展開、そして全てを回収し、意外な真相に思わず唸ってしまう奥深いラストは、これでもかと散りばめられた設定が存分に活かされており、物語の面白さをより際立たせます。
最後まで設定を生かしたストーリーが展開されていくため、暗くなりがちなテーマも謎が解明されていくと共に騙される快感を感じられ、奥深いラストの切れ味に驚かされることになるでしょう。
会話のユーモアセンスやテンポ感も良く爽快に読み進めることができるため「日常的だけど非日常的」な雰囲気を味わえる“本格エンタメ小説”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
本格エンタメ小説を読みたいならコレ!
伊坂ワールドの魅力を惜しげもなく全て詰め込んだ、作家生活20年超の集大成として出版されることとなった本作。
発売されたばかりですが、誰もが知ってる要素を組み合わせながらも誰にも作れない傑作を作り上げたとして、既にエンタメ小説ファンから絶大な評価を得ており、エンタメ小説好きはもちろん、読書好きの方にとってはもはや必読の本と言っても過言では無いでしょう。
魅力的な登場人物に加えて、散りばめられた伏線やスピード感で読者をワクワクさせる事に定評のある伊坂ワールド。
エンタメのジャンルには興味を持ってこなかった……という方は読むのに躊躇するかもしれませんが、それはちょっともったいない!
むしろ、この本を読むことによって、エンタメ小説の面白さや奥深さに目覚めることができるかもしれません。
エンタメ推進力を感じる話の展開は、登場人物の魅力が強烈な後味を残すため、エンタメ小説に興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“人間群青劇としての面白さ”も十分に兼ね備えているのです。
エンタメ小説好きの方、エンタメ小説デビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるエンタメ小説を読みたい方など、エンタメや読書が好きな方は読んで損はないハズ!
もちろん元々伊坂さんの作品が好きな方なら絶対楽しめます。
出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてくださいませ!(*・ω・)ノ



