不動産レンタルサイトの手違いにより、同じ一軒家で鉢合わせしてしまった元刑事のマデリンと人気劇作家のガスパール。
傷心を癒そうとしたマデリンと、世間からの隔絶を望むガスパールは互いに反りが合わず反発し合うものの、一軒家が1年前に急死した天才画家、ショーン・ローレンツの元アトリエということが発覚したことから、協力し合いながらローレンツの遺作を探し始めます。
独自の世界観から画家に入れ込んでいくマデリンとガスパールの二人は、遺作の捜索から「画家の息子の誘拐・惨殺」という思わぬ事件の存在と画家の妻子のたどった運命を知ることとなり……。
絵をめぐって動き出す二人の運命、事件の真相、画家と妻子、さまざまな“物語”が絡み合って思いがけない真相を導き出す、現代フランスミステリーの大傑作!
ギヨーム・ミュッソ『パリのアパルトマン』
美術業界が舞台の小説と思いきや
パリのアパルトマンに、手違いで共に泊まることとなった元刑事のマデリンと劇作家ガスパール。
独自の人生観により、彼らは次第に天才画家の故ショーン・ローレンツの作品へのめり込んでいきます。
序盤は彼ら二人による天才画家の遺作探しということで、美術業界の裏側についての描写や言及も多いのが本書の特徴の一つ。
一旦は読者に対して「美術業界が舞台のミステリー小説であろうか」という印象を与えるほど、その描写は念には念を入れたものとなっています。
しかしそう簡単にはいかないのがこの作者!
天才画家の遺作である絵が発見されてから、次々と秘められていた真相が明らかになり、怒涛の展開を見せます。
前作『ブルックリンの少女』でやってみせたようなどんでん返しがまたも読者をひきつけて放しません。
主人公と死んだ画家との関係性
本書の一番の読みどころは、主人公であるマデリン・ガスパールと天才画家ショーン・ローレンツの関係性とそれによって紡ぎだされる物語だと言えます。
なぜ二人の人生が死んだ画家と関わってゆくことになるのか、死んだ画家やその妻子が二人の人生に与える影響とは?
画家の息子の事件の真相とは?
事件に関わることで、主人公たちはどのような変化を遂げるのか?
死んだ画家と妻子、そして現代で画家の作品を追う男女と、それぞれの描写に物語性があるからこそ、説得力と読み応えのある作品となっています。
その描写力の高さは時に読者の心に痛みを感じさせますが、その痛みすらこの作品の一部と言っても過言ではないでしょう。
パリとニューヨーク、二つの舞台の描写
もう一つこの作品を際立たせている特徴として、舞台であるパリ・ニューヨークの描写が挙げられます。
冒頭すぐ、主人公たちが出会うアパルトマンのあるパリの街並みの描写は、思わず自分がパリにいる様子を思い浮かべてしまうほど。
ただただ景色を想像しながら小説を読むという楽しみ方を提供してくれる作品と言えます。
アートや小説が散りばめられており、一つ一つ拾っていくのも楽しみ方の一つです。
舞台だけでなく、主題の一つとなっている絵画についての描写も秀逸。
天才画家の遺した最後の作品について、言葉を尽くして表現されており、想像力をかきたてられます。
登場人物だけでなく、舞台やカギとなる物についての描写がしっかりしている点に、本書の面白さの秘密が隠されているのでしょう。
重厚な小説を読みたい、でも楽しみたいという方に!
画家の遺作を追う主人公二人組、既に亡くなっている天才画家、そして画家の妻子。
はたまた、舞台であるパリやニューヨーク、そして主題の一つである絵画そのもの。
小説のピースといえるこれらの素材を徹底的に描写することで、作品自体が読み応えのあるものに仕上がっています。
事件の真相という謎解きやサスペンスをメインとしつつも、男女や親子の関係性や再生という複数のテーマも盛り込まれており、ひとえに作者の物語力の高さを照明している作品と言えるでしう。
単なる謎解きだけではない、重厚な小説を求めている人に特にオススメしたい作品となっています。
もちろん、読み応えや重厚さだけではなく、ミステリー小説としての面白さもピカイチ。
前作『ブルックリンの少女』にも負けずとも劣らないどんでん返しと予想の出来ない結末で、存分に読者を楽しませてくれます。
また、作品内では12月20日に話が始まり25日は事件が解決しているほどのスピード感。
終盤に向けてのジェットコースターのような話の盛り上がり方で、読書の楽しさを再認識させてくれるに違いありません。
小説やミステリーは数多く読んできたという人、反対にあまり読んできていないという人、どちらが読んでも楽しめる作品になっていると言えます。

コメント
コメント一覧 (2件)
anpo様。お久しぶりです。ブログを再開されてから、ほぼ毎日色々な作品を紹介して下さりありがとうございます♪
更新された記事を読むことが、私にとってささやかな日々の楽しみになっています♪読みたい本がどんどん増えていくのに、読書スピードが追いつかないのが悩みです♪
これからも記事楽しみにしています♪♪
チョコさんお久しぶりです!
そう言っていただけて大変嬉しいです。とても励みになります。
これからもよろしくお願いいたします(*’▽’*)