200年前から火星のテラフォーミングが初められた。
それは非常に過酷な作業であり、『レイバー』と呼ばれる機械で身体を補った改造人間たちによる、決死の作業であった。
その後、本格的な入植が始まり、火星と地球の間には星間エレベーターさえ作られていた。
全てが順調に行っているように思われた80年前、未曾有の災害が火星を襲う。
『彗星の夜』と呼ばれるこの日を堺に、火星の居住環境は破壊され、内戦が続くようになってしまう。
現在では地球と連絡をとることはもちろん、技術や火星内部での連絡手段さえ内戦により殆どが失われてしまった。
エリスは、内戦後の世界で『長距離郵便配達員(ポストマン)』として働く17歳の少女だ。
彼女のもとに、クロというレイバーを『オリンポスの郵便ポスト』へと届ける仕事が舞い込む。
荒廃した火星で最も天国に近い場所と呼ばれるオリンポス山の頂上にそのポストはあるという。
『オリンポスの郵便ポストへ投函された手紙は、天国だろうと神様が届けてくれる』
火星でずっと言われている都市伝説のの地を目指し、8,635kmに及ぶ二人の長い旅路が始まる。
読みやすさと面白さを兼ね揃えた正統派近未来SF小説!
流れるような文章で描かれる近未来の世界がすごく美しい作品です。
あらすじにもあるように、火星へと移住し始めた人類が、どのような災害により被害を受け、内戦を始めるようにまでなってしまったか。
それが世界の根本にあります。
科学技術を発達しすぎた人類が自滅した後の世界は、よく描かれるものの一つです。
その上で、技術力が退廃した世界を生きる女の子:エリスと改造人間『レイバー』であるクロ。
この二人の旅が微細に描かれています。書き出される世界の美しさは、最近読んだ小説の中では最高峰です。
丁寧に描写される人や景色、情勢は、私達の前に生き生きとした情景を見せてくれます♪
ただの冒険ではなく、レイバーという存在を通して、「人間とは何か」というような深いことまで考えることになります。
技術の進歩により火星のテラフォーミングまで手をつけた人間と自然の雄大さの対比が多く組み込まれており、さり気なく描かれたものにさえ意味を考えてしまう作品です。
リアルに描かれた世界で、「天国に手紙を届けるポスト」を目指しての旅というギャップも非常に面白いです。
ただの都市伝説として扱われている『オリンポスの郵便ポスト』がどんな場所なのか。
エリスたちと一緒に旅をしているような気分で、ドキドキしながら最後まで見送れることでしょう。
人と機械と、発展した世界の結末

「私は自分の死に場所を探しているのです。」
P.24
このよく見るような一文が、魔法のように連鎖していきます。
一人称の小説って、どうしても人物の感情がメインになって、情景の描写が少ないイメージがありました。
「オリンポスの郵便ポスト」も、近未来の世界での冒険譚のようなものだろうと、甘く読み始めました。
これが、間違いでした。気づいたら本を読む手が止まらない感覚を久しぶりに味わうことに……おかげさまで寝不足です。
作者さんの描写が丁寧なので、キャラクター一人ひとりがとても生き生きとしています。
また、彼女たちが体験した風景や経験を疑似体験できるような気分にさえなれる描写力です。
自分がこの世界に生きていたら、どういう生活を送っていたか。
そんな風に、楽しみながら読むことができます。
キャラクター自体の設定も魅力的に作り込まれており、さすが電撃大賞で賞をもらっただけはあるという内容でした。
火星に入植した人類が滅亡へと向かい始めている世界なので、決して明るい話ではありません。
それでも、そこで必死に希望を探しながら生きる人たちの姿に、色々と考える部分が多い秀逸な作品でした。
主人公であるエリスが、旅の終着点である「オリンポスの郵便ポスト」で何を得たのか、ぜひ確かめてみてください。
SF好きならば、一度は読んで欲しい作品!

近未来SF、とくに火星へのテラフォーミングを描いた作品のなかでも面白い作品の一つ。
SFとしても設定が非常に作り込まれていて、星間エレベーターやテラフォーミングなどSF好きにはたまらない内容が注ぎ込まれています。
少女と改造人間が荒廃した火星を旅しながら、様々な経験をしていきます。
王道の展開を見せながらも飽きさせない文章力が光っていて、大人から子供まで楽しむことができる内容です。
作品のいたる所で、人と人との関係が織り込まれており、ほろりと来る人も多いことでしょう。
練り込まれた世界観、美しい描写、生き生きとしたキャラクターと読書の楽しみを教えてくれる作品になっています!
絶望しかないような世界の中でも、希望を残すために尽力する人々の姿に心打たれること間違いなし。
SF好きはもちろん、本が好きな人間ならば、誰もが楽しめる素晴らしい内容だと思います。
ぜひお手に取ってみてくださいませ!
