国内ミステリー小説

浅倉秋成『俺ではない炎上』なりすまし被害で殺人犯にされたサラリーマンの逃亡劇

山縣泰介は、50代のサラリーマン。

それなりに出世しており、妻子もいて、順風満帆な日々…のはずだった。

それがもろくも崩れたのは、何者かが泰介になりすまして女性を殺害し、遺体の写真をTwitterでアップしたからだ。

ツイートはたちまち拡散され、炎上し、発信者が泰介だと特定された。

自分が犯した罪ではないにもかかわらず、殺人犯として追われる身になった泰介。

一体誰が、どのような目的で自分に罪をなすりつけたのか。

泰介は警察から逃げ回りつつ、無実を証明するため、自ら真犯人を探そうとするが―。

明日は我が身というスリル

SNSでのなりすまし被害って怖いですよね。

見知らぬ誰かが自分のふりをして、法に触れるような言葉や画像をアップするのですから、された側はたまったものではありません。

『俺ではない炎上』は、まさにそのような被害に遭った50代のサラリーマン・山縣泰介の物語です。

しかも被害の内容がかなり強烈で、アカウントを乗っ取られた上、女性を殺害した現場写真をアップされてしまったのです。

これでは閲覧者には、泰介が殺したようにしか見えません。

そしてこれがネットの怖いところで、ショッキングな投稿はたちまち炎上し、すごい勢いで拡散されていきます。

しかも投稿アイコンが泰介の顔写真だったので、すぐに個人が特定され、泰介は世間から殺人犯扱いされることに。

会社から呼び出しを食らうわ、警察が来るわ、無罪を訴えても刑事は全く信じてくれないわで、八方塞がりとなります。

加えて面白半分のユーチューバーが、泰介を捕まえるつもりで別人に危害を加えてしまったため、騒ぎはますます拡大。

たまらず泰介は逃げ出し、警察が頼りにならない以上、自分で犯人を見つけ出そうと決意するのです。

こういうなりすまし被害は、誰にでも起こりうることです。

SNSを使っている人であれば、決して他人事ではなく、いつ自分も同じような目に遭うかわかりません。

その意味で『俺ではない炎上』は、非常にリアリティのある作品です。

なりすまし被害に遭った泰介の驚きも、焦りも、不安も、恐怖もダイレクトに伝わってきて、読み手まで一緒にハラハラドキドキ!

このピンチを一体どうやって切り抜けるのか、先が気になって気になってページをめくらずにいられません!

巧妙なミスリードが快感

さて、『俺ではない炎上』で一番の謎は、「誰がTwitterを乗っ取り、あのような投稿をしたのか」という点です。

この謎を解くのは簡単ではありません。

なぜなら作者によるミスリードがかなり多いからです。

読んでいる途中で読者の頭の中には、犯人や動機、凶器などにおける推理が、いくつも浮かんできます。

しかしそれらの多くが、実はミスリード、つまり作者による引っかけなのです。

いかにも怪しそうな人物や場面を描き、読者の目をそこに注目させておいて、その裏で黒幕に暗躍させる…という感じですね。

こういった巧妙な罠が、それはもうあちこちに張り巡らされており、読者の推理や思考は、知らず知らずのうちに誤った方向へ誘導されてしまいます。

そのため終盤になって真相が明らかになった時には、本気で仰天!

「そうきたか~!」と叫ばずにいられないです!

特に真犯人の正体には、かなり驚かされると思います。

SNS乗っ取りの動機については、もっともっと予想外。

どんでん返しも多いので、最後まで全く退屈することなく、ドキドキしたまま一気読みできます。

また読了後には、作者の罠(序盤から敷かれていた伏線の数々)を確認するために、改めて読み直したくなります。

二度三度と繰り返し楽しめる作品ですね!

現代社会の歪みを目の当たりに

『俺ではない炎上』の作者・浅倉秋成さんは、近年で特に注目されている作家さんです。

著書『六人の嘘つきな大学生』が数々の文学賞にノミネートされましたし、映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』のノベライズや、漫画『ショーハショーテン!』の原作者としても知られています。

そして本書『俺ではない炎上』もまた、大きな話題を呼びました。

その理由のひとつが、主人公が中年サラリーマンであること。

浅倉秋成さんは青春ミステリーを多く手掛けてきた作家さんなので、本書はレアな作品と言えるのです。

また、身近で起こりうるトラブルが描かれているという点でも、注目を浴びています。

泰介が受けたなりすまし被害はもちろんですが、それ以外にも現代社会ならではの闇が多く描かれています。

たとえば泰介の娘・夏実が、小学生の時に出会い系サイトを利用していたこと。

刑事の堀が、世代間ギャップから部下を見下し、パワハラ気味に否定しまくること。

泰介が妻子にあまり関心を持たず、妻も夫を軽視していること。

他にもネット上で個人情報を拡散したり、偽情報を流したり、警察や社会への悪口で盛り上がったり。

読んでいると、今の時代の「あるある」と思えるトラブルが随所に出てきて、ギクッとすることが多いです。

多くの人が、こういったトラブルを知ってはいても、他人事として目を背けて生活している気がします。

しかし『俺ではない炎上』では、それらが実際に登場人物たちの身に起こり、どんどん追い詰められていきます。

これにより読者は、トラブルの怖さを目の当たりにします。

そして、「もしも自分の身に起こったらどうしよう」と考え、無関心、無責任でいる現状に疑問を持つようになるのです。

それこそが作者・浅倉秋成さんの狙いであり、本書の最大のテーマなのではないでしょうか。

ミステリーとして魅力的なだけでなく、現代社会における自分の在り方を考えるためにも、ぜひ読んでいただきたい作品です。

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