いやいや、面白いじゃないの!
2018年第16回「このミステリーがすごい!」大賞、蒼井碧さんの『オーパーツ 死を招く至宝』を読んだんですが、これがなかなか。
だって帯にこんなこと書いてあるんですよ。
「島田荘司ばりの仕掛けでインパクト充分」って。
ずるいわー。こんなの読んじゃうわー。
蒼井 碧『オーパーツ 死を招く至宝』
貧乏大学生・鳳水月(おおとりすいげつ)の前に、顔も骨格も分身かのように瓜二つな男・古城深夜(こじょうしんや)が現れた。
鳳の同級生である古城は、OOPARTS(オーパーツ-当時の技術や知識では制作不可能なはずの古代の工芸品)の鑑定士だという。
そんな2人に待ち受けるのは、世にも奇妙な殺人事件ばかりで……。
という4編&エピローグからなる連作短編集。
1.十三髑髏の謎
鑑定依頼でとある大御所の別荘へ招かれた古城と鳳。
その名も『髑髏邸』。
もう絶対殺人起きるやん!って名前ですが、その通り殺人が起きます。
なんと現場は密室で、死体の周りには十三の水晶髑髏が並べられていた。まるで何かの儀式のように。
それを見た古城はすぐに何かに気が付いたようだが……。
「見ろよ鳳。十三髑髏だ!十三髑髏だぞ!!六でも十二でも十五でもない。十三だ!十三髑髏なんだ。くははははは!こ、これが笑わずにいられるものか!あーっはっはーー」
言うまでもなく、水月には彼の言っていることが何一つ理解できなかった。
P.42より
そんなバカな物理トリック炸裂
『オーパーツ 死を招く至宝』は改題後のタイトルで、元は『十三髑髏』というタイトルでした。
というわけで、さすが元表題作。
大好きな「そんなバカな!」系のトリックです。
ポイントは
・死体を取り囲むように並んでいた水晶髑髏は、真円を描いているわけでもなく、配列は凸凹だった。
・上から時計回りに、鍵束、腕時計、鋏、万年筆、指輪、など、様々な雑貨を髑髏が加えていた。
という点。
密室の死体はなぜ水晶髑髏に囲まれていたのか、これにはちゃんとした理由があったのです。
ぜひ推理に挑戦して見てください。
2.浮遊
古城を含めた3人が集まった屋敷で、主人の相馬が殺害された。
彼らは高名な工芸品『黄金シャトル』を目にしようと集まったわけですが、その黄金シャトルも盗まれてしまったという。
現場は完全な密室だったし、犯行現場近くでUFOらしき物体をとらえた写真も発見される。
黄金シャトルの行方は、どうやって密室を作り上げたのか、謎のUFOの正体は、そして犯人は。
3.恐竜に狙われた男
日本の古生物学会界の人間国宝とも呼ばれる老人が殺害された。
防犯カメラにはしっかり古城の姿が映っており、まるで双子のような見た目の鳳は、古城と間違えられて捕まってしまう。
もちろんカメラに映っていた古城も犯人ではないのですが、犯行時刻とカメラ映像を照らし合わせても他に犯人らしき人物がない。
犯人はどうやって防犯カメラをくぐり抜け、ある種の密室を作り上げたのか。
4.ストーンヘンジの双子
巨石庭園という、巨大な石を散りばめた私有地がある。
普段は一般人は入れないが、家主側の計らいで鑑賞会が開かれることになった。
その鑑賞会の参加条件は「双子であること」。
かくして、顔が瓜二つな古城と鳳は、双子と偽り鑑賞会に参加することになる。
当然、集まった参加者は双子ばかり。そんな中での殺人事件です。
双子だらけのミステリ!こりゃややこしくなってきたな!と思っていたら、予想してなかったまさかのトリックと真相。
「君はさっきドイルを引用していたが、それは違うな。間違っているぞ、鳳」
古城は禍々しい笑みを浮かべている。
「これはチェスタトンだ」
P.268より
オーパーツを絡めた新感覚ミステリ!
当然ながら、各話にはオーパーツを鍵とした真相が待ち受けています。
私は詳しくないですが、それでも各話でズラリと並べられるオーパーツの蘊蓄には「へえ」の連続で楽しかったですね。
実はこういうオカルティックな話、好きなんですよねえ。詳しくないけど。
ミステリ的に言えば、『十三髑髏の謎』が一番「オーパーツミステリ」として出来がよかったです。
んなアホな!的な物理トリックが最高で、オーパーツとのマッチングも見事でした。
他作品も若干無理やりオーパーツを絡ませている感じはありますが、そこが良いわけですよ。オーパーツミステリという新鮮さを感じることが出来ただけで満足です。
コンビの掛け合いもグッド
オーパーツってなんだか不気味だけど、作品としてはとってもコミカル。
それは、やっぱり個性的なキャラクターのおかげですね。
探偵役となる鳳水月と古城深夜のコンビの掛け合いにユーモアがあって、テンポよくスイスイ読めます。漫才を見ているようで。
しかも他人であるのに顔が瓜二つっていうんですから。絶対面白い話になるに決まっているじゃないですか。
「オーパーツ&顔そっくりコンビ」なんてミステリは他じゃまず味わえないでしょうから、今後の2人の活躍に期待したいです。
謎を解明した時に毎回
『すべてのPARTSは揃った』
って決めゼリフを言うのも、探偵コンビらしくて良いですなあ。
選評が面白い
「このミステリーがすごい!」大賞の作品って最後に書評家の方の選評が載っているのですが、毎回面白いですよねこれ。
読めばわかる通り、どう見てもメフィスト賞を受賞して講談社ノベルスから出るタイプのミステリなんですが、聞くところによると、ずっとメフィスト賞に応募していたのに全然ひっかからず、本書の原型になった投稿も同賞の一次落ちだったらしい。
一体どっちの判断が正しかったのか?
答えを出すのは(これから必死で改稿することになる著者と刊行される受賞作を読む)あなたたちです!
P.304 大森望さんの選評より
そやねん。
最初「十三髑髏の謎」を読んだときも、あれ?これメフィスト賞だっけ?って確認しちゃいましたもん。
やっぱりこの物理トリックはインパクト強いですもんねー。
でも私的には大アリなので、大賞受賞して読ませていただけたことに感謝しております。
選考会では大サプライズだったらしく、M1グランプリでいうなら敗者復活からそのまま優勝しちゃったみたいな感じだそうです。
しかも書評家のみなさんが、3話までは良い、と口を揃え、第4話を加筆修正したとか。
著者・蒼井碧さんは見事に期待に答え、めでたく大賞作となったのでした。めでたしめでたし。
というわけで以上!2018年第16回「このミステリーがすごい!」大賞『オーパーツ 死を招く至宝』のご紹介でした。
オーパーツという独特の世界観を武器に、キャラ良し、インパクトありの読みやすいエンタメミステリです。
サクサクと楽しく読めますのでお気軽にどうぞ。
にしても好きだなあ、「十三髑髏の謎」のトリック……(´∀`)
コメント
コメント一覧 (2件)
読みたい読みたい読みたい読みたい!
島田荘司ばりって、営業戦略として最高の文句じゃないですかっ。
くそっ、商魂逞し過ぎるけど、解っていて尚虜になる自分がいます。
睨み付けながら大嫌いって言いつつも涎だらだら的なアレですわもうこれ。
「屍人荘」といい、何なんですか最近の新人は・・・。
そうなんですよー!
「島田荘司ばり」って言葉はズルイですよねー。
完全に私たちのような人間に「こういうのが読みたいんだろ?」と煽られている感じがします笑。
でも、悲しいかな、これを言われちゃ手に取らずにはいられない運命にあります……。
ほんと最近の新人さんは強烈なぶっ飛びをかましてくれますよね。
まあ嬉しいんですけどね!!!( ゚∀゚)