内藤了さんといえばドラマ化もした〈猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ〉が有名ですね。
女優の波瑠さんが主演でした。可愛かったです。
そんな内藤さんの作品ですが、実はもう一つ面白いシリーズがあるのです。
それが〈よろず建物因縁帳シリーズ〉です。
〈猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ〉はあくまでミステリー小説でしたが、〈よろず建物因縁帳シリーズ〉はホラー小説。
「面白い」ということはそのままに、全く違った楽しさが味わえるシリーズなのです。
『鬼の蔵』
広告代理店に勤める高沢春菜(たかざわはな)。
うざったい長坂所長の依頼により、ある山間部に「道の駅」を新設する計画をしていたのですが、トラブル発生。
取り壊し予定の土蔵から文化財が出てしまったというのです。つまり簡単には取り壊せないということ。しかも変な文字まで書かれているという。
「変な文字?」
確認のため山深い閉鎖的な村にあるその土蔵を訪れてみると、なんと蔵の土戸には人間の血で『鬼』という文字が描かれていた。
血飛沫となって土戸に滴り、怒りを込めて漆喰に叩きつけられ、禍々しくも鬼気迫る『鬼』という文字を象っている。土戸に染みこんであまりある血液が筋となって床に落ち、土戸の随所に濃密な血の花が咲いている。不快な臭気は、間違いなくそこから漂ってくるのだった。
P.52より
本当にこれが人間の血なら、その人間は間違いなく死んでいる。
さらに床下を捜索すると、三本の指のようなマークが書かれたお札が貼られていた。
話を聞くと、それは「因縁物件」の印とのこと。つまり「手を付ける場合は気をつけろ」という意味だそうです。
このままとり壊すわけにはいかない。
ただならぬ雰囲気を感じ取った春菜は、その蔵にまつわる謎を追っていくことになります。
抜群に読みやすいホラー
ホラー小説にもいろいろタイプがあるのですが、この作品は「めちゃくちゃ怖い」とかではないです。
怖いことは怖いのですが、「この蔵には一体どんな秘密が隠されているのだろう?」と、主人公と一緒に謎を追って行きたくなるような物語ですね。
それじゃあミステリじゃないか!と思われるかもしれないですが、いやこれガッツリホラーなんです。推理要素はありません。
山深い寒村、古くからの因習、旧家、土蔵、人間の血で書かれた文字、お札、相次いで起きた不審死、など私にとっちゃたまらないキーワード満載なんですわ。
そんなキーワードがあると三津田信三さんの〈刀城言耶シリーズ〉を思い浮かべますが、それとも全く違います。
〈刀城言耶シリーズ〉は完全にミステリー。〈よろず建物因縁帳シリーズ〉は完全にホラーです。
しかも抜群に読みやすい。良い意味で「文体がとても軽い」と言いますか、恐ろしいほどにスラスラ読めます。主人公の春菜を含めた登場人物との掛け合いも楽しいですし。
やっぱりキャラクターが良いとシリーズを続けて読みたくなるんですよねー……ってことで、続けて第二弾『首洗い滝 よろず建物因縁帳』も読んじゃいましょう。先月発売されたばかりです。
『首洗い滝 よろず建物因縁帳』
山奥の隠れ里。近づく者は死ぬと呼ばれる地図にない滝「首洗い滝」の謎に春菜たちが挑みます。
クライマーが顔を抉り取られて死亡する序盤でつかみはOK。忌々しい舞台設定も雰囲気もバッチリです。
前回とは違ったタイプの気味の悪さがありますが、やはり怖さは控えめ。
このシリーズは怖さだけを求めて読むものではなく、登場人物たちとともに怪異の根源を突き止めていく過程を楽しむものですね。
これこそシリーズものの魅力でしょう。
そういう意味では内藤了さんは「このシリーズをもっと読んでいきたい!」と思わせるのがとてもお上手。〈猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ〉だって発売されるたびに買っちゃいますからねー。
〈よろず建物因縁帳シリーズ〉も間違いなく今後も読んでいくでしょう。
というか、好きなシリーズ作品が増えるとそのぶん出費がかさんでいき大変なことに……( ゚∀゚)
まとめ
そんなわけで〈よろず建物因縁帳シリーズ〉の簡単なご紹介でした。
「怖い」と言うより「ストーリーとキャラクターを重視したホラー小説」がお好きであれば非常におすすめです。
すでに〈猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ〉が好き!と言う方もぜひ。タイプは違いますが、内藤了さんの持ち味がしっかり活かされていて楽しめます。
しかも、文庫で第一弾『鬼の蔵』が約230ページ、第二弾『首洗い滝』が250ページという薄さですからね。文章の読みやすさもあって本当にサクッと一冊読み終えることができます。
これ凄いことだと思うんですよね。
舞台設定的にはもっと長編になってもおかしくない内容なんですけど、それをこの短さにしっかりまとめて短時間で楽しませてくれるんですから。
本当にありがたいことです。
あ、読む順番なんですが、やっぱり第一弾『鬼の蔵』から読んだ方が良いですよ(´∀`*)
ご参考までに。
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