もともと『屋上の道化たち』として出版されていたものを、『屋上』と改題し加筆してノベルス化したものです。
なんども言いますが「バカミス」は褒め言葉ですからね。「そんなバカな!!」って言わせてくれるミステリのことですからね。
初めに言っておきますと、この真相が明らかにされるとき、人によっては「本格ミステリをなめるな!」と壁に叩きつけてしまうくらいの衝撃を受けるでしょう。
しかし、一部の人間にはニヤニヤが止まらないくらいの、最高のバカミスなのです。
その『屋上』に登ってはいけない。
U銀行勤務の岩木俊子(いわきとしこ)は気分ルンルンだった。
決して美人とは言えない彼女にトムクルーズ似のイケメン彼氏ができ、来月結婚まですることになったのだから。
まさに人生の最高潮。
周りの社員に彼氏の写真を見せ自慢しているところに、課長から「屋上の鉢に水をやってきてくれ」と頼まれる。
「はーい、わかりました」と、えらくご機嫌のまま屋上へ向かう岩木俊子。
そのあと社員たちが、人生なにがあるかわからんもんだなあ、と話していると、ドーン!という爆発音が鳴り響いた。
岩木俊子が飛び降り自殺したのだった。
いや、ありえない。
そんなはずはない。
岩木俊子だけはありえない。
トムクルーズ似のイケメンと結婚する直前だったのだ。
今さっきまで気分上々で自慢していた彼女が自殺?
ありえない。
つまりこれは殺人だ、と即座に判断した社員たちは、すぐ屋上に駆け上がる。
しかし、誰もいない。犯人の隠れるような場所もない。
では自殺なのか。いや、彼女だけはありえない。
すると、一人の社員が「彼女が飛び降りる場面を目撃した」と言い出す。
「そのとき屋上には誰もいなかった」「彼女は一人で落ちていった」と。
一体なぜ。
二人目の犠牲者
その翌日。
住田係長と小出という社員は、話し合っていた。やはり岩木俊子が自殺なんてするわけがない、と。
そして、彼女と結婚する予定だったトムクルーズ似の男は乱視で、岩木俊子の太い足も丸い団子鼻も細く見えていたんじゃないか、なんて冗談も言っていた。
そのとき、小出に声がかかる。
「屋上の植木に水をあげてきてくれ」と。
じゃあまた後で話し合いましょう、と屋上へ向かう小出。
少しばかり書類に目を通していた住田係長。
すると間も無く、ドーン!という爆発音のようなものが聞こえてきた。
小出が飛び降り自殺したのだった。
いやいやいやいや、ありえない。
さっきまでここで談話していて、自殺する素ぶりなんて全くなかった彼がどうしてこうなる。
すぐに屋上へ駆け上がるが、やはり不審者の姿はない。
殺人ではないのか。
本当に自殺なのか。
そんなバカな。
……というのが大まかなあらすじ。
めっちゃホラーですやん。
自殺する気もない人が、その屋上に登ると自殺してしまう。
ミステリじゃなくてホラー小説じゃないか、と思われるかもしれませんがご安心を。
れっきとしたミステリ小説です。
この後もっと不可解なことが続くんですが、ネタバレしすぎてしまうのもあれなんで、あらすじはここまでにしておきましょう。
この後のストーリーもホラーじみててめちゃくちゃ面白いです。
御手洗潔の登場、読者への挑戦状。
嬉しいことに読者への挑戦があるんですけど。
我々が関わった過去の諸事件の報告文を、これまで数多く読まれたヴェテラン読者諸兄姉は、ゆえにもうすでに気づかれているものと私は想像している。
(省略)
事件の真相を推理する材料は、すでに充分以上であり、それをはるかに通り越してあからさまである。
ゆえにこのような文言は、むしろ失礼にあたらないかと恐れている。
ともあれ、この奇妙なミステリーの真相構造を、この段階で見抜かれんことをここにお願いするとしよう。
P.250より引用
いやいやいやいや。
こんなのわかるかい!!!
「我々が関わった過去の諸事件の報告文を、これまで数多く読まれたヴェテラン読者諸兄姉は、ゆえにもうすでに気づかれているもの」なの?!
わたし御手洗潔シリーズ全部読んでるけど?!わからなかったよ?!わたしがバカなの?!
まあいいや。わたしは気づかない方が楽しめるタイプだもんねー(開き直り)。
それはさておき、御手洗潔が登場するのは残り3分の1くらいになってからですね。
そこからはあっという間で、話を聞いて、現場を見た御手洗はすぐに謎を解き明かしちゃいます、が。
「こいつは今まで最大級に変わっているぜ、石岡君」
御手洗はまず私に話しかけた。
「とてつもないからくりだ。なんて珍妙なんだい!もしも事実がこの通りなら、これは今まで生きてきて感謝だ。こんな奇妙奇天烈、奇怪千万な現象に出会えたんだからね。ああ、感謝だ!」
(省略)
「信じられないぜ、到底この世の出来事とは思えないよ。ミステリーの歴史が始まって百数十年、まず、こんな事件が起こったことはないだろうね、少なくとも、ぼくは知らない。ああ、すごいぜ!」
P.271.272より引用
このあと御手洗は腹を抱え大笑いし、タップダンスを踊りはじめます。
いや、もうね、この真相は確かにそんな気持ちになっちゃいますわ。そりゃ御手洗もテンション上がっちゃいますわ。
正直、御手洗潔シリーズってほとんど珍妙な事件ばかりなので、ある程度のトンデモトリックを覚悟していたんですけど、これには呆然しました。
そして笑いました。
私もタップダンス踊ろうかと思いました。
間違いなくこんな事件、御手洗潔シリーズでしか味わえないだろうし、御手洗潔シリーズだからこそ許せるというか笑っちゃうというか、「今回もやってくれたな!」って感じです。
まさに前代未聞の事件なので、ぜひ目にしてほしい。
そして「そんなバカな!!!」って言って本を壁に叩きつけてほしい(本は大事にしましょう)。
おわりに
事件の内容は呪いとか祟りみたいなホラー系ですが、実際はコメディミステリです。最高に楽しめます。
しかもかるーい感じで読めます。
「えーっ!」
私たちはまた大声をあげた。
「毎回驚くんだな」
御手洗はあきれたように言った。しかし私はそれ以外にどうすることもできない。驚くものは仕方がない。これまで何度となく御手洗の謎解きを聞いてきた私だが、今回ほど私の度肝を抜いたものはない。
私は今回、いつにも増して、説明を聞いてただ悲鳴を上げるだけの無能な人間だった。
P343より引用
さあ、あなたも石岡君と同じく、悲鳴を上げるだけの無能な人間になりましょう。
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