推理小説家の主人公、白瀬とその友人、音野が次々に事件に巻き込まれ、そして解決していく連作短編集です。
「踊るジョーカー」では父親殺しの疑惑がかけられている依頼人の相談を受け付けます。
依頼人である南斉の父親は地下室に閉じこもりっきりであり、殺害現場でもある地下室には大量のトランプのジョーカーが散乱していました。
「時間泥棒」では上野アサヒ、カイの姉妹が依頼人です。時計が次々になくなるという事件が起きており、その謎に迫ります。
「見えないダイイング・メッセージ」では発明家の殺人事件に巻き込まれます。被害者である笹川が残した写真には何が移っているのでしょうか。
その他「毒入りバレンタイン・チョコ」、「ゆきだるまが殺しにやってくる」といった2篇を収録。
北山猛邦『踊るジョーカー』
世界一気弱な名探偵の動向に注目
推理小説では定番のホームズ役に気弱な探偵である音野、ワトソン役に推理小説家である白瀬があてはめられています。
とくに音野は、頭脳明晰でありながら引きこもり体質で事件に積極的に関わる性格ではないのがユニークです。
それを見守りつつ依頼を受ける白瀬と、嫌々ながら事件を解決していく音野のコンビは見ていて応援したくなる、またつい相談を持ち掛けたくなること間違いなしです。
二人の漫才のような掛け合いもずっと読んでいたくなるような心地よさでした。
小説を執筆する事務所の一部を探偵事務所として貸し出しているという設定もおもしろく、事件に関わっていく度に増えていくインテリアの描写も楽しめます。
5つのそれぞれの事件には突拍子もないトリックが使われていたり驚くような仕掛けが隠れていたりします。
しかしどこか現実的なのも印象的。推理小説の中には謎解きはよくできているものの実際におこなえるのか?と疑問に感じるものも多いですが、本作のトリックは実際に使われていそうなものばかりです。
シンプルでありながら簡単ではない複雑な仕掛けは、非常によく練られていると感じました。
扱われているのは殺人事件や不可解な事件ばかりですが、白瀬と音野のコンビがほのぼのとした空気をかもし出しており次々に読みたくなります。
「名探偵音野順の事件簿シリーズ」としてシリーズ化しており、今作はその一作目です。
続編として「密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿」も出版されていますので、ぜひこちらもチェックしてみてください。
本格的なミステリを楽しみたい方におすすめの一冊
作者である北山猛邦氏は、物理的なトリックにとことんこだわった推理小説を書く作家です。
やりすぎて現実味のない推理小説には共感できない、かといって控えめな推理小説では物足りない…という方にはぴったり。
本格的なミステリー小説をじっくり楽しむことができます。
今作でも古典ミステリーであり王道ミステリーであるシャーロック・ホームズの設定を取り入れつつ、まったく新しいキャラクター設定を取り込んでいます。
今作でも続編でもしっかりと本格的なミステリー小説を書き続けており、若手の作家の中でも非常に珍しい作風が人気を博しています。
「名探偵音野順の事件簿シリーズ」はもちろん、さまざまな城で事件が起きていく「城シリーズ」、「少年検閲官シリーズ」、さらに「猫柳十一弦シリーズ」など、シリーズ作品も多く、それぞれに違ったキャラクター、設定を楽しめます。
人気のゲーム作品「ダンガンロンパ」のノベライズも手掛けており、そちらを読んだことがあるという方も多いのではないでしょうか。
独立した作品も多数発表していますので、今作が気に入った方はぜひチェックしてみてください。

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