『ぬばたまの黒女』- ホラーミステリーの決定版!二転三転する怪異に挑む、罪と償いの謎解き物語

「罪」や「許し」をテーマに、生まれ故郷の村に里帰りした主人公が過去の惨劇に端を発する怪奇現象に巻き込まれるという、王道ホラーでありミステリー作品としてのこだわりも感じられる凝った作りの本作。

作者の大ヒットデビュー作『ナキメサマ』シリーズの第2弾という位置付けではあるものの、探偵役が同じという以外は前作と繋がりはないので本作から読んでも全く問題なく楽しめます。

物語は何かしらの罪を背負いながらも許される機会を失った人々が登場人物として描かれており、罪悪感を持ちながら生きる苦しさや儚さなど、私たち読者もおそらく1度は感じた事があるであろう思想や考え方を垣間見ることができるというのが一つの魅力。

しかし登場人物たちの主張は互いに矛盾を抱えており、同じ事件から受ける彼らの主張も少しずつずれていく…。

彼らの主張には登場しなかった新たな事実が物語の核となる登場人物・異端ホラー作家である那々木の推理によって明らかにされるなど、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。

最後まで読み終えた時点で明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。

目次

読み進めるにつれて怪異の世界観に呑み込まれていく読者自身

『仄暗く沈んだ室内には、腐臭に似た甘い香りが漂っていた』の一節から始まる物語は、最初から不穏な空気を漂わせており、これから始まる怪異を予感させます。

過去の悲惨な事件が明るみになり、主人公の帰省後も次々と巻き起こる怪奇現象の渦に、果たしてこれは殺人事件なのか、超常現象や呪いなのか…。

主人公と一緒に考えながら読み進めるうちに、怪異の存在感をありありと強く感じ、凄惨で緊迫感のある描写に呑み込まれていくというわけです。

主人公は12年ぶりの帰郷により同級生たちや村の住人と再会しますが、全ての登場人物が何か裏表ありそうな描写なので、実際はどのような人物なのかを瞬時に判断することは出来ません。

それぞれの主張を読み進めていくことで初めて、その人物がどういった立場なのかを徐々に知ることが出来ますが、語り手によって異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実に、読者は次々と翻弄されていくことになります。

後半の盛り上がりが凄まじく、怪異の渦に巻き込まれるがごとく、不気味な世界観に呑み込まれていくような面白さをぜひ体感して頂きたいです。

ホラーミステリー独特の不気味な雰囲気と世界観

北海道の田舎町が舞台となっており、開拓者が持ち込んだ祭祀を巡りスプラッタホラーな展開を迎えるという設定も、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。

目を覆いたくなるような痛々しい描写やホラーミステリーならではの薄暗い空気感の中、このシリーズの探偵役である奇人ホラー作家・那々木による謎解きとウンチクがとても面白く、最後まで一気に読み進めていくことができます。

その中で故郷の村である田舎独特の怪異的な風習や閉鎖的な村社会など歴史的背景や真実が浮かび上がってくるというわけです。

過去に起きた事件、そして襲い来る新たな怪異には多くの謎が残されており、読者は主人公や那々木と共に真相の解明を進める事になります。

物語のオチはあえて途中で気付けるような作りになっていますが、最後にとんでもないどんでん返しがあり、そこに見えてきた真実に驚きつつも安堵するという絶妙な読了感。

なので、読み返すとまた別の見えかたで楽しむことができ、一度で二度美味しい作りとなっています。

田舎村特有の閉鎖的な空気感の中、スプラッタホラーな怪奇現象を解き明かしつつ、ミステリーも同時に味わえる“ホラーミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえるでしょう。

ホラーミステリーの一冊目ならコレ!

小説でしか味わうことができない独自の世界観を確立し、怪異ミステリーの愉しさが容赦なく詰め込まれている本作。

発売されて間もないですがすでに王道ホラーミステリーの決定版として密かに評価を得ており、「神像」や「黒い碑」を彷彿とさせる「儀式」、見れば発狂するような「異界」など、怪異ホラーに興味がある方にとってはもはや必読のミステリー小説と言っても過言では無いでしょう。

あまりホラーミステリーには興味を持ってこなかった、という方は読むのに躊躇するかもしれませんが、それはちょっともったいない!

むしろ、この本を読むことによってホラーミステリーの面白さに目覚めることができるかもしれません。

ホラーに興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“ミステリーとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。

後半に畳み掛けてくる秘密の暴露や、王道の構成でありながら最後まで気が抜けないと話題の凝った内容構成、物語を掻き回す迷探偵・那々木の聡明な推理、読み進めることで明らかにされる戦慄の真相、それらの真実を飲み込んでいく怒涛の怪異現象。

ホラーミステリー好きの方、ホラーミステリーデビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるホラーミステリーを読みたい方など、ホラーミステリーや読書が好きな方は読んで損はないです!

伏線の張り方も見事な本作、出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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