ある奇妙な能力を持ってしまった4人の高校生たち。
「他人の背中にその人の『幸福度』が見えてしまう」
「本の背をなぞっただけで中身を記憶してしまう」
「毎朝5つだけ、今日聞くことになるセリフを予言してしまう」
「念じることで触れたものを破壊してしまう」
そんな奇妙な特殊能力を持った彼らが何者かの導きで一堂に会するとき、全ての“偶然”が“必然”だったことに気づく!
これらの能力はなぜ与えられたのか?
なぜ彼らに特殊な能力が与えられたのか?
次第に見え隠れするとある大企業の陰謀、それぞれの能力、自分の存在意義、人類の選択、人類の未来……大小のさまざまな視点が交錯する中で、彼らが下した決断とは。
高校生たちが織りなす、爽やかでちょっとビターな探偵小説×青春小説の大長編。
伏線回収が見事な探偵小説
この本の魅力の一つが、伏線回収が見事であるという点。
表紙のイラストと“超能力を持った高校生たち”という設定で誤解しがちなものの、この本のジャンルはれっきとした探偵小説なんです。
むしろ超能力の設定自体ものちの伏線回収につながっており、探偵小説や推理小説が好きな人にこそ読んでみて欲しいと言えるでしょう。
600ページ以上というかなり長めなページ数ですが、巧みな伏線回収により思ったより気になりません。
主要な登場人物であり、突然特殊能力を授けられ集められた4人の高校生たち。
そもそも彼らが出会うこと自体、偶然ではなく必然だったのではないか?
4人が選ばれ、特殊能力を授けられた理由とは?
こういった核心に迫る謎も後半で解き明かされていき、じわじわと物語の全容を知ることによる爽快感が癖になります。
伏線に次ぐ伏線、ザ・謎ときの探偵小説を読みたい方におすすめしたい作品です。
特殊能力を持つ高校生たちの青春小説
特殊能力を持つ4人の高校生たちの織りなす物語性もこの作品の魅力の一つ。
冒頭から4人それぞれの心理描写や背景が細かく描かれていて、彼らのことを一から理解しながら本を読み進めていけるという感覚があります。
彼らの能力が彼ら自身にどのような変化をもたらしたのか?といった視点も。
各キャラクターの視点からの描写がしっかり入るため、ページ数の割には長さを感じません。
確かな筆致で物語が進むという点からは、本を読む楽しさを感じながら読書を進めていけるでしょう。
そして作品を通してどこか爽やかな雰囲気さえ漂っているように感じるのも本作の特徴。
個性的な魅力を持つ高校生たちの、一時の青春を追った「青春小説」ととらえることもできます。
高校生たちの各々の決断が、彼らそれぞれの物語にどんな結末を与えたのか。
超能力ものが得意でないという方でも、「ちょっと他とは違う高校生たちの群像劇」ととらえれば十分に楽しめるはずです。
読み終えた時には、誰かしらお気に入りのキャラクターと好きなエピソードが決まってくるのではないでしょうか。
キャラ、伏線回収、エンターテインメント性どれを取っても抜群!
本作「ノワール・レヴナント」は、本格ミステリ界の若手筆頭の一人・浅倉秋成氏のデビュー作。
2012年、浅倉氏は本作で第13回講談社BOX新人賞“Powers”で受賞したほか、同時投稿作の『フラッガーの方程式』も2013年7月に書籍化され、話題となりました。
その後もコンスタントに新作を発表し続け、2021年には『六人の嘘つきな大学生』で第12回山田風太郎賞候補に。
若手ながらも着実に実績を積んでいる作家と言えます。
「ノワール・レヴナント」はデビュー作ということもあり多少の粗さはあるものの、キャラクター・伏線回収・エンターテインメント性どれを取っても一級品!
キャラクターは極限まで掘り下げられており、エンターテインメント性の高さと相まって読者に“読む楽しさ”を提供してくれます。
しかしそれだけでは終わらないのが作者の力の見せどころ。
ハードカバーの探偵小説と見間違うような、華麗で巧みな伏線回収が、この作品を探偵小説たらしめています。
超能力者というファンタジーな設定と論理的な推理パートがちょうどよくかみ合い、探偵小説好きな方はもちろん、エンターテインメント性やキャラクター性を求める方にも楽しんでいただけるはず。
デビュー作である本作が気に入った方は、ぜひ同じ作者の別の作品を読んでみてはいかがでしょうか?
また作者は漫画の原作や有名漫画のノベライズも行っており、そちらが気になる方もいらっしゃるかもしれません。
逆に浅倉氏の作品のコミカライズも発行されているので、そこから読んでみるのもよいでしょう。
小説好き・漫画好きの方にとってはぜひチェックしておきたい作者・作品です。
この機会にぜひ!



