西村京太郎『殺しの双曲線』は「そして誰もいなくなった」に挑んだ傑作ミステリの一つ。

西村京太郎さんといえば、十津川警部を主人公としたトラベルミステリーのイメージがすごく強い。

二時間ドラマでの知名度も高いので「西村京太郎さんってあの電車ミステリの人かあ」と思う方も多いでしょう。

が、そんな方にこそ読んでいただきたいのが『殺しの双曲線』。

アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』に挑戦した名作であり、一度読めば西村京太郎さんのイメージがガラリと変わってしまうくらいの、ザ・本格ミステリです。

『そして誰もいなくなった』のオマージュミステリというと、国内作品では綾辻行人さんの『十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)』が有名ですね。

ですが、この『殺しの双曲線』も絶対に忘れてはならない作品なのです。

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西村京太郎『殺しの双曲線』

物語は、戸部京子の元に一通の手紙が来ることから始まります。

それは「観雪荘」というホテルからのもので、皆に口コミの宣伝をしてもらう目的として、旅費全てを無料で招待する、という内容でした。

ちょうどスキーに行きたかった京子にはナイスなタイミング。

しかもその招待状は恋人の森口にも届いており、それならば、と二人は観雪荘へ向かったのでした。

 

というわけで、最終的に観雪荘にはオーナーの早川と、京子を含めた招待客6人が集まりました。

これで舞台は整いましたね。

これから一人づつ殺されていき、最後には誰もいなくなるのです・・・!

差出人不祥の、東北の山荘への招待状が、六名の男女に届けられた。しかし、深い雪に囲まれた山荘は、彼らの到着後、交通も連絡手段も途絶した陸の孤島と化す。そして、そこで巻き起こる連続殺人。

というように今作は、雪の山荘に招待された人々が次々に殺されていく、という王道のミステリーです。

「招待された客」「雪に閉ざされた山荘」「外部との連絡は不可」「そして誰もいなくなったへの挑戦」などなど、これぞ本格!って言わんばかりの設定が満載。

さらに物語はこれだけではありません。

「観雪荘」とは全く別の場所で行われる「連続強盗事件」の章が交互に展開されていきます。

「観雪荘での殺人事件」と「連続強盗事件」。

全く関係ないと思われる二つの事件がいったいどう絡んでくるのか?というのも大きなポイントとなります。

あくまでフェアに、読者へ挑戦する。

最初のページにこんなことが書いてあります。

この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです。
何故、前もってトリックを明らかにしておくかというと、昔から、推理小説にはタブーに似たものがあり、例えば、ノックス(イギリスの作家)の「探偵小説十戒」の十番目に、「双生児を使った替え玉トリックは、予め読者に知らせておかなければ、アンフェアである」と書いてあるからです。

『殺しの双曲線』 P.6より引用

いきなりこれですよ。

最初の時点で「メイントリックは双生児を利用している」と宣言しているんですね。

あくまでフェアに、読者への挑戦をしているんです。むしろ挑発にも感じます。

いきなりメイントリックをバラしちゃっていいの?!と思うかもしれませんが、良いのです。

というか、この時点で読者は罠にハマっていると言って良いでしょう。

もちろん「メイントリックは双子」と言うのは嘘ではありません。事実です。

しかし、これが罠なのです。

その意味は・・・・ぜひ本書で。

『殺しの双曲線』を読む前に。

ただし『殺しの双曲線』を読むならば、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を読んでいることが必須条件となります。

なぜなら作中で『そして誰もいなくなった』のネタバレがあるからです。

未読な方がこのネタを知ってしまってはいけません。注意してください。

ま、今作とは関係なしに、ミステリ小説がお好きならクリスティの『そして誰もいなくなった』は絶対に読んでおくことをオススメします。

国内ミステリの中にも『そして誰もいなくなった』を読んでいる前提で書かれている作品もけっこうありますし( ´∀`)

一レーンだけのボウリング台があった。職場で、ボウリングクラブに入っている京子は、興味を感じて、備付けの靴にはきかえていると、森口が、グラスを片手に持ったかっこうで入ってきた。
「一緒にやらない?」
と京子が誘うと、森口は、「いいね」とうなずいたが、
「おや」
と、妙な声を出した。

「このレーンはピンが九本しかないぜ。あれは、十本あるもんだろう?」

『殺しの双曲線』 P.57より引用

今回はここまで

というわけで、西村京太郎さんの『殺しの双曲線』をご紹介させていただきました。

個人的にも、西村京太郎さんの中でいちばん好きな作品です。

本格ミステリが好き!『そして誰もいなくなった』も好き!という方はぜひ一度お手にとっていただけたらと思います。

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それでは、良い読書ライフを!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (8件)

  • うわーうわー!これ、次に買おうと思ってるやつです。
    そして誰もいなくなった、は勿論、そのオマージュ作品、見立て殺人もの大好きです。
    なんか、意味もなく不謹慎なワクワク感が止まらなくなります(笑)

    • おおーそれはグッドタイミングです!( ゚∀゚)
      私も大好きで、「そして誰もいなくなった」のオマージュ作品ってだけで読んでみたくなります。
      そのワクワク感とてもわかります 笑。こんなにたくさんの人が殺されているのに、この胸の高鳴りは何なのでしょうかね笑。

  • 初めまして。
    ここ六年程の浅いミステリ読みです。
    いつも参考にさせて頂いております。
    少ないミステリ歴ですが、この作品はこれまでのところ国内長編ミステリで最も好きな作品です(海外では毒チョコ)。
    第一頁目から色気たっぷりで参っちゃいますね。
    クリスティの墓前に捧げられるレベルの名作だと思います。

    これからも更新楽しみにさせて頂きます。

    • ちぃさん始めまして!
      いつも見ていただけているようで大変嬉しいです。ありがとうございます。
      おお〜、一番好きな作品なんですね!私も『殺しの双曲線』は国内作品の中でもトップクラスに好きです。そして誰もいなくなったのオマージュってだけでも好きなのに、あの最初の展開ですからね。最高です(*´∀`)
      『毒入りチョコレート事件』も間違いない傑作ですよね。もう何度読み返したことか。。
      楽しみにしていただけてとても嬉しいです。やる気が湧いてきました!よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いいたします。

  • こんにちは。
    たった今読み終えました!
    閉ざされた館での連続殺人…好きなやつです(*≧∀≦*)笑
    文句なく面白く、最後は一気読みでした!
    西村さんは、やはり私の中では時刻表を駆使するのが好きなおじさん(失礼)というイメージだったので、今までそんなに興味もなく、一度も読んだことがありませんでした…
    が、こちらであまりに面白そうに紹介されているので、つい手に取ってしまいましたが大正解でした!
    これからもたくさんの本を教えてください。
    楽しみに待ってます。

    • pomさんこんにちは!
      閉ざされた館での連続殺人は私も大好き中の大好きなやつです(*´∀`*)
      そうですよね笑。私もこの作品と出会うまではそういうイメージだったので、初めて読んだときは感動しましたね。
      まず読みやすいことにビックリしましたし、まさかあの西村さんが『そして誰も』を意識した本格ミステリを書かれているところにさらに驚愕でした。そして、面白い。なんなんでしょうこの面白さ。私も非常に好きな作品ですのでpomさんが気に入っていただけたようで何よりです。
      そう言っていただけて大変嬉しいです!泣
      ぜひぜひこれからもよろしくお願いいたします〜!

  • こんにちは
    こちらで紹介されているのを見て、すごく気になって、私も読みました。イッキでした(笑)
    やはり、閉ざされた山荘って、ワクワクしますね。おまけに、舞台が二ヶ所で進行していくので、どうなっちゃうんだろう、が加速します(*゚∀゚)=3
    西村京太郎と言えば、十津川警部ってイメージで、実は今まで読んだことがなかったんですけど、読んで良かったです(* ´ ▽ ` *)
    時代設定は昭和44年くらいかな?携帯も無い、ネットも無い、ドローンも無い、防犯カメラもきっとほとんど無い、みたいな頃って、ミステリーにとってストーリーとかトリックとか作り易いだろうなぁ…ってふと思っちゃったりしました。
    とは言え、最後は「え~、そうなの~!」と、まんまと騙されてましたけど(笑)
    紹介していただいてありがとうございました。
    これからも参考にさせていただきます(゚ー^*)

  • ☆のりたん☆さんこんばんは!
    いやーお気に召していただけたようで大変嬉しいです!もう、イッキですよね 笑。
    そうなんです、閉ざされた山荘って言うのはどうしてもワクワクしてしまうモノですし、しかも二つの物語が同時進行していく……という一気読み不可避な作品ですよね。
    私も西村京太郎さんは十津川警部にイメージだったので、初めて読んだ時はまさかの本格山荘モノで興奮しましたねえ。。こういうのをもっと書いていただきたいなあ、と思ったり。
    確かに、トリックを作る際は時代設定も大きく関わってきますよねえ。。その辺もミステリ小説の面白いところです。
    いえいえ、こちらこそ読んでみていただいてありがとうございました!(*´∀`*)

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