『人間の顔は食べづらい』の舞台となっているのは、新型のウイルスがさまざまな動物に感染していき、今まで当たり前に食べていた動物の肉が食べられなくなってしまった世界です。
動物の肉が食べられなくなった結果、菜食主義者、いわゆるベジタリアンが増えていくことになるのですが、その状況を打破するためにとられた策がなんと食用のヒトクローンの生産でした。
これまで動物の首を切り落とし出荷していたのと同じように、ヒトクローンが出荷され、食用として消費されていきます。
クローン施設で働く柴田和志は、まさに育てた人間の首を切り落とし、発送するという業務をおこなっていました。
ある日、首なしで出荷したはずのヒトクローンの商品ケースから生首が発見されるという事件が起こります。
この事件に絡んでくるのが大物政治家である冨士山博巳で、さらに風俗嬢である河内ゐのりも登場し……という感じですね。
簡単なあらすじを書くにしても、ついついネタバレしたくなっちゃう作品です。
ひとつの事件にいろいろなものが絡んでくるのですが、ラストに向けて綺麗にまとまっていきます。
え、ご都合主義だって?そんなもん知りません。
白井智之『人間の顔は食べづらい』
この作品の見所は、グロさMAXなのにきちんとミステリーとして完結しているところですね。
グロ耐性というのは本当に人によるので一概に「初心者でも大丈夫!」と言えない部分もあるんですが、この作品の世界観であれば単なるグロ系の作品として完結することもできたと思うんですね。
それだけ掘り下げられるというか、深いテーマだと思うんです。でも、グロ系だけで終わらずに、きちんとミステリーとして成り立っているところがすごいんですよ!
おそらくですが、タイトルが奇抜ですし、表紙もかなりインパクトがあるので、ただのカニバリズムものと思う人も多いはず。
でも、そういう人にこそ読んでほしいですし、そういう人こそ読み終わった後に「うおー!」と盛り上がっていただけるでしょう。
あと、この作品ではぜひ視点の切り替えにも注目してほしいですね。
基本的には柴田和志、冨士山博巳、河内ゐのりの視点が入れ替わりながら物語が進んでいくんですが、これがミステリー作品としてのポイントにもなってくるんですよね。
ミステリー上級者だとすぐにわかっちゃうかもしれないんですが、わからないまま読み進めて最後に驚けたほうが幸せです。
ミステリとしての着地が完璧
もう「人間の顔は食べづらい」というタイトルからしてすごいですよね。これは思わず手に取りますよ。
そして、表紙です。衝撃的なタイトルに負けないくらいインパクトがあります。
むしろ、この表紙あってこそという感じ。グロに関してはタイトルや表紙から受ける印象そのまんまという感じですね。
はっきり言って「グロいの無理~」という人には向かないでしょう。
最近では人間を食用にするというテーマの作品をよく見かけるようになった気がするんですが、今の時代なら本当にありそうだから余計に怖いんですよね。
だって実際に細胞から人の臓器を……というレベルまで来ているんですよ?そう遠くないうちに「人間のクローンできちゃいました!」とか、なりそうな感じがすごくします。
そう考えるとこの作品のテーマはぶっ飛んでいるように見えて、身近なテーマなのかも……。まぁ、作品のテーマはもちろんなんですが、やっぱりミステリーと言えばトリックですよ。
まんまと引っかかってしまったのであんまり偉そうには言えないんですが、引っかかった人ほど後から読み返したくなると思います。
読み返したときに悔しさを覚えること間違いなし!
デビュー作から白井さんはぶっ飛んでいた。
タイトルから表紙からとにかくインパクトのある作品です。
「横溝賞史上最大の“問題作”、禁断の文庫化。」と謳われているだけあって、もう本当に問題作です。
ヒトクローンというグロテスクな要素もありつつ、しっかりとミステリーに仕上がっているので「グロ×ミステリー」という組み合わせが好きな人には本当にたまらない作品ですね。
ある程度ミステリーミステリを読みなれている方でも、このミスリードには引っかかってしまうでしょう。
引っかかったからこそ読み返そうと思えるわけですし、読み返すことによって「あー!ここかー!」という発見もあります。
もしこの作品が一昔前に出版されていたとしたら、ここまでのドキドキ感は味わえていないと思います。
今の時代だからこそ、ヒトクローンのリアルさといったものが際立ちますし、ドキドキゾクゾクしながら読み進めることができます。
インターネット上のレビューなどを見ても高評価されている作品なので、ミステリーが好きでグロに抵抗がないということであればぜひ手に取ってもらいたい1冊です。

コメント
コメント一覧 (2件)
いやあ、白状するとですね、ずっと前に読んだ謎の館へようこそのアンソロジーを読んで、この人だけは脳が受け付けねえ、ってな感じでして。さらっと全世界の白井先生ファン及び白井先生を敵に回すようなことを書いてしまいましたが、トリックなりミステリとして中核をなす部分は面白いと思ったんですよ。それを読んでからずっと手をつけずにいたのですが、話題沸騰、ミステリ ランキングにも載る白井先生の作品、味わってみたいという欲求も断ち切れず。そこで尋ねます。グロ描写の苦手な僕でも、白井作品は楽しめますか? トリックやロジックがしっかりしていて、本格として面白ければ、読んでみたいと思うのですが…。我慢してグロを耐える辛さと、本格を味わう喜び、どちらが勝るでしょうか?(ちなみにグロ描写すらも伏線ですとかだったら喜んで貪るように読みます。でもこんなこと聞いちゃうとネタバレっぽいかなあ)面倒なコメントですんません
アラシナオヤさんこんにちは!
なるほど、そうでしたか。
正直、グロ描写が苦手だと白井さんの作品は厳しいと思います……
もちろんトリックやロジックもしっかりしていて本格として面白いのは間違いないんです。
無理にオススメはしませんが、でも、もしかしたら本格を味わう喜びの方が勝るかもしれません。
こればかりは、「一度手にとってみてはどうでしょうか?」としか言えないですね……すいません(ノω`*)