昭和21年春、戦後の復興が徐々に進み、疎開で散り散りになった団員達も東京に戻ってきた。
そんな中、団員の羽柴君の家に、明智小五郎と小林少年の偽物が現れた。
偽物の正体は、怪人二十面相とその手下。
変装して油断させ、羽柴家の秘蔵・黄金の厨子をまんまと盗み出したのだ。
二十面相はさらに銀座や名古屋でも盗みを働き、次の犯行予告まで出してくる始末。
やりたい放題の二十面相を、小林少年は懸命に追う。
しかしその先で出会ったのは、二十面相ではなく、ミツルと名乗る少女。
そしてこの少女こそ、二十面相の手下であり、小林少年の偽物だった!
巨匠・辻真先が手掛けた「少年探偵団シリーズ」の第二弾です。
シリーズならではの痛快なストーリー展開
『二十面相暁に死す』は、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのオマージュ作品です。
著者は脚本家の辻真先さんで、今作は『焼跡の二十面相』に続く二作目となります。
前作『焼跡の二十面相』では、明智小五郎が不在だったため、小林少年が孤立奮闘していました。
しかし今作では、明智小五郎は冒頭からしっかりいます。
頂き物の甘い干し柿に、笑顔でかぶりついています(笑)。
このように戦後の平和なムードが漂う中、いきなり二十面相の暗躍が始まります。
少年探偵団の団員の家から、黄金の厨子を盗み出すのです。
しかもあろうことか、明智小五郎と小林少年に変装していたというのですから、これはもう完全に挑発行為でしょう。
読み手にとっては、ワクワクせずにいられない展開です。
が、明智たち本人にとっては、たまったものではありません。
当然なんとしてでも尻尾を掴んでやろうと調査に出ます。
ところが二十面相は一枚上手で、嘲笑うかのように、次から次へと盗みを働くのです。
このイタチごっこには、少年探偵団シリーズならではの痛快な魅力がありますね!
しかも前作と異なり、今回は明智小五郎がいますから、序盤から騙し合いや読み合いが炸裂しています。
出し抜いたり出し抜かれたりの連続で、ページをめくるたびにヒートアップ!
読み出したら止まらない勢いで、物語を追うことができます。
さらに舞台設定もお見事で、前回登場した四谷財閥が設立した学園を始め、名古屋城や都心の地下迷宮、奥多摩の秘密研究所など、冒険心をくすぐる施設が色々と出てきます。
アクションシーンも多いので、大冒険活劇として楽しめること請け合いです!
少年探偵と少女怪盗の甘酸っぱいロマンス
見どころの多い『二十面相暁に死す』ですが、中でもダントツに興味をそそられるのは、小林少年の恋模様でしょう。
あの「りんごのような顔」をしていて、明るく元気で勇敢で、とっても可愛らしい小林少年が、甘酸っぱい恋をするのです。
お相手は、なんと二十面相の手下の少女ミツル。
この少女がまた良い味を出していて、まず冒頭では小林少年の変装をしています。
小林少年といえば、古くからのファンはご存知のように女装が得意です。
可憐な美少女に変装できるのですが『二十面相暁に死す』では逆に、少女が小林少年に扮するのです。
この段階でもう読者は興味津々、逆説的な面白展開に、目が離せなくなります!
しかも小林少年とミツルは、都心の地下迷宮で危機的な状況に陥ります。
そのため本来は敵同士でありながら、一時休戦し、助け合いながら脱出するのです。
この命がけの冒険の中で、少しずつ淡いロマンスが始まっていきます。
読み手としては、微笑ましいような、背中がむず痒くなるような、ついニヤニヤしてしまう流れですね!
そして終盤では、小林少年とミツルのように、明智小五郎と二十面相もまた、協力し合うことになります。
この二人、基本的にはライバルですが、だからこそ互いの間に通ずる何かがあるのでしょう。
ガッチリと手を組んで巨悪に立ち向かう姿は、カッコいい以外の何ものでもありません。
なにせ、人並外れた知恵と度胸を持つ二人です。
その共闘シーンは、読み手の心を熱く激しくたぎらせてくれます。
『二十面相暁に死す』というタイトルの通り、二十面相は本当に死んでしまうのか、そしてミツルと小林幼年の恋の行方は?
次回作が待ち望まれます!
ワクワクさせるギミックが満載
前作の『焼跡の二十面相』もそうでしたが、今作の『二十面相暁に死す』も、エンターテイメント性に富んでいます。
さすが『名探偵コナン』や『ルパン三世』の脚本も手掛けた辻真先さん、見る者を興奮させる手腕は、超一流です!
とにかく随所に、「なるほど、そう来たか!」と思わせるギミックがあるのです。
特に二十面相の、様々な姿に変装しながらの神出鬼没ぶりは、めまぐるしさや小賢しさがたまらなく魅力です。
それを見抜く明智小五郎の冴え渡る頭脳もまた、読み手を心底ワクワクさせてくれます。
アクションシーンも凄まじく、兵士や武装ヘリが出てきたりと、派手で迫力満点!
この他にも、クスッとしてしまうような小ネタも満載です。
たとえば小林少年が実は鉄オタで、鉄道のこととなると目を輝かせて語りまくったり。
辻真先さんの別作品『たかが殺人じゃないか』の登場人物が、さりげなく出てきたり。
とにかく「読者を飽きさせない、楽しませよう」という工夫が、あちこちに散りばめてあるのです。
それでいて、江戸川乱歩の本家・少年探偵団シリーズの世界観を壊すようなことは、全くしていません。
設定や魅力を十分に引き継ぎつつ、辻真先さん独自の妙味を加えることで、よりエキサイティングで味わい深い作品に仕上げています。
見事というほかはない、一大エンタメ小説です!
ぜひ手に取り、ノスタルジックでありながらも新鮮味あふれるこの物語を、存分に楽しんでください。