あの粘膜シリーズが6年ぶりに帰ってきた!
と言うわけで、ファン待望のシリーズ新作、飴村 行さんの『粘膜探偵』です。
大好きな人にはたまらない粘膜シリーズの6年ぶりの新作なんですから、楽しみじゃないわけがないでしょう。
とにかく世界観が独特でグチャグチャでグログロで、一度読んでしまうと気持ち悪いのになぜか虜になってしまうという不思議な書物。
さあ、読みましょう!
共に狂いましょう!
『粘膜探偵』
作品の舞台は戦時中の帝都。
主人公は14歳の少年・鉄児。
特別少年警邏隊(トッケー隊)に入った彼は、保険金詐欺事件を追うことになり、しだいに恐ろしい罠に囚われていく、という展開です。
暴力シーンやグロテスクな描写も多いですが、架空の国の風習など引きこまれるファンタジー要素もちりばめられています。
当然のように恐怖シーンが続きますが、コミカルなやりとりが読者の緊張をほどよくといてくれるでしょう。
戦時中という暗い雰囲気の中、暴力も横行している社会でたくましく生きようとする鉄児を応援したくなると思います。
子どもの中では強くとも、影響力や権力を持つ大人からすれば無力な鉄児たちの戦いを最後までハラハラしながら見守ってください。
相変わらず「粘膜」な世界観
注目なのは、リアリティ溢れる世界観に違和感なく溶け込んでいるマレー半島の小国・ナムールです。
歴史や世界における位置づけもしっかり書き込まれていて、うっかり騙されそうになりますが、ナムールという国は実在しません。
見てきたかのように匂いまで感じさせる作者の筆力を堪能できる部分です。ミステリーの中の架空要素に戦慄したい方は注目ですよ。
もう一つ、キーパーソンの一人である老婆の存在です。
ホラーやミステリーに登場する老婆といえば、不気味な伝説を語ったり因習に従って儀式を行っているなど、物語の恐怖感を強める存在であることが多いですが、この作品においても、ぞっとする場面を印象的にする役割を果たしています。
14歳の少年からすれば、すべてが不可解なものであることでしょう。
そして、子ども相手でもいっさい容赦しない大人たちの狂気が読者にも迫ってきます。
戦時下ということもあり、軍の陰謀なども鮮やかに描かれていて、どこまでも迷宮の奥に誘い込まれるような深さがあります。
これまで刊行されたシリーズに比べるとグロテスク描写は控えめですが、それでも人が死んでいくことに変わりはありません。
ホラーでありミステリーであり事件ものであり少年の成長譚でもある、多角的に楽しめる作品です。
粘膜シリーズの新たなスタートか
シリーズとは言っても、この粘膜シリーズは舞台となる世界観は同じようなだけで、どの作品から読んでも楽しめるようになっています。
なので当然この『粘膜探偵』から読んでもオーケーです。
一応順番は
①『粘膜人間』
②『粘膜蜥蜴』
③『粘膜兄弟』
④『粘膜戦士』
⑤『粘膜探偵』
となっています。
どうやら、今までの残虐極まりない作風からの脱却すべし!と意気込んで描いた作品らしく、確かに今までのシリーズ作品と比べてグチャグチャ感は控えめです。
いきなりグロシーン満載はきついな、でも気になるし読んでみたいな、という方はまず『粘膜探偵』から飴村行さんの世界に入っていくのもいいかもしれません。
逆に、これまでの粘膜シリーズを堪能してきた方にはちょっと物足りなさを覚えるかもしれませんね。
とはいえ面白さは変わらず、重みのある文体も、どんどん馴染んできてクセになってしまうでしょう。
謎を暴いていく過程で、死者も増えていきますが、その描かれ方がまたエグみの強いものとなっています。
不気味な植物の描写など、作者の持つ言葉の豊富さに惹きこまれますね。
恐ろしいシーンも描き方が浅いと怖さが伝わりにくいですが、飴村行さんのどろっとまとわりつくような表現の多様さに、虜になってしまうファンは多いと思います。
作中で語られる「おとぎ話」の場面は読後も尾を引く気味悪さなので、覚悟して読み進めてください。
事件の奥にあるのは何なのか、本当の黒幕は誰なのか。
読者も探偵になった気分で、何層にも隠された忌まわしい事実を探っていける作品です。
残酷でありながら美しい、暴力の連鎖のストーリーを、ぜひあなたも体感してみてください!
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