新本格30周年記念って素晴らしい。
だってこんなに素晴らしいアンソロジーが出ちゃうんですもの。
先日ご紹介した『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー (講談社ノベルス)』も良かったですが、こちらも贅沢な一作でした。
関連記事:『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』が豪華すぎて大変なことになっています
『黒』はこちら➡︎『謎の館へようこそ 黒』-『白』に続いて各作家さんの個性的すぎる短編が勢ぞろい!
『謎の館へようこそ 白』
・東川篤哉『陽奇館(仮)の密室』
・一肇『銀とクスノキ ~青髭館殺人事件~』
・古野まほろ『文化会館の殺人 ――Dのディスパリシオン』
・青崎有吾『噤ヶ森の硝子屋敷』
・周木 律『煙突館の実験的殺人』
・澤村伊智『わたしのミステリーパレス』
という作家さんたちの、「館」をテーマとした短編が収められた豪華アンソロジー。
館モノ好きにとって、こんなに嬉しいアンソロジーってあります?
しかも書き下ろしですよ?
つまり、この短編のためだけに建てられた館ですよ?
うひゃー。館好きにはたまりません。
東川篤哉『陽奇館(仮)の密室』
雷雨に見舞われて立ち往生している時に、偶然発見した花巻氏の邸宅に助けてもらった四畳半一馬(探偵)と助手の大広間くん。
しかし泊めさせてもらった『陽奇館』で、花巻氏が何者かに殺害されてしまう。
出入り口の扉には中から掛け金がかかっており、サッシ窓にはクレセント錠がかかった完全な密室での殺人。
〈どうやって密室を作ったのか?〉がメインとなる謎。
東川さんらしいユーモア溢れるミステリなのですが、これ、かなり好きですね。
二転三転からのまさかの大掛かりなトリックには驚きました。
そんなバカな!なトリックですが、東川さんなら納得。なにせタイトルが素晴らしい。(仮)とはね、なるほど。
こんなこと出来るの東川さんだけでしょう。
青崎有吾『噤ヶ森の硝子屋敷』
外壁も、内壁も、扉も、天井も、屋根も、階段も。最小限の柱を除き、屋敷のすべてはガラスでできているのだった。
P.215より
という、内部の構造どころか裏側の木々までもはっきり見えてしまうくらい透明度の高いガラスで出来た館での密室殺人。
現場となった部屋のドアには鍵がかかっていなかったが、ドアはずっとカメラで撮影されており、その間ドアは1度も開閉していないし、誰かが近づいた様子もない。
となると、犯人が出入りできるのは部屋についている窓だけだったが、窓には内側から鍵がかかっていた。
さて、犯人はどうやって密室を作り上げたのか?
透明なガラスで作られた館、そこに宿泊しにやってきた人々、密室殺人が起きて、名探偵の登場、と、この中では一番「王道本格」な作品。
でありながら、密室トリック明かされた時は「そんなバカな!」って思いました。いやー、でも大好きです。
論理詰めで句読点入れる間もなくペラペラ推理を語っていく薄気味探偵、好き。
良い意味で、この館を使った長編を読みたかったなー。
周木律『煙突館の実験的殺人』
目が覚めたら見知らぬ建物内にいた。他にも自分と同じように閉じ込められた人がいる。
『あなた方はここで、次々と発生スる「事件」に遭遇シまス。具体的には申シ上げられまセんが、あなた方の使命は、ソの「犯人」が誰かを指名シ、解答スることでス』
P.273より
と、アナウンスが告げる。
もし解答に失敗したら、みなさん全員死にます、とも。
いきなり奇妙な建物に閉じ込められて、殺人実験に強制参加させられ、犯人を当てないとみんな死んじゃうよ、という潔いくらいのデスゲーム作品。
〈堂シリーズ〉で同じみの周木さんだから、きっと大掛かりなトリックを使ってくれるんだろうなー!と思って期待していたら、本当にトンデモトリックをぶちこんでくれました。
細かいことはキニシナイ。
短編ならでは、って気もするんですが、長編で読みたかったかもしれない。良い意味で、短編で使うにはもったいなすぎるネタというか。
澤村伊智『わたしのミステリーパレス』
「町の変な人にインタビューする」というウェブ連載を持っていた殿田は、知人から奇妙な館の存在を耳にする。
遊園地にあるような明らかに「作り物の館」で、遠目から見ても窓がペンキで塗られたものだとわかる。
ランプが付いているのを見たことがないし、人が住んでる気配もないのだけど、たまに女の人の叫び声や笑い声が聞こえるという。
興味をもった殿田は早速その館へと向かうが……。
絶品でしたね。
長編を含めて、澤村伊智さんの作品で一番好きかもしれない。
澤村伊智といえば『ぼぎわんが、来る』や『ずうのめ人形』などが有名な〈ホラー作家〉さんだったので、「澤村さんの館モノ」っていう時点でかなりワクワクしてたんですよ。
で、読み始めたら予想をはるかに超える面白さ。
「作り物の館」の持ち主は〈なぜこんな館を所有しているのか〉がメインの謎なわけですが、この理由がわかった時にゾッとする感じがたまらないです。
「え?え?どういうこと?」の連続で読ませる読ませる。そして最後に「うわああ、そういうことか!」ってなる。
二つの視点からなる物語が絶妙に繋がったときのあの快感。ストーリーが巧すぎでしょう。
途中背筋がゾクゾクしましたけど、読後感はなぜかほっこり。不思議。
おわりに
「館」というテーマでありながら、それぞれの作家さんらしさが出まくった贅沢アンソロジー。こんなにバラバラになるんですね笑。
館を舞台にした殺人事件を描く推理小説、という王道を行くものもあれば、あくまで「館」をテーマにしつつも舞台にはしないパターンなどいろいろ。
同じようなものはない、というか、基本的にどれも「そんなバカな!」っていう驚きを味わえる展開のものばかりでした。いやー楽しい楽しい。
どれも面白かったですが、マイベストを挙げるなら、やはり、澤村伊智さんの『わたしのミステリーパレス』でしょうか。
でも、青崎有吾さんの『噤ヶ森の硝子屋敷』や周木律さんの『煙突館の実験的殺人』も好きなんだよなあ。うーん、悩みます……。
そういえばこの新本格30周年記念アンソロジーですが、ランダムに入っている、各作家さんたちのイラストと作中のセリフが書かれた「しおり」が話題になっているようです(どのくらい種類があるかは知らない)。
『7人の名探偵』についているものだけかと思っていたら、なんと『謎の館へようこそ 白』にもそのしおりが入っていました。
今回の私のしおりは……、
有栖川有栖さんの『月光ゲーム』!!!!!
私的に大当たりだあああ!!!(*´∀`*)

コメント
コメント一覧 (4件)
「7人の名探偵」を読んだ人なら、このアンソロジーも読んじゃいますよね。30周年って素晴らしい。
それぞれのネタやトリックが凝っていて、長編でも十分通用するほどの完成度で作られているあたり太っ腹だなとニヤニヤしながら読んでいました。一番好きなのは「硝子屋敷」ですかね。シンプルだけど鮮やかなトリックが好みなんです。あと、僕のものには麻耶先生のしおりが挟まっていました。思わぬサービスに再びニヤニヤさせていただきました
いやはや、もう逃れられない運命ですね。30周年に感謝です。
そうなんですよ、短編にはもったいないくらいの舞台とトリック、でもそれを短編に使っちゃう贅沢さ。たまりませんね。
「硝子屋敷」良いですよねー!畳み掛けるような推理、あの締めくくりの一言が最高にかっこいいです。ゾクゾクします。
ああー麻耶さんも良いですねえ。というか、当たりしかない……。全種欲しい……。
マイアイドル青崎氏の書き下ろし!
それだけでご飯が三杯はいけます。
しかも栞コレクターには最高のプレゼント!
アリス良いなー。。。
ほんと青崎有吾さんの『噤ヶ森の硝子屋敷』最高でしたよね。舞台もトリックも短編としてのキレの良さも素晴らしかった。
そう、そして栞が嬉しかったです!アリスは個人的に大当たりでして……。ふふふ……(*^m^)