宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』- 豪快、爽快、奇想天外に我が道を行く成瀬を描く青春小説

成瀬あかりが、また突拍子もないことを言い出した。

「わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

滋賀県のシンボルだった西武大津店が、開業44年で閉店することになったからだ。

成瀬は最後の日となる8月31日まで毎日通い詰め、そこで中継している地元テレビ局のカメラに映ろうというのだ。

その言葉通り成瀬は実践し、しかも西武ライオンズのユニフォームを着用していることから、やがて視聴者にも顔を覚えられ、おなじみの存在になっていく。

そしていよいよ、閉店の日となり―。

我が道を全力で進む少女・成瀬あかりの様々なチャレンジを描く、爽やかでパワフルな連作短編集!

目次

飽くなきチャレンジ精神が眩しい

『成瀬は天下を取りにいく』は、チャレンジ精神の旺盛な成瀬あかりを主人公とした全6編の連作短編集です。

成瀬はとても個性的でマイペースで、どれほど奇抜なことでも、やりたいと思ったら実践します。

なにせ目標のひとつが「200歳まで生きる」ことであり、まるで冗談のような目標なのに、本人はいたって真面目に目指しているのですよ。

人から見たら到底ムリなことでも、成瀬にとってはそれは諦める理由にはなりません。

むしろ「たくさんの目標の中からひとつでも叶えたら、すごい人と言われるようになる」という価値観から、次々に新たな目標を掲げていきます。

このようにバイタリティに富んだ成瀬を、中学2年から高校3年まで描いた物語が『成瀬は天下を取りにいく』です。

毎回、成瀬が何を目指してどう行動するのかドキドキワクワク気分で読めます。

各話のあらすじと見どころ

『ありがとう西武大津店』

成瀬、中学2年生の夏。

西武大津店の閉店を見届けるために、西武ライオンズのユニフォームを着て毎日通い、そこで行われているテレビ中継に映ろうとします。

周囲からの冷ややかな視線を気にすることなく、ひたすらに西武大津店に通い続ける成瀬がカッコいい!

幼馴染の島崎みゆきも時々同行するのですが、女子中学生2人がユニフォーム姿でテレビに映っていれば当然目立つので、成瀬たちは徐々に地元民からの注目を集めていきます。

閉店の日が近付くにつれて、成瀬を中心に地元民たちの西部愛が高まっていく様子が見どころ。

『膳所からきました』

成瀬はお笑いの頂点を目指し、M-1グランプリに出場します。

コンビの相方となるのは、幼馴染の島崎。

成瀬の突発的な提案にビックリしつつも、その思いを受け止めて一緒に頑張っちゃう島崎が素敵です。

コンビ名は、二人が住む大津市の膳所(ぜぜ)から取って、「ゼゼカラ」に決定。

ゼゼカラが披露する漫才ネタは、実際にテレビで見たくなるクオリティで、必見!

『階段は走らない』

こちらはスピンオフ的な物語で、主人公は成瀬ではなく40代の稲江敬太。

敬太の年代は、ちょうど西武大津店が開業した頃に生まれたため、閉店にはとりわけ複雑な思いを抱いています。

そしてこの閉店をきっかけに、敬太は小学生の時にわだかまりを持ったまま別れた友達と再会しようと考えるのですが―。

ほろ苦くも心温まる物語です。

西武大津店の閉店が、成瀬や島崎とはまた違う視点で描かれていて、地元民からの愛がどれほど大きかったか伝わってきます。

『線がつながる』

県内トップの高校に進学した成瀬。

入学式の日、なぜか丸坊主で登校し、クラスメイトもですが読者もポカーン。

でも全く人目を気にしない、相変わらずの成瀬です笑

一方、同じクラスになった大貫かえでは、成瀬とは逆で人目を気にしてばかり。

この二人の絡みが今回の見どころで、成瀬と関わることで大貫の価値観が徐々に変わっていくところが晴れやかで素敵です。

『レッツゴーミシガン』

高2になった成瀬は、百人一首・競技かるたの全国大会に出場します。

その時、広島から出場した男子に恋心を寄せられ、なんといきなりデートすることに……!

今回の成瀬は、デートにチャレンジです。

行き先は、地元琵琶湖の遊覧船・ミシガン。

お相手の男子は、成瀬の見た目や能力だけでなく、独自の価値観やチャレンジ精神もきちんと見た上で好きになります。

そのまっすぐな想いが眩しくて、キュンキュン、ニマニマしながら読んでしまいます。

さて彼の思いに、成瀬はどう応えるのでしょうか?

『ときめき江州音頭』

高3になった成瀬は、大学進学に向けて受験勉強に力を注ぐ……はずが、今度は地元の「ときめき夏祭り」で司会に挑戦。

もちろん島崎も一緒であり、二人はお笑いコンビ・ゼゼカラとして参加します。

でも島崎が東京に引っ越すことになり、それを聞いた成瀬はうろたえてしまい―。

最終話は、成瀬と島崎の友情物語です。

離れ離れになることが決まり、成瀬はそこで初めて「今まで島崎を色々なことに巻き込み、迷惑をかけていたかもしれない」と悩み始めます。

成瀬の意外なくらいデリケートな内面が出ているところが、今回の見どころです。

それ以上に見どころなのが、この悩みに対する島崎の答え。

目頭が熱くなるのを止められない、感動的なラストシーンに繋がっていきます。

読めば読むほど好きになれる主人公

『成瀬は天下を取りにいく』は、宮島未奈さんのデビュー作です。

最初の作品とは思えないくらいストーリー運びが巧みでテンポも良く、グイグイ読ませてくれます。

それ以上に、主人公の成瀬の魅力がハンパない!

凛としていて自由奔放な成瀬に、読者は第1話ですぐに魅せられ、回を追うごとに好きになり、最終話を読み終わっても離れがたい気持ちになります。

もうね、成瀬の独特の考え方や行動力はもちろん、セリフやちょっとした反応、悩みすらもカッコ良くて、憧れずにはいられないっ。

その憧れが読み手の心にもチャレンジ精神の火を灯し、もっと前向きに意欲的に生きるパワーをくれます。

だから読めば、きっと元気になるしヤル気も出る!

今ちょっと元気がないかな、気力が足りないかな、という方は、ぜひ本書『成瀬は天下を取りにいく』を読んでみてください。

諦めていた一歩を踏み出せるかもしれません。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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