シリーズ2作目の『アルバトロスは羽ばたかない』が文庫化するので、七河迦南(ななかわ かなん)さんの「七海学園シリーズ」について、1作目『七つの海を照らす星』から振り返ってみたいと思います。
ちなみに、この『七つの海を照らす星』は、以前ご紹介した『屍人荘の殺人』や『ジェリーフィッシュは凍らない』と同じく鮎川哲也賞受賞作(第18回)です。
やはり鮎川哲也賞は好みの作品が多いなあ。
これは近々、「鮎川哲也賞のオススメ○選」みたいな記事を書かなければ……(´∀`*)
七河迦南『七つの海を照らす星』
児童擁護施設「七海学園」の保育士である北沢春菜が主人公となり、学園内で出くわした不可解な謎を、全七編の連作短編として展開していきます。
第一話『今は亡き星の光も』では、死んでしまったはずの生徒が、可愛がっていた後輩の危機に現れる、というホラーじみた謎を解決していきます。
第二話『滅びの指輪』では、学園近くの廃屋に現れる少女の幽霊の正体に迫ります。ミステリとしては、この話が一番の衝撃でした。このトリックは、わかりそうで、わからない絶妙なラインをついてきます。読者に対してのヒントの提示の仕方も巧いです。
第三話『血文字の短冊』は、自分を愛してくれていると思っていた父親が、夜中に電話で「私は沙羅が嫌いだ」と発言していたのを耳にしてしまった沙羅という少女の物語。
春菜から見ても、沙羅ちゃんの父親は明らかに沙羅ちゃんのことを大切に思っているようにしか見えないのに、なぜ電話でそんなことを口にしたのでしょうか。
と同時に、七夕に使う竹の高い部分に『お父さんが怖い。殺される』と書かれたボロボロの短冊の謎を解明していきます。その文字は、学園内の誰の文字とも似てなくて……。
第四話『夏期転住』では、少年が学園で出会った「幻の新入生」の謎。一週間、確かに一緒に過ごしたその新入生は、ある日、追っ手から逃げるように非常階段を登っていき、そのまま消失してしまいます。
行方が気になった少年は先生に相談しますが、「そんな子はいないよ」と言われてしまう。
あの子は、一体なんだったのか。夢でも見ていたのだろうかーー。
その他、5話では裏庭にある「開かずの門」の謎、6話では真っ暗なトンネルに現れる「天使」の謎を解決していき、最終話『七つの海を照らす星』で衝撃的な展開を迎えます。
この最終話は、まるでバラバラだった星が線で繋がり星座となるような、『七つの海を照らす星』というタイトルにふさわしい物語です。
初めて読んだとき、それはそれは興奮しました。「うわー!そういうことかー!!」ってニヤニヤが止まらなくて。もちろん伏線の回収の仕方もとっても丁寧で、しかもあまりに大胆に敷かれているので呆気に取られました。
もう一度最初から読み直すとさらに楽しいので、2度でも3度でも読みましょう。
さりげなく、でも大胆な伏線。
ミステリー小説の見所の一つに「伏線回収の気持ち良さ」ってあると思うんです。
で、この作品でまず目につくのが、伏線の多さ。一つの短編の中に二重三重と伏線が敷かれていて、それを鮮やかに回収していく。
さらに最終話では今までの……!おっと、ここまでにしておきましょう。
そして何が凄いかって、ただ敷かれているんではなく、超大胆なんです。
さりげないセリフや描写の中に思いっきりヒントが提示されていて、解決編では読者にもわかりやすいように丁寧に教えてくれる。
改めて読み返すと「なんで気がつかなかったんだろう」と疑問に思ってしまう伏線ばかりで、思わず前のページに戻って確認して、「おお、確かにそう言っている……」と驚愕させられるんです。
多分、感が良い人なら違和感を感じることができるはずなんですけどね……、私なんで気がつけないんだろう。
ただの「日常の謎」ではない
一言でいえば「児童擁護施設が舞台の日常の謎」なわけですが、決して「ただのハートフルミステリー」ではありません。
児童擁護施設が舞台、というだけで、描かれる内容はさぞかし重たい雰囲気なんだろうと思われるかもしれませんが、実はそんなこともない。
確かに登場する子供達はいろいろ事情を抱えていて、思わず読むのが辛くなってしまう場面もあったりするのですが、それ以上に暖かい気持ちにさせてくれる話が多い。
さらに一話一話の作り込みがすごくて、児童養護施設ならではの視点で書かれた物語が、深く心に染み込んでいきます。
ミステリの部分だけ見れば、よくありがちな「日常の謎」短編になってしまうはずが、この作品はそうさせない魅力があるのです。
最後まで読めば、きっと「読んでよかった」と思っていただける、そういう物語なのです。
「海王さんはね、よく『真実というのは人を幸せにするものだ』って言うの。『真実と事実は違う』とも。人は皆、首尾一貫した自分の物語を必要としている。
一見美しくても嘘や欺瞞で固められた物語はいずれ破綻する。でも事実でさえあればそれでいい、ということじゃない。
無限にある『事実』の中から自分にとって意味のあるものを選び、つなぎ合わせ、解釈して自分を主人公にした納得のいく物語を作っていく、必要なら何度でも書き換える、真実というはそういうものじゃないかって。
昔の人が夜空にただ散らばっているだけの星の間に線を引っ張って星座を作ったように」
P.337より
このセリフが好きです。
なんと続編もあります
さて、『七つの海を照らす星』でまんまと七海学園と七河迦南さんの魅力にハマってしまったのなら、続けてシリーズ2作目の『アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)』も読んでみましょう。
文庫版の発売は2017年11月30日とのこと。
※12/4追記。文庫化しました!
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『七つの海を照らす星』を楽しんでいただけたなら、もう間違いなしの作品です。むしろパワーアップしてます。騙されるとわかっているけど、騙されます。
すでに単行本は発売されているので、ネットで検索するとネタバレに出くわしてしまいます。気をつけてください。
『七つの海を照らす星』の続編だ、という知識のみで、できる限り内容もあらすじも知らずに読んだ方が楽しめます。ぜひご参考までに。
で、さらに。
『七つの海を照らす星』と『アルバトロスは羽ばたかない』を読んだあとは、続けて『空耳の森 (ミステリ・フロンティア)』も読んでみてください。
多くは言えません。
ただただ、最高なのです。

コメント
コメント一覧 (4件)
僕も「アルバトロス」の文庫化が気になって、つい先日買って読んでみました。
いいですね。雰囲気というか世界観がとても好みで、読んで得したと思えるお話。それに伏線回収の上手さといったら。心温まる物語もよく、僕はちょうど翼ある闇を読んで精神に異常をきたしていた(良くも悪くも)ので、これを読んで心を癒していました。
鮎川哲也賞の記事も読んでみたいですね。なんてったってクオリティが高いんだから…。
おお、やはり気になっておられましたか。そうなんですよ楽しみなんですよ。
ほんとに、七海学園の世界観や作り込みがツボで、絶対こんなのいい話になるに決まってるやん!って感じの設定がやっぱり好きなんです。
少年少女に希望を与えてくれるような、心の温まる物語を読みたい時ってありますよねえ。。
翼ある闇(笑)
確かにミステとして好きな作品ですけど、心にはよくないですよね。笑
『七つの海を照らす星』を楽しんでいただけたならアルバトロスも間違いなしです´∀`*)
そうそうそうそう!!!
このシリーズ!このシリーズですよ、次に集める予定は!!
でも、今月すでに7冊買ってしまってます、、、
あーあーああー、、
もう、このタイミングのよさ!
脳ミソが壊れそうですよ。
サンタさん、お願い!!(笑)
図書券いっぱい下さい!
フッフッフッ。
実はhitomiさんがこういうの好きだって知ってました!!!( ゚∀゚)
そしてhitomiさんならきっと読んでいただけるだろうなあ、とも。
もう完全に、我々の好きなやつじゃあないですか。この七海学園の設定。こういう子供達が出てきて、心温まるお話で、伏線回収が鮮やかで、っていう好きな要素しかないやつ。
いやあ、でも11月30日にアルバトロス文庫出ちゃいますからね。これは買わないとですね。その前に『七つの海を照らす星』を読まないとですもんね(謎のプレッシャー)。
いやー脳みそ!!
私もサンタさんに図書券を頼みたいんですけど、どこにお願いすれば良いんでしょう。。毎年心の中では祈っているんですけど、届いた試しがないんですよねえ。