主人公のスタン・カーライルは巡回の見世物小屋でマジシャンとして働きながらギリギリの生活を送っていました。
彼には成功して大金を掴むという大きな野望がありますが、どうすることもできない現状にやきもきしています。
そんな中同じ見世物小屋に属しているジーナとスタンは関係を持つようになり、彼女の持つ読心術のノートを手に入れました。
美しいモリーという女性と組んでインチキの降霊術に手を染めるスタンですが、彼の思うように運命は進みません。
怪しい商売にのめり込む内に徐々に蝕まれていくスタンの心や人生を描く濃厚なノワール小説です。
見世物小屋の薄暗い雰囲気から成りあがっていく前半
主人公が所属している見世物小屋はカーニヴァルとともに各地を転々としています。
一見華やかな印象のあるカーニヴァルも、内側から見れば薄暗い世界だということがすぐにわかるでしょう。
主人公のスタンはそんな重苦しくなかなか抜け出せない日々の中から成功の鍵を掴み取ります。
しかしその方法も清々しいものではなく、やはりスタンは罪に罪を重ねていくことになります。
ですが読心術の方法を習得しとある女性とともに大金持ちを相手にする降霊術をビジネスとしていく様子は、薄暗さを秘めながらも一見爽快な印象さえも感じられます。
ただ、この後成功するだけでは終わらないのだろうと感じるポイントがいたるところにあり、今後の展開がどうなっていくのかが気になって次々にページをめくってしまうのです。
主人公のスタンも相当に頭の切れる人物ですが、さらにその上をいくモリーの本当の目的は何なのか、彼はどのようなラストを迎えるのか…。
各章のタイトルにはタロットカードの名前がつけられており、それに導かれるようにして物語は進んでいきます。
ノワール小説として一気に濃厚な展開に進む後半
前半は主人公が成り上がる様子に爽快感を感じる方も多いかもしれません。
ですが後半に進むにつれて物語は一気に加速し始め、よりダークな世界を見せるようになります。
スタンと父親の確執やインチキ宗教家との関係、降霊術のために使われるトリックやそれに騙されていく多くの人々の様子などが複雑に絡み合い、主人公の運命を左右していきます。
取り扱われる題材などからダークファンタジーな内容を想像する方も多いかもしれませんが、今作にファンタジー要素は一切なく、あくまでも主人公が犯した犯罪や因果応報的な展開を濃厚に描いています。
読心術をマスターして人の心や行動を操れるようになっても、自分自身のことや本当に大切にしなければならないことなどには気づかない主人公。
物語の序盤では大きな野望を胸に抱いていた好青年が、後半に進むにつれて想像もできないような悪人に落ちぶれてしまいます。
そんなスタンがどんな結末を迎えるのか、ぜひ最後まで見届けてください。
観客に見世物として笑われ続ける芸人と、多くの人の心を騙して利用する主人公の、どちらが真の人間として誇り高い生き方をしているのかということについても考えさせられます。
小説ならではのラストの展開も巧妙であり、長年日本語訳されなかったことを不思議に思うほど、名作だと感じることができるでしょう。
名作ノワール小説が映画化!
本作が発表されたのは1946年と、かなり古い作品です。
第二次世界大戦が終息した直後の当時のフランスでは、アメリカのハードボイルドテイストを取り入れたミステリー小説が人気を博していました。
これらの作品はノワール小説という新たなジャンルとなり、フランスだけでなくアメリカにも逆輸入されました。
日本でも戦後当時から現代にいたるまで、ノワール小説と称される作品はたくさんあります。
ミステリー小説と言えば探偵や警察が主人公であり犯罪者に立ち向かうというスタイルが主流でしたが、ノワール小説は犯罪者を主人公に置き、より暗い雰囲気の作風が多いです。
そのようなノワール小説、ひいては今作がなぜ2020年に日本語訳されたのかというと、2022年に映画界の巨匠であるギレルモ・デル・トロ氏が映画化を発表したためです。
見世物小屋やカーニヴァル、タロットカードが示す運命などおどろおどろしい妖しい雰囲気がつきまとう本作ですが、読み進めるほどに重厚なクライムノベルであることが理解できるでしょう。
映画化についてもどのように進められていくのかが今から注目されています。
話題になること間違いなしの作品ですので、気になる方は先にこの原作をチェックしてみてください(๑>◡<๑)
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