一つの事件に対し、多数の推理が繰り広げられることを「多重解決ミステリ」と言います。
特に有名なのはアントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』、芥川龍之介の『藪の中』などがあげられるでしょう。
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とまあ、実際「多重解決ミステリ」自体は珍しくもないわけですが、この『ミステリーアリーナ』は次元が違います。
なんと一つの事件に対し15通りの推理が繰り広げられるんですから。
『ミステリーアリーナ』あらすじ
「さあさあさあ、今年もやって来ました!年に一度のお楽しみ、大晦日の夜恒例の、国民的娯楽番組《推理闘技場》!貧富の差が拡大し、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなった二十一世紀中葉のこの日本、人々が人生の一発大逆転を狙ってチャレンジするこの超人気番組も、今回で記念すべき第十回目を迎えます!総合司会の樺山桃太郎です」
P.42より
紅白歌合戦の代わりに、大晦日では《推理闘技場(ミステリーアリーナ)》という人気テレビ番組が行われていた。
殺人事件のVTRを流し、スタジオの解答者(ミステリーオタクたち)が次々に回答していくというもの。
解答権は一人一回であり、早押し形式。同じ答えだった場合、先に解答したものが勝者となります。
今年で10回目になりますが未だ正解者はおらず、賞金はキャリーオーバーされ今年で20億円となっていた。
というように、『ミステリーアリーナ』では実際の事件ではなく番組側が用意したVTRに対して、何人もの参加者が次々解答をすることで多重解決ミステリの形式をとっています。
ですが先ほど述べたようにこの番組では解答が早い者順なので、手がかりやヒントをじっくり待っていると他の人に先を越されてしまいます。
なので解答者は今後の展開を先読みして推理を披露する必要があるわけですね。
この点も、他の多重推理作品と違った『ミステリーアリーナ』の大きな見所。
手がかりが全部出揃うまで待つことができない状況にあるのです。
それぞれの解答の質の高さがすごい
何より逸材なのが、出場者14人の解答全てに説得力があるということですよね。
さすがミステリーオタクたちというだけあって、一人の解答が出るたびに「ああ、これが正解なんじゃないか」と思わせてくれるんです。
これに関してはミステリーオタクが凄いっていうか、深水黎一郎さんの頭の中どうなってるのって感じです。
その解答もいちいち面白くて、先読み、深読み、伏線の読み、とあらゆる「読み」が披露されてて笑っちゃうくらい。
特に伏線の回収の仕方がすごくて、「え、そんな描写あったっけ?」っていうくらい些細なセリフや描写を引っ張ってきての解答には言葉を失います。
さすがミステリーオタク。毎回予想外の解答を披露してくれるので楽しんでください。
ミステリマニアのためのミステリ
どう読んでもミステリ初心者向けではありませんね。
これまで多くの多重推理作品を読んできた読者にこそわかる面白さだと思います。
たくさんの推理が披露させるにも関わらず、ゴチャゴチャしないで読みやすく仕上げているのも深水黎一郎さんの腕の凄さですね。
終盤ではもはやコメディと言える展開になりますが、このノリ、好きですよ。
緊張感はほとんどなく、最後の展開も好き嫌いが分かれそうですが、ミステリが少しでも好きであればぜひ読んでみるべき作品です。
多重解決ものの傑作であることには間違いありませんので。
コメント
コメント一覧 (2件)
こんにちは!
読みましたよミステリーアリーナ!
ハードカバーの時から気になってたんですよねこれ。
さすが年間ランキング本でも上位に入るだけはあるなーと感じました。
本格好きにはたまらないという感じで(笑)
誰にでもすすめられるものではないかもしれませんが面白かったです。
まあよくあそこまで伏線張れるなーと思いました(≧∇≦)
読み返してもよくわからないくらい(>_<)
あの登場人物を見てると本当のミステリーマニアはこうでないといけないのかな〜と
考えさせられました(笑)
司会のノリはあまり好きにはなりませんでしたが…
最後まで突き抜けてるのはよかったです(笑)
深水黎一郎さんは何冊か読んだんですけどなかなか挑戦的な小説が多いイメージですね。
これからも期待です!
ShoTimeさんおはようございます!
読まれましたか!ミステリーアリーナ!
ほんと伏線の張りかたとか尋常じゃなくて、よくこんなの考えつくなーって感じですよね。
私もミステリ好きですが、彼らのミステリマニアぶりには歯が立ちません。
そうそう、深水黎一郎さんは結構こういうのをやってくれる作家さんです。これからも期待して、新刊が出たらどんどん読んでいきましょう!!