国内ミステリー小説

下村敦史『黙過』-人の生き死にを決める権利が同じ人間にあるのだろうか。

待ちに待った下村敦史さんの新刊『黙過』です。

いやあ、なんていうか、もの凄いものを読んでしまいました。

5編収録の短編集なのですが相変わらずの下村クオリティで、どのお話も読みごたえたっぷり!

すべてのストーリーに言及したいところなんですが、あえてもっとも印象的だった1編をピックアップしたいとおもいます(´∀`*)

1.『優先順位』

轢き逃げ事故に遭い、意識不明のまま昏睡状態に陥ってしまった患者をめぐる医局の抗争物語です。

助かる見込みが「肝臓移植」しかなく、生存は絶望的な患者。

臓器提供の意思を示している彼を尊重し、ドナーを待っている他の患者を優先するべきだという進藤准教授と、諦める前にまずは肝臓移植の道を模索するべきだとする都准教授。

そして、双方の意見に挟まれて胃を痛くしている語り手・倉敷医師……

やけに臓器提供を主張する進藤の思惑とは?

出世のためなら何ものも省みないと噂されている都の真意とは?

人の生き死にを決める権利が同じ人間にあるのだろうか。人の命は数で判断できるのか―――

P12より

読者目線で疑問を投げかけてくれている倉敷とともに、明かされる真実の連続にふりまわされながらも、その驚くべきあたたかさに触れて心がほっこり……。

最後には「癒される」物語

そう、この「黙過」という作品、不思議と気持ちが癒されるんです。

この仰々しいタイトルとまがまがしい表紙からはとても想像ができないですよね。

この本の一番の注目ポイントは、「ひとの根本にある純な優しさ」を、おどろおどろしいテーマから掘り起こしてわたしたちに見せてくれる、下村さんの筆力。

上記に挙げた『優先順位』という短編をはじめ、『詐病』や『命の天秤』など、どの物語もあつかう題材は生々しいものです。

医局争いだったり、養豚場の屠殺に対する動物愛護団体の狂的な正義、自身の娘への臓器提供を優先した(のではないかと疑われている)教授など、なんとまあ、漢字がつらなること!

けれど、どんな疑惑のもとにあろうと、登場人物みなの心底にあるのは、自分以外のだれかに対する優しさと愛情だけ。

ときには血の匂いがしてくるような文章のはざまに、こちらがハッとさせられる思いやりの片鱗が見えかくれするのです。

そのギャップと、ぐんぐんと入り込みやすい世界観、読書が不得手なかたにも読みやすい文章の三重奏で、気づいたら読み終えていました。

この物語には、強すぎる優しさゆえに空回りしてしまう登場人物しかおりません!

親ならば、なりふり構わず我が子を救うべきではなかったか。誰に罵られ、誰に蔑まれ、誰にあざ笑われても。

P167より

もう一度いいます。

もの凄いものを読んでしまった!

4篇が支柱となった最後の1篇『究極の選択』

そしてね、なんといってもこの『黙過』の最大の魅力は、最後に収録されている「究極の選択」という短編にあるのです。

いざ、この短編を読もうとしてページを繰ると、そこにはこう書かれています。

前知識が必要なので必ず他の四篇の読了後にお読みください

P190より

ここまで期待を煽るフレーズにもなかなか出会えませんね。

短編集だからといって、気になる題名の話から読もうとしてはいけません!

「優先順位」→「詐病」→「命の天秤」→「不正疑惑」と読み進めてきたからこそ、最後の「究極の選択」を読む意義がでてくるんです。

冒頭に書いたことを撤回しますね。

これは短編集ではありません。

4篇+1篇で完成する、いわば連作短編集とでもいえるでしょうか。

どの話が欠けていても、この『黙過』は成り立たない!

優しい結末でなごやかな読了感を与えてくれていたのに、ここで急きょ方向転換を余儀なくされる私たち、読者。

「え、そうだったの!?」

「それってそういうことだったの!?」

読みながら呟いてしまうこと必至です。

くれぐれも、最後の「究極の選択」を読む間だけは、人けのない場所で静かにじっくり読みましょう。

表紙とタイトルに、負けないでよかった

正直にいうと、最後まで読み切れるか不安だったんです、この『黙過』。

まずこのタイトルがなんとも不穏だし、極めつけに表紙ですよ。

暗い。なんか全体的に、黒い。そしてこれは、もしかしなくても、病院の廊下……

怖すぎる!

「果たして耐えられるか……?」

とおっかなびっくりだったんですが、結果、読んで本当によかったと思っています。

動物の命は人間より軽いのか?

P138より

この作品を通して、わたしたちに投げかけられるのは、まさに「究極の選択」です。

動物の命と、人の命。どちらが軽く、どちらが重いのか。

はたまた、比重差を問うこと自体が間違っているのか。

人として生きる以上、一度は本腰いれて考えるべきなのかもしれないですよね。

ここに書かれているのは、どこまでも優しく、不器用な物語ばかり。

右往左往する登場人物とともに翻弄される感情の浮き沈みに、負けないで!

最後に明かされる真実は、あなたの心をまた、優しく包み込んでくれるはずです。

 

ABOUT ME
anpo39
年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)
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POSTED COMMENT

  1. こはる より:

    待ってました、ブログアップ!発売日にダッシュで買いに行きました彡(^)(^)

    感想をつらつらぼくも書きたいですが、やめときます 多分読んだ人とみんな同じ気持ちだろうから

    下村さん言ってましたよね?闇に香る…..をこえる傑作だと

    甲乙つけがたい、また下村さんの代表作が増えてしまったことだけは間違いないと思いました

    この読後感….. 最高です….

    • anpo39 より:

      お待たせいたしました!笑
      おお、発売日にダッシュで彡(^)(^)
      さすがです。
      いやほんと下村さんの代表作の一つになりましたよねえ……
      すごい作品でしたもん……
      なんでこんな物語がかけるのでしょう。
      参考文献の多さからも下村さんの勤勉さが伺えます(ノω`*)

  2. hitomi より:

    黙過きたーー❗
    さすがもう読んだんですね。
    私はこれからです。
    闇に香る嘘を超えた、とか店頭に書いてあるからドキドキです。

    • anpo39 より:

      黙過きちゃいましたー!!
      発売して真っ先に読んでしまいました。下村さんですもの。
      お、これから読むんですね。
      ふふふ、ぜひ体験しちゃってください、下村さんの新境地を!( ゚∀゚)

  3. こはる より:

    全く関係ない質問になってしまうんですが

    紹介の途中途中の挿絵はご自身で描いておられるんでしょうか?

    300円の死神の挿絵がかっこいいなあと個人的に大好きで、勝手にラインのトーク画面画像にしてます(転載などしてるわけではないので個人使用には大丈夫かなと思いましたが….)

    今回の黙過の豚の絵も可愛らしくてw

    この挿絵見るのもこのサイト見る楽しみの1つでもあります彡(^)(^)

    • anpo39 より:

      はい!絵は私が自分で描いております(*´∀`*)
      いやあ、そう言っていただいて嬉しいです!
      実は絵を描くのも好きでして、こんな絵でも見ていただけたらなあ、と密かに思っておりました。
      今回そう言っていただけてほんとにほんとに嬉しいです!笑
      ぜひラインのトーク画面画像でもなんでも使ってやってください( ´∀`)

  4. キツネ子 より:

    こんにちは^ ^
    黙過 面白そうですね!
    記事を拝読したところ、生命の重さを根幹のテーマにしているのかと感じました。そういう物語は、語彙力の無さを承知で言いますが「面白い」という持論があるので、読むのが楽しみです。
    そして、関係無いのですが管理人様が描かれた肝臓の絵がツボですw 可愛い(*^^*)

  5. anpo39 より:

    キツネ子さんこんにちは!
    黙過、面白いです!
    そうですね。黙過は生命の重さを根幹のテーマに、命に対しての下村さんの強い問いかけが伝わってきました。
    ぜひ、読んでみてくださいな。
    肝臓の絵を可愛いと言っていただけるとは!絵を褒められるのは実はすごい嬉しいんです!ありがとうございます(*´∀`*)

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