中央情報局(CIA)の凄腕秘密工作員・フォーチュンはマフィアから命を守るため、シンフルと呼ばれる小さな田舎町で静かに暮らすことを命じられていた。
そんなある日、1本の電話が彼女の平穏な生活計画をぶち壊すことになる。
その電話は、かつてミスコン女王を総なめにしていた若い女性パンジーが、ハリウッドから帰郷してくる旨の内容であった。
シンフルでのフォーチュンは「ミスコンテストで優勝経験あり」という偽りの経歴を持っていたが、ミスコンの情報がパンジーの耳に入り、フォーチュンに対してライバル心を燃やし始める。
町の夏祭りで開催される子どもミスコンの共同運営者として選出された2人は衝突を繰り返していたが、ある日何者かによってパンジーが殺害されてしまう。
またもや疑いをかけられたフォーチュンは、今後どのようになってしまうのか…….。
前作『ワニの町へ来たスパイ』に続く、痛快ドタバタミステリーです。
期待を裏切らない個性的な登場人物達
本作は、ユーモラスで躍動感のあるミステリー1作目『ワニの町へ来たスパイ』に続く、ワニ町シリーズ第二弾の物語です。
この本での主な登場人物である秘密工作員・フォーチュン、婦人会を仕切るおばちゃんコンビのアイダ – ベル、ガーディ達の軽妙な会話は、冒頭からクスッと笑えてしまう魅力を持ち合わせています。
キャラ立ちした彼女達の存在は前作でも描写されており、面白可笑しいやりとりは健在のため1作目に続いて本作を読むことで、各登場人物の性格や価値観にも細かく目を向けながら、物語の世界観に浸ることができます。
ハードボイルドな主人公・フォーチュンに、タフでパワフルな老婦人達。
このように個性が強すぎる登場人物達は、物語に奥深さを取り入れるうえで欠かせない存在といえますが、そのあまりにも濃いキャラクター性によって軽く胃もたれを起こしてしまうことでしょう。
また本作では、カフェ店員をしているアリーという普通の女の子を登場させている点にも注目です。
物語の過程でアリーとフォーチュンは出会うことになりますが、住んでいる世界も価値観も全く異なる2人のやりとりは、どこかぎこちなく暖かな雰囲気を感じさせてくれます。
特に孤独で冷酷な性格であるフォーチュンが、アリーとの接触を通じて少しずつ人間らしさを取り戻していく描写は圧巻です。
事件解決の過程で描かれるロマンス描写
キャラ立ちした登場人物達が繰り出すウィットに富んだ会話や、身元を隠しているフォーチュンに嫌疑をかけられるドキドキ感は、本作の最大の見所といえます。
ですが、ストーリー進行の合間にさりげなく散りばめられたロマンス描写も見逃せません。
全体的に面白可笑しい空気感に包まれた物語の過程で、恋愛路線へと発展しそうになるストーリー展開は、読者の感情を大きく揺さぶります。
パンジー殺害の犯人探しや老婦人とのギャグ線高めのやりとりと並行して、恋愛の行末も見守る必要性に駆られるため「早く続きが知りたい!」と、ページをめくる手がつい止まらなくなってしまうことでしょう。
また、本作では前作のストーリー完結の翌日以降の物語を描写している点にも注目です。
ストーリー展開から完結までのスパンがあまりにも短く、推理要素やクスッと笑える描写などの様々なジャンルの面白さが、読者へと次々に襲いかかります。
ミステリー要素あり、ユーモアあり、ロマンスありの忙しない物語が待ち受けているため、短時間でもガッツリ小説を楽しみたい方には、ぜひおすすめしたい1冊です。
この女たち、危険(ヤバ)すぎる。
本作は、前作『ワニの町へ来たスパイ』に続く、待望の第二弾ドタバタミステリーの物語です。
シリーズ小説ということで「最初から読まないと物語は理解できないのかな?」と不安になってしまうかもしれませんが、そんなことはありません。
前作に引き続いて登場するキャラクター達も存在しますが、物語で起こる事件のテーマはまったく異なるものであり、各作品を別の物語として楽しむことができます。
ですが本作で描かれる登場人物達の安心感のあるやりとりは、前作の物語があったからこそ築かれたものです。
そのため「主人公のフォーチュンはどういった経緯で田舎町に住み始めて、その町に馴染み始めたのか?」という裏側の背景を深く知りたい方は、1作目から読み進めていくことをおすすめします。
また、本作の物語では、町の人々とのやりとりを通じて徐々に変化していくフォーチュンの心情や、その意外性にも注目です。
凄腕スパイという経歴上、いつも冷徹な印象の強いフォーチュンですが、住んでいる世界が異なる人々との会話から露呈される不器用でぎこちない姿を見ると、暖かい気持ちに溢れ、つい応援したくなります。
こうした数々の魅力的な描写がこれでもかというほど張り巡らされているため、殺害事件に焦点を当てた古典的なミステリー小説でありながら、読み終えた後も重苦しい余韻をまったく残しません。
事件モノが苦手な方でも、明るい気持ちに包まれながらサクサクと読み進められるストーリー構成になっているため、興味のある方はぜひ読んでみてください!
