ミステリー好きの男子高校生・香澄は、幼馴染に誘われて「雪白館」に泊まりに来た。
そこはミステリー作家・雪城白夜が遺した山荘で、かつて白夜が作家仲間や編集者たちを集め、推理ゲームを楽しんでいたという。
その時に白夜が作り出した密室トリックは、未だ明かされておらず謎のままだ。
興味津々で宿泊する香澄だが、あろうことか他の宿泊客たちが、何者かに次々に殺されてしまう。
しかも現場は白夜が用意した密室であり、なぜかどの遺体に側にも奇妙なトランプが1枚置かれていた。
香澄は偶然その場に居合わせた中学時代の同級生・蜜村と共に謎を追うが―。
密室トリックの粋を極めた、濃厚な新感覚ミステリー!
密室が大ブームという特殊な世界
『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』は、タイトル通り、6種類の密室殺人事件を追う推理小説です。
不可解な密室事件が次々に起こるので、密室好きや謎解きマニアにはたまらない一冊。
まず舞台設定からして興味深く、劇中ではなんと「密室殺人は無罪」と司法で認められています。
つまり人を殺しても、現場が密室であり、その謎が解かれない限りは、罪に問われることはないのです。
そのせいでこの世界では密室殺人が横行しており、わずか3年間で300件を超す密室事件が起こったほど!
多くの人々が殺人のために密室の状況を作り出そうと躍起になり、密室専門の探偵や、果ては密室殺人の請負人まで出てくる始末。
まさに密室ブームであり、だからタイトルが「密室黄金時代」となっているわけですね。
そんな中、男子高校生の香澄は、かつて作家の雪城白夜が用意した密室トリック付きの山荘「雪白館」に泊まりに行きます。
そこで思いがけず中学時代の部活仲間の蜜村と再会するのですが、この蜜村がまたクセ者で、3年前に父親殺しの容疑で逮捕されたものの、密室での殺害だったため無罪放免されたという過去を持っています。
密室殺人を実際にやってのけた、…かもしれない人物なのです!
「蜜村は本当に父親を殺したのだろうか?もしそうなら、どんなトリックで殺したのだろうか?」
という疑問が必然的に湧いてきますが、ところがどっこい、物語はここから息をつかせぬ勢いで、恐ろしい方向に進んで行きます。
他の宿泊客たちが、何者かの手で続々と殺されていくのです。
回を追うごとに高まる難易度
被害者たちは、胸を刺されていたり、銃で撃たれていたり、なぜかドミノに囲まれていたりと、状況は様々。
ただいずれも現場が密室であり、遺体の横には1枚のトランプが置かれていました。
ちなみに「雪白館」に通じる橋は落とされており、携帯電話は圏外で、ネットも繋がっていません。
つまり、この館そのものが密室的な環境になっているわけですね。
そんな中で、かつて白夜が作った密室トリックを模倣するように起こり続ける殺人事件。
これを香澄と蜜村が推理していくというのが、物語の大筋です。
いずれの密室トリックも難解で、今まで多くの推理小説を読んできた方でも、簡単には解けないと思います。
というのも、6種類全てがタイプの異なるトリックであり、それぞれに全く違う盲点を突いてくる上、回を追うごとに難易度がアップしていくからです。
なんせ密室の専門業者がゾロゾロいる世界ですからね、普通の世界に住む我々が、そう易々と太刀打ちできるわけがない。
そういう意味でこの本は「それでも受けて立ってやろう!」という強い気概を持つ方への、作者からの挑戦状とも言えます。
とはいえ文体は軽やかでテンポが良く、難解な説明や専門用語による蘊蓄などもないため「何が何でも自分で謎を解く!」という方以外は、サクッと気軽に読めると思います。
種明かしもシンプルでイメージしやすく、「なるほど、そんな手があったか」とすぐ納得できるので、読了後はスッキリ。
ラノベやノベルゲームになっても面白くて人気の出そうな作品です。
純粋にトリックを楽しめる作品
『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』は、第20回「このミステリーがすごい! 大賞」の文庫グランプリを受賞した作品です。
作者の鴨崎暖炉さんは、「歴史に残るトリックを作りたい」という願望をお持ちで、日頃からアイデアをひねり続けているとか。
根っからのトリック好きであり、特に密室トリックへのこだわりがあり、本書にはその思いがあふれています。
なにせ舞台背景も、事件の中心にあるものも、とことん密室、密室、密室。
登場人物の頭の中を占めているのも、密室への強い関心です。
たとえば劇中では殺人事件が何度も起こりますが、普通ならショックを受けたり悲しんだりしそうなのに、本書の登場人物ときたらそんな様子はほぼ見せず、ちょっと驚くだけで、いそいそと推理をし始めるのです。
「どれだけ密室トリックが好きなんだ!」とツッコミを入れずにはいられません(笑)
この潔さのおかげで物語のテンポが非常に良いですし、人物の心理描写が極端に少ないため、読者も「あぁ可哀想に…」といった感傷に左右されることなく、純粋にクールに推理を楽しめるのです。
作中に
「誰が犯人かなんて、密室の謎に比べたらどうでもいい」
的なセリフがあるのですが、ここに本書の真髄が表れている気がします。
「誰がやったか」より「どうやったか」が大事なのですね。
世の推理小説の中には、犯人の正体を探ることに重きを置いて、殺人や盗みの方法についてはサラッと流しているものもありますが、本書は全く逆。
犯行の手順やギミックがキッチリ説明されており、そこが本書の一番の特徴であり魅力であると思います。
「このミス」グランプリに輝いた力作ですし、ロジック好きの方であれば、読んで損なし!
ぜひ手に取り、登場人物たちと一緒に、密室トリックの虜となってください。
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