ミステリ作家が引き起こした密室館の事件から1年。
アイドル探偵・蜜柑花子は時間の許す限り依頼をこなし、多忙な日々を送っていた。
そんなある日のこと、事務所に密室館でも関わりのあった祇園寺恋が訪れる。
なんでも奇妙なグループに母を人質に取られており、脅迫を受けているというのだ。
その内容は日本各地で起きた4つの事件を6日間で解き明かせ、できなければ母の命はないというものだったが、どうやら依頼には何か裏があるようで―?
大阪、熊本、埼玉、高知……。
遠く離れた場所へ赴き事件解決のため奔走する蜜柑。
蜜柑は関係者の前で4つの事件を解決することができるのか?
悪条件のもと蜜柑が事件の謎に挑む―!
蜜柑花子が難題に挑む!
「名探偵の証明」シリーズの第三弾です。本作では前作に引き続き、アイドル兼探偵として活躍する蜜柑花子が主人公です。
4つの事件を6日以内に解決しなければならないという厳しい状況の中で、蜜柑花子はどんな推理を見せてくれるのかが見どころです。
本作だけは連作の短編集のようなスタイルになっているため、これまでの作品よりも気軽に読むことができるでしょう。
ただ可愛くて推理ができる、というキャラクターではなく、道中で憔悴していく様子や自分の存在意義などを深く考える様子も丁寧に描かれており、これまでより一層蜜柑花子の解像度が高まることでしょう。
このシリーズはメタ的な表現も多く、探偵とは、ひいては探偵小説とは、というテーマについても深く切り込んでいます。
どちらかというとそのテーマの比重が重いため、謎解き部分には新鮮な驚きはありません。
このシリーズを最初から読んでいる方なら違和感なく読み進められますが、この「蜜柑花子の栄光」だけを先に読むと物足りなさを感じてしまうかもしれません。
また、今作にはシリーズに登場していたキャラクターも多く登場します。
そのためより作品を楽しむためには、やはり前作、前々作を先に読んでおくことをおすすめします。
前作の人気キャラクターが登場
今作で主人公の蜜柑花子と常に一緒に行動しているのが祇園寺恋です。
祇園寺恋は前作の「密室館殺人事件」にも登場していたキャラクターです。
強烈な個性で事件の中心の躍り出ていたため、強く印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
今作の始まりも、母親を誘拐された祇園寺恋が蜜柑花子の元へ依頼にくるところから始まります。
作中で蜜柑花子と一緒に行動しているため、かなり存在感があります。
人によっては好き嫌いが分かれるキャラクターですが、ハマる人にはハマるような活躍っぷりを見せてくれますよ。
探偵としてどうあるべきか、探偵としての自分の使命にまっすぐ向き合う蜜柑花子と、そんな使命に背いて自分が面白いと感じたことを追求する祇園寺恋の対比が面白く、どちらに感情移入するかによって作品全体の見え方も変わってくることでしょう。
今作「蜜柑花子の栄光」でシリーズは完結ということではありますが、祇園寺恋が主人公のスピンオフ作品を望む声もあります。
他にも、シリーズ中に登場したキャラクターがたくさん出てきます。
これまでの作品を読んでいた方なら嬉しくなるようなサプライズも用意されていますので、未読の方はぜひ先にシリーズに目を通しておいてください。
探偵とは何かを問うシリーズ最終巻
「名探偵の証明」シリーズは、一作目から「探偵とは何か」、「探偵の役割」、「探偵の使命」というテーマに焦点を当ててきた作品です。
ミステリー小説には欠かせない殺人事件や謎解き、推理、トリックは控え目で目新しいものや斬新なものはありません。
ですがその分、現実での事件とフィクションでの事件を対比したり、実際にあるミステリー小説を例に出したりと、ミステリー小説を好む読者への問いかけのようなセリフも多く登場します。
派手なミステリー小説を期待するとがっかりするかもしれませんが、ミステリー小説好きな方にこそ読んでほしいシリーズと言えます。
「密室館殺人事件」に続き今作「蜜柑花子の栄光」で一旦シリーズは完結ということになりましたが、「屋上の名探偵」、「放課後の名探偵」といったスピンオフ作品も発表されています。
これら二冊は蜜柑花子が高校生だった頃を描く学園ミステリー小説です。
こちらだけでも読めますが、先に「名探偵の証明」シリーズを読んでおくと、蜜柑花子がどうして今このような探偵として活動しているのかをより深く理解することができるでしょう。
ぜひ①『名探偵の証明』、②『名探偵の証明 密室館殺人事件』と順番に読んでみてください!
シリーズ第1弾

シリーズ第2弾

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