『名探偵のはらわた』は「神咒寺(かんのうじ)事件」「八重定事件」「農薬コーラ事件」「津ケ山事件」という四編からなるお話なので、序章にあたる「神咒寺事件」についてご紹介していきます。
浦野灸探偵事務所で働く青年、原田亘は岡山県で起こった事件の捜査に協力することになります。
しかし、向かった先にある神咒寺では火災が発生し地元の青年団7人が巻き込まれ、焼け跡からは6人の遺体が発見されました。
しかし、この遺体には不審な点がありました。
現場は密室なわけでもなく、青年団員は縛られているなどの理由で身動きが取れなかったわけでもありません。
それなのに、焼死した6人は皆神咒寺から脱出しようとした形跡が見られなかったのです。
原田は一人生き残った青年団員に事情を聞きますが、そこで驚愕の事実が発覚します。そして、本当の事件はそこから始まるのだった…というお話です。
白井智之『名探偵のはらわた』
『名探偵のはらわた』の見どころは、過去の凶悪犯VS探偵という構図です。
今作では、昭和時代に凶悪な殺人事件を起こした犯人達が「人鬼」となって復活するという独自設定があります。
そして、本作で起こる事件は全て過去の凶悪事件をモチーフにしたものとなっています。
人鬼は実体を持たないため、誰か他の人間に乗り移って悪事を働きます。
そして主人公たちは、事件の内容や手がかりなどからどんな犯人が人鬼として蘇ってしまったのか?そして、誰に乗り移っているのかを推理し、犯人を追っていくことになります。
この過去の犯罪者の足取りを警察の地道な捜査ではなく、名探偵の推理によって追い詰めるという過程が非常に面白いんです!
また、「過去の犯罪者が蘇って犯罪を行う」というファンタジックな設定ではありますが、その犯人に迫っていく過程はしっかりと説得力のあるロジックによって組み立てられています。
それでいて本作独自の設定による特殊性も損なわれていないので、物語の作り方が非常に上手いな~と感心しながら読んでしまいました。
白井さんの特殊ミステリはやはり面白い!
特殊設定を用いた作品ではありますが、構成がしっかりしていてスラスラ読むことでき、最後まで飽きずに読むことが出来ました。
白井智之さんの作品と言えばいわゆるグロ描写が特徴として挙げられますが、本作では他作品に比べてグロ描写は控えめだったと思います。
グロ描写が苦手な方でも読みやすいかもしれません。(とは言え、全くグロ描写がないわけではないので注意!)
最後に『名探偵のはらわた』についての総評ですが、実際にあった事件をモチーフにした事件&犯人ということもあって、まるで過去の犯罪者のifストーリーを見ているような気持ちになる作品でした。
モチーフとなった事件の知識を持った上で読んでみるとより一層楽しめる作品だと思いますので、本作を購入した際はぜひ試してみてください!
また、ファンタジックな設定を含んだ作品ではありますが、文章も読みやすい上に納得のいく推理、細かに散りばめられた伏線と鮮やかな伏線回収と作者の巧みな手腕が現れており、単なる特殊設定頼りの変わり種では終わらないクオリティを持った作品に仕上がっているのも見事です。
その他、先にもお伝えした通り白井智之さんの他作品と比べるとグロ描写は控えめですので、グロが苦手な方や、ちょっとグロ描写がある作品にも挑戦してみようという方にもおすすめです。
少しでも気になっていただけたなら、ぜひ手に取ってみてください!
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