VRミステリーゲームの試遊会で“館”に招かれた登場人物たちが、生死を賭けてVR空間と現実で起きる殺人事件の謎に挑む、謎解きと特殊設定が入ったミステリです。
「2020年SRの会ミステリーベスト10」第1位に選出されている前作『孤島の来訪者〈竜泉家の一族〉』シリーズの続編という位置付けではあるものの、最初に登場人物の自己紹介が載っているため、本作から読んでも十分楽しむことができます。
通常のクローズドサークルものと異なり、VRミステリーゲーム世界と現実世界の二重のクローズドサークルで殺人が起きるという凝った設定となっており、斬新かつ本格的なミステリーを楽しむことができるというのが一つの魅力となっています。
しかし特殊な状況で、登場人物たちの主張は互いに矛盾を抱えていて、同じ事件から受ける彼らの印象も一致しません。
穏やかな幕開けが一転して殺戮ゲームへと変貌を遂げる恐ろしい展開や、瞬きを忘れる程に引き込まれる密室劇、8名の『素人探偵』たちの推理合戦で新たな事実が次々と明らかにされるなど、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。
推理がどこまで正しいのかもわからないまま主人公の主観で物語は動いていきますが、それでも読み進めていく中で徐々に驚きの背景や真実が浮かび上がってきます。
最後に明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの設定を生かした強烈なトリックに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
読み進めるにつれて緻密で秀逸な舞台設定に翻弄される
ページを開いた瞬間、細かい目次をめくると舞台となる場所の見取り図が飛び込んできたと思いきや、登場人物の紹介を挟み、物語は『マイスター・ホラの序文』からはじまります。
『これから語られるのは「ゲーム」と「探偵」の物語です。』の一節から始まる本作は、最後に『「読者への挑戦」でお会いしましょう』と締め括られており、小説の中で全てを提示し、読者に2回も謎を解かせるという展開になるため、序盤からミステリー本来のワクワクする気持ちを感じることでしょう。
しかし穏やかな幕開けを迎えるはずだったイベントは一転、家族や恋人など大切な人を人質に殺人事件の真相解明を迫られ、間違えると死が待ち受ける緊迫感溢れる展開、VR空間と現実世界の両方で起きる殺人事件、常に死と隣り合わせの状況は迫りくる恐怖があり、真の結末までたどり着くまでの描写にハラハラドキドキの連続が続くこと間違いなしです。
特殊設定を違和感なく取り込んでおり、真相解明までの道のりも非常に困難なものとなっているので最後まで油断することはできません。
精神的に追い込まれながらも事件の背景には悲劇的な要素もあるので、終盤は胸が痛い気持
ちも抱えながらページをめくることになります。
読み進めるにつれて凄惨で緊迫感のある描写に呑み込まれていき、最後の盛り上がりが特に凄まじいので本格ミステリーの結晶のような世界観に呑み込まれていくような面白さを感じられます。
本格推理小説としての面白さと独特の雰囲気
生きて帰れるにはVR空間と現実での殺人ゲームを解明するしかないという、追い詰められた状態で挑むタイプの本格推理小説となっており、読み進めると話に振り回されるような楽しさを感じることでしょう。
8名の『素人探偵』たちそれぞれの主張を読み進めていくことで初めて、その人たちがどういった立場なのかを徐々に知ることが出来るようになっています。
そして様々な条件から、逃げ出すことは許されない心理的クローズドサークル展開となっており、ただ怖いだけではなく人工美が凝らされている表現も素晴らしいので、そのさじ加減は見事としか言いようがありません。
登場人物によって異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実に、読者は次々と翻弄されていくことになります。
「果たして犯人は誰なのか……」という謎に、読者は終始ハラハラさせられるというわけです。
こういった本格推理小説特有の雰囲気を、特殊設定のクローズドサークルミステリーと同時に味わえる“特殊推理ミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
特殊設定ミステリーを読みたいならコレ!
特殊設定によるクローズドサークルものとして出版されることとなった本作。
単話としても傑作なのでこちらから読むも良し、シリーズならではの楽しみもあるので1,2作目の『時空旅行者の砂時計』『孤島の来訪者』を読んでからこちらを読むのも良し。
こちらの3作目はすでに特殊推理ミステリーの決定版として絶大な評価を得ており、推理小説や特殊設定もの、ミステリーに興味がある方にとってはもはや必読の小説と言っても過言では無いでしょう。
あまり特殊設定ものには興味を持ってこなかった、という方は読むのに躊躇するかもしれません。が、それは非常にもったいないです!
むしろ、この本を読むことによって特殊設定ミステリの面白さに目覚めることができるかもしれません。
特殊設定ものに興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“本格推理小説としての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。
物語の凝った内容構成、推理を進めることで明らかにされる意外な真相、それらの真実すら飲み込む真の結末。
単純にミステリー好きの方、特殊設定ミステリーデビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるミステリーを読みたい方など、ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないです。
出版されたばかりのこのタイミングで、ぜひ一読してみてください!

